第二十七話 土曜日の通り雨【一】
追記、訂正しました。
夢乃真夏は、兄の神姫と一緒に学校の玄関で空を見上げた。
真っ黒な雲が広がり、さっきまでの青空は消し去られている。
黒い雲が学校の上空を支配して湿ったジトジトした風が妹の真夏の頬を撫でる。
「ヒメちゃん、今日のお天気、ダメね」
「真夏、ちょっと、先生探してくるから、待ってくれる」
「分かったわ。早く戻って来てね」
「すぐ、戻るよ」
夢乃神姫は、学校の廊下を小走りに急いで職員室に向かった。
「ヒメ、そんなに急いでどうした」
前から歩いて来た昼間夕子先生が神姫に声を掛ける。
後ろには、朝霧美夏先生と星乃紫先生がいた。
「あっ、先生、すみません」
「急用でもあるのか?」
「いいえ、天気が怪しくて」
「そうだな、今日の神社は無理だな」
神姫は廊下の窓を見ながらどんよりした空のように肩を落とした。
「ヒメ、高校球児が甲子園で敗退したような表情して、どうした」
「ちょっと、がっかりして」
「じゃ、今日は先生たちと本屋のカフェにでも寄るか。どうだ」
「いいんですか」
「あそこなら、雨も心配しないで済む。
ーー 先生たちも、大丈夫ですね」
「私たちは、問題ないわよ」
朝霧美夏が神姫を見ている。
星乃紫は夕子の提案に頷いた。
「真夏ちゃんは、どうした?」
「学校の玄関にいますが」
「じゃあ、真夏ちゃんを拾って本屋に行こうか」
土曜日の待ち合わせは天候悪化で消えたが、夕子にしてみれば状況は同じだった。
玄関で夢乃真夏が、空を眺めている。
「真夏、先生と一緒に行こう」
「どこへ?」
「待ち合わせ場所だよ」
「真夏ちゃん、一緒だから待ち合わせにならないけどね」
昼間夕子と他の二人の先生が笑っている。
「昼間先生、雨が降り出す前に急いで移動しましょう」
朝霧が切り出す。
夕子たちが、書店のあるビルに入ると雷鳴が聞こえ雨が降り出した。
「いや、ギリギリセーフだった。
ーー 本当、朝霧先生のお陰ね」
三人の先生は生徒の前では前世名を使わないことにしていた。
「昼間先生も機転が早かったわよね」
「昔から逃げ足が早い方でな」
夕子は、男口調で答えて苦笑いをしている。
三人の先生と二人の生徒はエスカレーターで二階の古典コーナーに寄った。
「昼間先生!」
「なんだ、日向じゃないか」
「先生たちこそ大勢で本屋ですか」
「いやな、天候が悪くてお参りやめてここにしたんだよ。
ーー 日向も、一緒にどうだ」
「いいんですか」
「日向も部員じゃあないか。問題ないわ」
日向黒子は、三人の先生の顔色を伺っていた。
朝霧が答える。
「今、外は通り雨だから雨宿りが必要よ」
星乃も付け加える。
「今の時間は占いでは、よくないわね」
結局、三人の教師に説得される形で日向黒子もカフェのメンバーに加わる。
「日向、ちょっと先生、本見てくるから待ってくれ」
「先生、大丈夫です。参考書を見てますから」
「そうか、助かるよ」
昼間夕子は、自分の本の売り上げを見に行く。
書店のランキングが気になって実店舗でエゴサーチをしている。
他の作家もエゴサをしているのかと思うと笑いが込み上げた。
「昼間先生、楽しそうね」
「朝霧先生、ここに来るのが楽しみでな。
ーー じゃあ、先生、用事済んだから、カフェに行こう」
夕子は頭の中で今月の印税を計算していた。
夕子にとっては印税の方が教員の所得より多かった。
「昼間先生、大丈夫ですか?」
「いや、心配ないよ、星乃先生、あはは」
夕子は自身の狸の皮算用を笑って誤魔化した。
六人は、カフェに入り窓の近くの席に着いた。
カフェの窓ガラスに稲妻の光が反射して雨が叩きつけている。
時より雷の轟音がなって他の客たちが驚きの声を漏らしていた。
[ゴロゴロ、バーン]
[キャー]
「先生、雷って大嫌い」
「日向、先生も雷は不気味だから苦手だな」
「ヒメ、今、何時かな」
「昼間先生、午後三時です」
「そうか」
夕子は両手を上げ大きな背伸びをして真夏を見た。
真夏は頬杖をして外の雨をじっと眺めていた。
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三日月未来




