第一話 かぐや姫と三日月姫
この小説のジャンルはローファンタジーです。
ライトノベルとして連載しています。
この1話は2025年12月25日に加筆しました。
※関連作品【女子高生は大統領】も同じ学園を舞台にしています。
みかづきみらい
プロローグ
三日月姫の姉妹は、従者と十二人の巫女を従えて神社の朱色の大鳥居をくぐった。
塵一つ無い石畳の参道が輝いている。
広い境内の参道の中央に到着した双子姉妹の艶のある長い黒髪が風に靡く。
中央の石畳の参道を挟んだ両脇の玉砂利の上に、薄桃色装束の巫女が六人ずつ並んだ。
三日月姫姉妹の背後に従者未来の姿があった。
双子姉妹の一人が振り返り、従者未来の耳元で囁いた。
未来は、姫に目配りの合図を大きな瞳で応えて、声高らかに巫女の名前を順に呼んだ。
「如月」
「弥生」
「皐月」
「桃」
「桜」
「椿」
「菖」
「楓」
「菊」
「霞」
「涼」
「橘」
薄桃色装束の十二人の巫女は朱色袴に両手を軽く添え持ち上げ動き出した。
玉砂利の音が神社の境内に響く。
十二人の巫女が三日月姫姉妹の前に進み一列に並ぶ。
境内の空が紫色の不気味な雲で覆われ風が境内につむじ風を上げる。
従者の未来が三日月姫姉妹に寄り添って紫色の空を見上げ睨んだ。
神社の境内に雷鳴が轟き神殿の屋根が明るくなった。
雨は降らない。
境内に紫色の霧が降り薄っすらと立ち籠める。
大きな金色の光が金粉となって境内に降り注いだ。
三日月姫姉妹の真っ白な着物の金色の刺繍模様と藍色の袴が光に輝いている。
従者未来の紺色の着物と灰色の袴も光に浮かび上がる。
眩しく無い強い光に言葉を飲み込む巫女たちは、身動きをせず視線だけが石畳の上に輝く光に釘付けになった。
十二人の巫女は無言の祈りを無詠唱で捧げ、結界を張り巡らせたのだが・・・・・・。
金色の光は徐々に小さくなって、時より強くなった。
中央にいた三日月姫姉妹と従者の未来の三人を金色の光が呑み込むように包み込んだ。
十二人の巫女は咄嗟に大きな声で姫の名前を一斉に呼んだ。
「かぐや姫さま・・・・・・ 」
三日月姫姉妹のひとりは“かぐや姫”と巫女たちの間で呼ばれていた。
三人が光に包み込まれ、神聖神社の境内から消えた刹那、境内の風が止み霧が晴れる。
境内に残された巫女たちの声だけが神聖神社の神殿に反響していた。
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第一話 かぐや姫と三日月姫
神社の玉砂利の道を進むと巨大な朱色の大鳥居が見えた。
一礼をしてくぐり抜ける時に聞こえた。
『見つけてーー 見つけて・・・・・・ 』
何かの声が昼間夕子の耳元で囁く。
眠りに落ちる前に聞き覚えのある声を聞くことが度々あった。
無意識が暴走しているのかもしれないと夕子は考えたが・・・・・・。
その声はテレパシーの様に頭の中からハッキリと聞こえている。
『見つけてーー 見つけて・・・・・・ 』
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昼間夕子は高校の古典教師をしている。
その傍ら、三日月未来という名前でファンタジー小説の作家をしていた。
代表作に、かぐや姫は帰らないという小説があった。
大昔から夕子の家では『かぐや姫との契り』が口伝で親から子へと伝えられていた。
⬜︎⬜︎⬜︎
高校教師として赴任した知らない町を夕子は訪れ周囲を見回した。
黒髪のロングヘアを靡かせて、白い大きな襟のシャツに白いタイトスカートに黒いストッキングで歩いた。
女性教師に見えない容姿はモデルと間違えるほどに美しく輝いてる。
上下白のスカートスーツの足元は朱色のハイヒールが輝いている。
颯爽と歩く夕子がファッションモデルそのものだ。
夕子のオーラにすれ違う男女が振り返る。
人気作家、三日月未来と気付く人はいない。
売れっ子のステルス作家である夕子の素顔を知る人は出版会社の関係者だけだった。
「ヒソヒソ・・・・・・ 」
「モデルかな・・・・・・ 」
通りすがりに耳元に聞こえている。
いつもの囁き声。
夕子は慣れていた。
⬜︎⬜︎⬜︎
私立神聖女学園へ通じる大通り沿いの街路樹の歩道は、赤茶色のレンガが敷き詰められている。
風で流された桜の花びらが夕子の白いジャケットに落ちた。
沿道の途中にある大きな書店の自動扉を通り中に入った。
夕子は古典のコーナーを探し店員に尋ねた。
「三日月先生の本は、上の階のーー 」
夕子は店員に礼を伝え、エスカレーターを上がった。
左手の突き当たりを左に進んだ。
高校の古典参考書がずらりと並んでいる本棚が夕子の目に入る。
同じ頃、春から私立神聖女学園に入学する日向黒子も同じ書店内で探しものをしていた。
黒子はブルージーンズの上に黄色のシャツを着てスニーカーを履いている。
左肩には紺色のトートバッグを掛けていた。
黒子は、三昭堂の古典シリーズの赤いジャケットの参考書に手を伸ばした。
隣にいたすらっとしたサングラスの女性の手とぶつかり驚いて手を引く。
薄いピンクのサングラスの女性。
「あら、失礼・・・」
日向黒子は反射的に手を引いた。
「すみません」
「気にしないでーー ところであなた、竹取物語に興味あるの」
黒子が触れた赤い本の表紙には『竹取物語』と書かれていた。
「はい、三日月未来の小説かぐや姫に興味があって・・・・・・ 」
黒子は、このサングラスの女性が三日月未来本人とは知らない。
「私も春から神聖女学園で古典を教える予定よ、偶然ね 」
「私も、春から神聖女学園に入学します 」
サングラスの女性はメガネを外して、微笑みながら黒子を見て黒子の前に右手を差し出した。
「昼間夕子だ。よろしく 」
いきなり男口調に変わる夕子にびっくりする黒子だったが・・・・・・。
「はい、昼間先生よろしくお願いします、日向黒子です 」
「じゃあ、入学したら学校で会おう 」
「はい、先生 」
⬜︎⬜︎⬜︎
私立神聖女学園は、桜並木の街路樹の端を進んだ先のやや小高い丘の上にあった。
中世のお城を彷彿させる校舎から”女神学園”と町では呼ばれ親しまれている。
教師と学校関係者のすべてが女性で男性は一人もいない。
学校警備も女性で女人禁制時代のお寺の真逆な風変わりなスタイル。
学校理念は文武両道で生徒や教師の武芸レベルは高く、剣道部はインターハイの常連だ。
超能力クラスでは、高いスキルを保有する能力者同士が多く在籍している。
神聖女学園は入学試験の学力より“面接と紹介”を重視する校風だ。
殆どの生徒は世襲を踏襲して通学していた。
理事長の海神一美は生徒の“潜在能力と人間性”を重視した。
次世代に相応しい人間教育を考えている。
一美のスキルには、生まれながらの【心眼】と【未来予知】があった。
三十八歳の一美には十六歳の娘の海上美香がいる。
美香は神聖の超能力クラスに在籍していた。
占い部に在籍する美香のスキルは【霊聴】と【霊視】だ。
⬜︎⬜︎⬜︎
ゴールデンウィークが過ぎた頃のある日の午後。
紺色のスカートスーツに白いシャツの昼間夕子は学校の中庭のベンチに腰掛けていた。
隣には真新しい神聖の制服姿の日向黒子がいた。
「日向、学校、慣れたか 」
いきなりの男口調の夕子。
「はい、昼間先生 」
「部活は、帰宅部か 」
「はい、今のところ・・・・・・ 」
夕子は躊躇いながら続けた。
「今日は、お願いがあるんだ 」
「お願いって何ですか先生・・・・・・ 」
「実は、文芸部が定員割れで困っているーー 日向に入ってもらいたい 」
「私のような者が入れるのですか 」
文芸部は成績上位者ばかりと言う噂を黒子は聞いていた。
「君の成績は学年で上位だから、十分な条件を満たしている。問題ない 」
「ありがとうございます昼間先生 」
「明日、入部届けの申し込み用紙を渡す 」
「はい 」
「今日と同じ時間にこのベンチに来てくれないか 」
「よろしくお願いします 」
黒子は夕子の古典の授業が面白いと思っていた。
躊躇うことなく心が順応した。
夕子のオーラの強さに惹かれる生徒は多い。
五月晴れの午後の心地良い風が二人の顔を撫でた。
⬜︎⬜︎⬜︎
昼間夕子と日向黒子の本屋での最初の出逢いから約一年が過ぎた。
日向黒子は二年生になった。
担任教師が二年B組の教室の引き戸を開けた。
昼間夕子が教壇の前に立った。
クラス委員の黒子が起立の号令をかけ、生徒たちが一斉に立ち上がる。
「礼、着席 」
[ザワザワ・・・・・・ ]
「今日は、みんなに大事な話がある 」
[ザワザワ・・・・・・ ]
「多分、噂で知っていると思うが・・・・・・ 」
昼間はいつもの男口調で説明を続けた。
「私立神聖女学園は女学園としての歴史を刻んで来た 」
夕子は続けた。
「例外に漏れず我が校の置かれている状況は厳しい 」
[ザワザワ・・・・・・ ]
「昨年の秋、理事長の決断で男女共学に移行することが決まった 」
[ザワザワ・・・・・・ ]
「ここまでは昨今よくある話で特別な事ではない 」
生徒たちが夕子をじっと見た。
「問題は春に男子生徒が入学するのを契機に学園の名称が変わるはずだった 」
[ザワザワ・・・・・・ ]
共学移行で名称が変更することは珍しいことではないと言って夕子は言葉を切った。
「来月から、この学校は男女共学となる。みんな知ってるね 」
「春休みを境に・・・・・・ 学校の名称が変わる筈だった 」
夕子は呟くように繰り返した。
「四月からは、私立神聖女学園でなく”私立神聖学園“となる予定だった・・・・・・ 」
[ザワザワ・・・・・・ ]
「手違いもあって名称変更は見送られ、女学園のまま入学式を迎える 」
理事長の強い意向が働いた。
「新入生の男子生徒が校門でキョロキョロしていたら、君らがサポートしてやってくれ 」
[ザワザワ・・・・・・ ]
「名称は女学園でも・・・・・・。共学という説明を加えてやってくれ 」
クラス委員の日向黒子が手を上げた。
「先生、質問です 」
「日向さん、どうぞ 」
「男子生徒は多いのですか? 」
「正確な人数は把握していないが、かなり少ないと聞いている 」
[ザワザワ・・・・・・ ]
「男子生徒は血縁者が当校出身者か紹介で選ばれた者だ 」
「杞憂は不用だ 」
夕子の長い説明が続く。
「君たちの学年は転校生が入って来ない限り、女子校時代と変わらないから心配ない 」
生徒たちの賑やかな笑い声が教室に響いた。
「他に質問なければ今日のホームルームを終了しよう 」
担任の昼間夕子は二十四歳の古典教師で文芸部の顧問をしていた。
日向黒子も夕子に勧誘されて、今は文芸部員。
⬜︎⬜︎⬜︎
昼間夕子の母は有名な女流作家で、父は漫画家だった。
両親は出版社の仕事が接点になって結婚したと夕子は聞いている。
父の功と母の輝子から生まれた夕子は、好奇心旺盛な子に育った。
⬜︎⬜︎⬜︎
夕子は幼い頃、ドラマやアニメのストーリーを見ては母の輝子に疑問をぶつけていた。
「なんで、ハッピーエンドしないの、つまらない! 」
「夕子は、どうしたいの? 」
「みんなが喜ぶ楽しい物語じゃないと嫌なの 」
母の輝子は優しい口調で夕子に説明した。
「じゃ夕子がね、御伽噺を書くといいよ 」
「うん・・・・・・ 」
「たとえばね、かぐや姫の続きとかどう? 」
「・・・・・・ 」
「夕子が好きなように楽しい物語を書けば、いいんじゃない 」
「うん、そうするーー かぐや姫の続きを書きたい 」
昼間夕子は時より子ども時代の話を文芸部員に話していた。
(物語の続きを見たいなら物語を書けば良いと・・・・・・ )
⬜︎⬜︎⬜︎
夕子のスキルには前世記憶があった。
人には言えない重大な秘密を隠していた。
前世記憶を持つ子どもは珍しくない。
夕子の場合が特殊だった。
夕子は子どもの頃からかぐや姫を心から愛している。
夕子の中では竹取のかぐや姫の従者としての記憶が昨日のように生きていた。
かぐや姫が月には帰っていない。
夕子が思っていたのではない。
夕子は『かぐや姫』の真実を知っていただけ。
そして従者である夕子とかぐや姫が離れることはないと言うことも・・・・・・。
従者とかぐや姫は何度生まれ変わっても、同じ時間を生きるのだから・・・・・・。
従者が生まれ、かぐや姫が生まれる永遠の時の流れは大昔より変わることがなかった。
⬜︎⬜︎⬜︎
誰もいない文芸部の部室に戻った夕子に、神社の大鳥居で聞こえていたあの声が聞こえた。
『見つけて・・・・・・契り・・・・・・ 』
夕子が振り返っても、そこには誰もいない。
どうも空耳じゃないと思った夕子は家に伝わる口伝を思い出す。
「かぐや姫との契り 」
心の中でつぶやいた。
『契り、契り、契り 』
また聞こえた。
夕子は神棚に向かって三礼三拍手の三礼祈願で祈りを捧げた。
夕子の中で何かが大きく動き始めた。
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三日月未来




