第一話 かぐや姫と三日月姫
この小説のジャンルはローファンタジーです。
ライトノベルとして連載しています。
※関連作品【女子高生は大統領】も同じ学園を舞台にしています。
みかづきみらい
(2025年3月26日、第一話を加筆して分割しました。27日に修正しました)
プロローグ
三日月姫姉妹は、従者と十二人の巫女を従えて神社の朱色の大鳥居をくぐり広い境内の中央に到着した。
玉砂利の上に薄桃色装束の巫女が三日月姫の前に並んでいる。
姫は、従者未来の耳元で囁いた。
未来は、大きな声で巫女の名前を次々に呼ぶ。
「如月」
「弥生」
「皐月」
「桃」
「桜」
「椿」
「菖」
「楓」
「菊」
「霞」
「涼」
「橘」
十二人の巫女は赤い袴に両手を添えながら三日月姫姉妹の前に進んだ。
突如、境内の空が真っ暗な雲で覆われた。
従者未来が、三日月姫姉妹に寄り添って空を見上げる。
雷鳴が轟き雨は降らない。
境内が金色の光で満たされた。
金色の光は段々小さくなり強くなっている。
中央にいた双子姉妹の三日月姫と従者未来を包み込む。
十二人の巫女の大きな声が境内に反響した。
「かぐや姫さま・・・・・・ 」
姉妹のひとりはかぐや姫と呼ばれた三日月姫だった。
三人は光に包み込まれ、その場から消えた。
第一話 かぐや姫と三日月姫
神社の玉砂利の道を進むと巨大な大鳥居があった。
一礼をしてくぐり抜ける時だった。
『見つけて・・・・・・見つけて・・・・・・』
何かの声が昼間夕子の耳元で囁く。
眠りに落ちる前に聞き覚えのある声を聞くことが度々あった。
無意識が暴走しているのかもしれないと考えていたが・・・・・・。
その声はテレパシーの様に頭の中からハッキリと聞こえている。
『見つけて・・・・・・契り・・・・・・』
昼間夕子は高校の古典教師をしている。
その傍ら、三日月未来という名前でファンタジー作家をしていた。
代表作に、かぐや姫は帰らないという小説があった。
大昔から夕子の家では『かぐや姫との契り』が口伝で親から子へと伝えられていた。
高校教師として赴任した知らない町を訪れた。
夕子は黒髪のロングヘアを靡かせて歩いていた。
女性教師に見えない容姿はモデルと間違えるほどに美しく輝いてる。
上下白のジャケットにスカートで颯爽と歩く夕子はファッションモデルと見間違う。
そのオーラにすれ違う男女が振り返る。
人気作家、三日月未来と気付く人はいない。
売れっ子のステルス作家である夕子の素顔を知る人は出版会社の関係者だけだった。
「ヒソヒソ・・・・・・ 」
「モデルかな・・・・・・ 」
通りすがりに耳元に聞こえている。
いつもの囁き声。
夕子は慣れていた。
私立神聖女学園へ通じる大通り沿いの街路樹。
桜並木から、時より花びらが風で流され夕子のジャケットに落ちた。
沿道の途中にある大きな書店の自動扉を通り中に入った。
夕子は古典のコーナーを探した。
エスカレーターを上がった左手の突き当たりを左に進んだ。
高校の古典参考書がずらりと並んでいる本棚が夕子の目に入る。
同じ頃、春から私立神聖女学園に入学する日向黒子も同じ書店内で探しものをしていた。
黒子は、三昭堂の古典シリーズの赤いジャケットの参考書に手を伸ばした。
隣にいたすらっとしたサングラスの女性の手とぶつかり驚いて手を引く。
薄いピンクのサングラスの女性。
「あら、失礼・・・」
日向黒子は反射的に手を引いた。
「すみません」
「気にしないでーー ところであなた、竹取物語に興味あるの」
黒子が触れた赤い本の表紙には『竹取物語』と書かれていた。
「はい、高校に入学予定で、三日月未来の小説かぐや姫に興味があって・・・・・・ 」
黒子は、このサングラスの女性が三日月未来本人とは知らない。
「私も春から神聖女学園で古典を教える予定よ、偶然ね」
「私も、春から神聖に入学します」
サングラスの女性はメガネを外して、微笑みながら黒子を見た。
「昼間夕子だ。よろしく」
いきなり男口調に変わる夕子にびっくりする黒子だったが・・・・・・。
「はい、昼間先生よろしくお願いします、日向黒子です」
「じゃあ、入学したら学校で会おう」
「はい、先生」
私立神聖女学園は、桜並木の街路樹の端を進んだ先のやや小高い丘の上にあった。
中世のお城を彷彿させる校舎から女神学園と町では呼ばれていた。
教師と学校関係者のすべてが女性で男性は一人もいない。
学校警備も女性で女人禁制時代のお寺の真逆なスタイルだ。
学校理念は文武両道で生徒や教師の武芸レベルは高く、剣道部はインターハイの常連だった。
超能力クラスでは、高いスキルを保有する能力者同士が多く在籍している。
神聖女学園は入学試験の学力より面接と紹介を重視する校風だ。
殆どの生徒は世襲を踏襲して通学していた。
理事長の海神一美は生徒の潜在能力と人間性を重視した。
次世代に相応しい人間教育を考えている。
一美のスキルには、生まれながらの【心眼】と【未来予知】があった。
三十八歳の一美には十六歳の娘の海上美香がいる。
神聖の超能力クラスに在籍していた。
占い部に在籍する美香のスキルは【霊聴】と【霊視】だ。
ゴールデンウィークが過ぎた頃のある日の午後。
昼間夕子と日向黒子は学校の中庭のベンチに腰掛けていた。
「日向、学校、慣れたか」
いきなりの男口調の夕子。
「はい、昼間先生」
「部活は、帰宅部か」
「はい、今のところ・・・・・・」
夕子は、ちょっと躊躇いながら続けた。
「今日は、お願いがあるんだ」
「お願いって何ですか・・・・・・」
「実は、文芸部が定員割れで困っている。
ーー 日向に入ってもらいたい」
「私のような者が入れるのですか」
文芸部は成績上位者ばかりと言う噂を黒子は聞いていた。
「君の成績は学年で上位だから、十分な条件を満たしている。問題ない」
「ありがとうございます」
「明日、入部届けの申し込み用紙を渡す」
「はい」
「今日と同じ時間にここに来てくれないか」
「よろしくお願いします」
黒子は夕子の古典の授業が面白いと思っていた。
躊躇うことなく心が順応した。
夕子のオーラの強さに惹かれる生徒は多い。
五月晴れの午後の心地良い風が二人の顔を撫でた。
昼間夕子と日向黒子の本屋での最初の出逢いから約一年が過ぎた。
日向黒子は二年生になった。
担任教師が二年B組の教室の引き戸を開けた。
昼間夕子が教壇の前に立った。
クラス委員の黒子が起立の号令をかけた。
生徒たちが一斉に立ち上がる。
「礼、着席」
[ザワザワ・・・・・・]
「今日は、みんなに大事な話がある」
[ザワザワ・・・・・・]
「多分、噂で知っていると思うが・・・・・・ 」
昼間はいつもの男口調で説明を続けた。
「私立神聖女学園は女子校としての歴史を刻んで来た」
夕子は続けた。
「例外に漏れず我が校の置かれている状況は厳しい」
[ザワザワ・・・・・・]
「昨年の秋、理事長の決断で男女共学に移行することが決まった」
[ザワザワ・・・・・・]
「ここまでは昨今よくある話で特別な事ではない」
生徒たちが夕子をじっと見た。
「問題は春に男子生徒が入学するのを契機に学園の名称が変わるはずだった」
[ザワザワ・・・・・・]
共学移行で名称が変更することは珍しいことではないと言って夕子は言葉を切った。
「来月から、この学校は男女共学となる。みんな知ってるね」
「春休みを境に・・・・・・ 学校の名称が変わる筈だった」
と繰り返した。
「四月からは、私立神聖女学園でなく私立神聖学園となる予定だった・・・・・・ 」
[ザワザワ・・・・・・]
「手違いもあって名称変更は見送られ、女学園のまま入学式を迎える」
理事長の強い意向が働いた。
「新入生の男子生徒が校門でキョロキョロしていたら、君らがサポートしてやってくれ」
[ザワザワ・・・・・・]
「名称は女学園でも・・・・・・。共学という説明を加えてやってくれ」
クラス委員の日向黒子が手を上げた。
「先生、質問です」
「日向さん、どうぞ」
「男子生徒は多いのですか?」
「正確な人数は把握していないが、かなり少ないと聞いている」
[ザワザワ・・・・・・]
「男子生徒は血縁者が当校出身者か紹介で選ばれた者だ」
「杞憂は不用だ」
夕子の長い説明が続く。
「君たちの学年は転校生が入って来ない限り、女子校時代と変わらないから心配ない」
生徒たちの賑やかな笑い声が教室に響いた。
「他に質問なければ今日のホームルームを終了しよう」
担任の昼間夕子は二十四歳の古典教師で文芸部の顧問をしていた。
日向黒子も昼間に勧誘されて今は文芸部員。
昼間夕子の母は有名な女流作家で、父は漫画家だった。
両親は出版社の仕事が接点になって結婚したと夕子は聞いている。
父の功と母の輝子から生まれた夕子は好奇心旺盛な子に育った。
夕子は幼い頃、ドラマやアニメのストーリーを見ては母の輝子に疑問をぶつけていた。
「なんで、ハッピーエンドしないの、つまらない!」
「夕子は、どうしたいの?」
「みんなが喜ぶ楽しい物語じゃないと嫌なの」
母の輝子は優しい口調で夕子に説明した。
「じゃ夕子がね、御伽噺を書くといいよ」
「うん・・・・・・ 」
「たとえばね、かぐや姫の続きとかどう? 」
「・・・・・・ 」
「夕子が好きなように楽しい物語を書けば、いいんじゃない」
「うん、そうする。かぐや姫の続きを書きたい」
昼間夕子は時より子ども時代の話を文芸部員に話していた。
(物語の続きを見たいなら物語を書けば良いと・・・・・・)
夕子のスキルには前世記憶があった。
人には言えない重大な秘密を隠していた。
前世記憶を持つ子どもは珍しくない。
夕子の場合が特殊だった。
夕子は子どもの頃からかぐや姫を心から愛している。
夕子の中では竹取のかぐや姫の従者としての記憶が昨日のように生きていた。
かぐや姫が月には帰っていないと夕子が思っていたのではない。
夕子は『かぐや姫』の真実を知っていただけ。
そして従者である夕子とかぐや姫が離れることはないと言うことも・・・・・・。
従者とかぐや姫は何度生まれ変わっても、同じ時間を生きるのだから・・・・・・。
従者が生まれ、かぐや姫が生まれる永遠の時の流れは大昔より変わることがなかった。
誰もいない文芸部の部室に戻った夕子に、神社の大鳥居で聞こえていたあの声が聞こえた。
『見つけて・・・・・・契り・・・・・・』
夕子が振り返っても、そこには誰もいない。
どうも空耳じゃないと思った夕子は家に伝わる口伝を思い出す。
「かぐや姫との契り」
心の中でつぶやいた。
『契り、契り、契り』
また聞こえた。
夕子の中で大きく聞こえていた。
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三日月未来