第捌ノ巻 疲労の放課後
なんやかんやあっての久しぶりの更新です。
ただ久しぶりだったためかキャラを忘れていたり、感覚が分からなくなっている……いかんいかん
「昌享!早く!」
「待ってよさか……じゃなかった、咲ぃ……」
無事に仕事を終えた翌日の放課後。
昌享と咲の姿は正門付近にあった。
咲は久しぶりに街中に行くという事ではしゃいでいるが、昌享は昨日の疲れが残っており半分グロッキー状態であった。
昨日……正しくは今日だが、帰ってきた昌享を待ち受けていた咲の伝言メッセージ。
全部聞き終え、寝床に入り込めたのは西の空が白み始めた頃で今現在は見事に寝不足である。
授業中も見事に睡魔に襲われ所々記憶がないが、先生の見回りや指摘の際には本日の付き添いである巽風と宵坎がフォローしてくれたおかげで何とか乗り切り、板書や授業の細かい内容については咲に聞けば何とかなるはずである。
気合で本日の学業は何とか乗り切ったが、さすがにこれからの買い物はかなりつらそうである。
『昌享、咲が行っちまうぞ』
『……ファイト』
「んなこと言ったって……ハァ……」
後ろからの巽風と宵坎の言葉に昌享は盛大に溜息をついた。
気がつけば咲との距離がだいぶ開いている。
嬉しくて思わず歩調がいつもより速い咲と疲れて足が動かない昌享が共に歩けばこうなっても仕方がない。
「……宵坎、これから咲についていてくれないか?」
『……分かった』
少し悩んで昌享は宵坎に咲の元につくように命じると宵坎は頷き咲の元へと駆けてゆく。
そのあとを追う様に昌享もまた歩みを進めると残った巽風が声を掛けてきた。
『いいのか?』
「俺か誰かが咲のそばにいなきゃなんないんだろ?」
宵坎が咲のそばにつくのを確認しながら巽風の質問に昌享は答えた。
何故かは知らないが咲は何かと人外の存在に狙われやすい体質らしく、力のある者が傍にいないと命の危険があるため咲の傍には常に昌享かソウ、神将の誰かが付いている。
別に出るなと強制はしていないのだが、咲はそんな昌享たちを気にして外出する機会は少なく、特に最近は昌享の仕事がきつくなってきたこともありいつも以上に自粛していた。
今になって思えば最近、咲が外出する機会はせいぜい通学の時間でだけであり、今回の買い物も久しぶりであるはずだ。
「無理しなくていいのに……」
そんな事を言いながら昌享は初めて咲と一緒に出かけた時の事を思い出した。
その時は確か咲の体質の事について咲の祖母から昌朗に相談があった時で、その時はまだお互いに緊張していて、見かねた昌朗がせっかくだからと一緒に出かけるように提案した。
そこまで思い出して昌享は急に足を止めた。
『昌享?』
突然足を止めた昌享に巽風は声を掛けるが、昌享の反応はなかった。
深く考え込む昌享の顔の前で巽風は手を振るが反応がない。
巽風は昌享の肩を叩こうとした次の瞬間―――――
「うりゃあああああああああああ!!」
「おぶっ!」
謎の声と共に昌享は呻きをあげ地面へと倒れ込んだ。
いきなりの出来事に神将である巽風も何が起こったのか理解できず、その出来事に下校途中の生徒の視線が集まる。
一方、顔面をしたたかぶつけた昌享は顔を押さえながら無言で自分の背中に抱きついている人物の首根っこを起用に掴み引きはなす。
こんな事を普通にするのは一人だけ……
「す~ず~……」
昌享はドスの利いた声と共に鈴を睨みつける。
しかし、鈴はその睨みがなんのそのといった様子で、笑顔で話しかけてくる。
「こんなところでぼーっと立てちゃだめだよ~、マー君!」
「だからって後ろから飛びつくな!後、その呼び方もいい加減やめろ!」
「別にい~じゃん!それにマー君はマー君なんだし」
下校する他の生徒から冷たい視線で見られる中、昌享と鈴のいつものやり取りが始まった。
しかし、一方では二人のやり取りを面白そうに「また始まったぜ!」といった様子で見ながら話す生徒も……
「本当に仲がいいよなあの二人」
「陽野の奴め……」
これらの話からどうやらこのやり取りはもはや天学名物となりつつあるらしい。
話の内容がどんどん過激になって行く様子を『これでいいのか?』と巽風が考えていると騒ぎを聞きつけ咲が戻って来た。
「昌享!」
「咲……」
走って来たせいか少し息が上がった咲の呼びかけに昌享は我に返った。
鈴と絡むと無駄に熱くなる自分を反省しながら、昌享は深呼吸をして鈴を見る。
「これから飛びつくのは絶対止めてくれよ!」
「アイサー!」
昌享の指摘に鈴は敬礼付きで即答したが、その態度と笑顔に怪しいものを感じていた。
しかし、鈴相手にそこまで気にしていても意味がないので昌享は買い物に行くべく咲の方へと足を進める。
そして咲の前に行くと顔の前で手を合わせ頭を下げた。
「ごめん、待たせちゃって……」
詫びる昌享に対し、咲は首を振ると「大丈夫」と言い駅の方へと歩き出し、それに続くように昌享も足を進めた。
気分を一新し、買い物を楽しむべく街へと足を運ぶ昌享たちであった。
が―――――
「ちょーと、待ったー!」
大声と共に鈴は歩き出した二人の前を塞ぐ形で目の前に陣取った。
いきなりのことに咲は少しビックリした様子で鈴に声を掛ける。
「どうしたの信濃さん?」
昌享もまた咲の質問に頷くように鈴を見る。
「実は二人に話があるんだよね~」
「「話?」」
同じ反応をする昌享と咲に鈴は大きくうなずいた。
そしておもむろに街中の方を指差し言い放った。
「お見舞いに行かない?」
「「………………」」
いきなりの発言に二人の目は点になり、その場は静まり返った。
『誰のだ?』
『……さぁ?』
まるで何も言わず固まってしまった昌享と咲の気持ちを代弁するかのように巽風と宵坎は言うが、その声がただ人の鈴に聞こえるはずはない。
昌享は己が出来うる限りの力で気持ちの整理を終えると率直な一言を言った。
「……一体誰のだ?」
「もちろん忠のお姉さん!」
昌享が時間を掛けてやっと出した質問に鈴はサラリと返す。
忘れていたが忠の姉は昨日、昌享が倒した鎌鼬に襲われ意識を失い入院していた。
意識はさほどしてはいなかったが、鎌鼬を倒す事によって一応の敵討ちをしていたなと昌享は思った。
「でも、伊勢君のお姉さんは意識が戻っていないんじゃ……」
恐る恐る咲が聞くと鈴は首を振った。
「何か今日の午後に意識が戻ったみたい」
その話を聞いて昌享は納得した。
なるほど、睡魔に襲われていて今まで気がつかなかったが、午前中はいたはずの忠が午後いなかったのは意識が戻ったからか……
そこまで考えて昌享は鈴をジッと見た。
「ところでその情報は一体どこから……」
「秘密~!」
携帯が禁止されていて且つ携帯を持っていはずの鈴は一体どうやってそれらの情報を得ているのだろうか?
後、いまさらであるが鈴をよくよく見れば、鈴の肩には彼女が部活で使っている弓の入った袋が掛けてある。
どうやら部活をさぼる気満々でこの場に来たらしい……まったくもって鈴の情報網と行動は不思議かつ謎である。
それはさておき……
「でも、俺たちはこれから買い物の予定が……」
「大丈夫、大丈夫!入院しているのも市立病院らしいし、帰りによればいいよ」
昌享は鈴の言葉を頭の中で整理した。
確かに天埜市の市民病院は街中の一角にあり、近くには昌享と咲が行こうとしていた商店街もある。
確かに帰りに寄ろうと思えばできなくもない。
「でも……」
昌享は咲の事を考えやはり行けないと言おうとしたが、そこに咲が割って入った。
「行こう、昌享。私もお姉さんにはお世話になっているし……」
「いいのか?」
昌享の問いに咲は頷いた。
その表情は少し残念そうであったが、咲も忠の姉にはお世話になっている。
おそらくそういった点からお見舞いに行く事にしたのだろう。
昌享は少し悩んだのち鈴に頷いた。
「じゃあ、行くか」
「オーッ!」
昌享の答えに鈴は大きくガッツポーズをし、咲はその様子を見てクスリと笑った。
そして3人は忠の姉、伊勢 香のお見舞いをするため病院に足を向けたのであった。
本当は次の話とまとめてやりたかったのですが、無理そうなので分けました。
ここまで遅れた理由が気になる方は『はるな・その手に負いし咎の記憶』(R-15)を読んでみてください(ちゃっかり宣伝)
前書きでも書きましたが久しぶりなので感覚が取り戻せません!
なので次回の更新はいつになるやら……
そろそろキャラ紹介もした方がいいかと考えながら、今後のストーリーを考えている三ノ城でした。