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第漆ノ巻 主と式神、それぞれの役目

前回の更新から約二ヵ月……ごめんなさい。

その分、内容は長くなっています(グダグダの間(ry)

とりあえず今回で仕事(修行)が終了です!


ただ人には見えないように隠行した離蓮は、屋根の上から昌享たちが、向かった方角を見つめていた。

出ていってしばらくしてから、結界が張られるのを感じたが、ソウは間に合っただろうか?

もし、間に合わなかったとしても震電と巽風がいるから心配無いだろう。

そんなことをつらつらと考えていると、誰かが簀に出る気配がして目線を移すと、寝間着姿の咲が出てきた。

離蓮は少し呆れたように息をつくと、咲の方へ足を向け声をかけた。


「どうしたんだこんな夜中に?」


「あ、離蓮さん……」


「昌享からも早く寝るように言われていただろ」


「ごめんなさい。ただ、なかなか寝付けなくて……」


そう言うと咲は気まずそうに足を半歩引いてから、先ほどまで離蓮がしていたのと同じように昌享が向かった空に目を向けた。

その様子に離蓮もすぐに咎めるのをやめた。

「この程度で咲を不安させるようじゃ昌享もまだまだだな……」離蓮がそう考えていると急に眉をひそめた。


「離蓮さん?」


反応が無い事に気づいた咲が声をかけると、口元を緩めた離蓮が口を開いた。


「安心しろ無事に今回の目的は達成したみたいだ」


「…………」


離蓮の答えに咲は一瞬、喜びの顔を見せるがすぐに俯いてしまった。

やはり自身でその安全を確認したいのだろう。

離蓮はやれやれと言った感じで左手の上に拳大こぶしだいの火の玉を作り出すと咲に見せた。


「いつものをしておくか?」


「はい」


離蓮の提案に咲は喜んで飛び着いた。

そして離蓮のいう『いつもの事』をやると安心した様子で「お休みなさい」と言ってそのまま部屋に戻った。

戻ったのを確認すると離蓮は先ほどよりも少し大きくなった手元の火の玉を見た。


「早くこれを使わなくていいようになるといいのだが……まぁ、無理だろうな」


離蓮は諦め半分という感じでそう言うと、無造作に火の玉を空中に放り投げた。

すると火の玉は瞬く間に子犬ほどの大きさの炎獣へと姿を変え地面に降りると、昌享の部屋の前の庭に腰を下ろした。

その様子を確認し満月に向け満ちつつある月へと視線を移す。


「これで契約も成るな……召兌しょうだ




その頃、真空の刃によって鎌鼬ごと切り裂かれた地面の前に昌享は荒い呼吸をしながら大の字になって倒れていた。


「大丈夫か~?」


相変わらずの気の抜けたソウの声に昌享は首だけを動かし睨みつける。


「も、もう少し……別な言い方はないのか……」


「あんな、不完全な風神しか使えない奴に駆ける他の言葉はないねぇ~」


昌享の睨みがなんだという具合に軽く受け流すソウであるが、震電と巽風は感心した様子であった。


「でも今の昌享にしては上出来、だよな?震電」


「ああ、俺や巽風のサポートがあったとはいえあれだけの威力の真空の刃を放って、それだけ喋られれば上出来だ」


神将二人の反応にソウは驚いた様子で地面の亀裂に目をやった。

よく見れば深々とした地面の亀裂の近くで申し訳なさそうに鎌鼬の残骸が風に揺れていた。

何事もなくしばらくすれば、あの残骸も周囲の瘴気と共に消えるのであろう。


「……ま、お前らが言うならそれでいいさ」


「ありがとう」


一応ではあるがソウが認めてくれた事に安心した昌享は瘴穴を探すために起き上がろうと腕に力を込めた――――――――が。


「あれ?」


起き上がろうと腕に力を込めるが動かない。

何度も試すがピクリとも動く気配はなく、足なども試しに動かそうとするがこちらも同じく全く動かない。


「どうした昌享?」


「……!?」


そうこうしているうちに昌享の様子に気づいたソウが声をかけてきた。

昌享はしばらく自力で何とかしようと試みるが、結局無理だったので状況を知らせようとすると今度は言葉が出せない事に気づいた。

さすがにこれはやばいと感じ、死に物狂いで力を込め、なんとか声を出す事に成功した。


「……う、動け……ない」


『動けない』この言葉を出し切ると同時に昌享の視界は一気に暗転した。

震電と巽風が駆け寄ろうとするがソウはそれを制止し、そのままピクリとも動かなくなった昌享のそばにソウは近づいた。

顔の横に来ると無言のまま二、三度尻尾を振り様子を見る。

そして次の瞬間


「…………ホイッ」


ソウはブスリと気を失っている昌享の肩口に、先端を程よく尖らせた尻尾を突き刺した。

そして、二呼吸分ほどの間を開け絶叫が響いた。


「痛っだぁぁぁぁぁあああ!!」


その絶叫は結界を張っていなければ確実に近所迷惑になるレベルのもので、あまりの痛さのせいか昌享は飛び上がってからはその肩口を押さえる。

一方、ソウはそんな昌享の様子はどこ吹く風で周囲を見渡し一言。


「これで動けるだろ、ちゃっちゃと探すぞ~」


それだけ言うとソウはその姿をどこかへと消した。

姿を消したソウに何も言う事が出来なかった昌享はモゴモゴと口を唸らせ肩を落とした。


「もう少し優しく出来ないのかなぁ……」


昌享はそう言って肩口を押さえていた手を離した。

ソウが尻尾を突き刺した場所はあれほどの痛みを伴いながらも、傷どころか汚れ一つ付いていなかった。

先ほどのソウの行動は一種の治癒術で、ツボにソウの力を当てることで一時的に回復させるものであるが、効果は人それぞれで、ものすごく痛い。

しかし、それでも回復させてくれるのだからずっとありがたい。


「感謝の言葉くらい言わせてくれよ」


昌享は軽くため息をつくと震電と巽風の二人に視線を移した。

二人は先ほどのやり取りをただ静観していただけであったが内心どのように思っていたのだろう?

仮にも彼らの主である以上、こんなことでへたれているわけにはいかないのではないだろうか?

そんな考えが頭の中を横切るが今はそんな事を聞くわけにもいかず、二人に瘴穴の捜索を命じた。


「もう時間もないから見つけたら合図してくれ」


「分かった」


「りょ~かい」


震電は頷くとソウ同様に姿を消し、巽風は天高くへ飛び立っていった。

昌享自身も瘴穴を探すために身をひるがえすがふと鎌鼬を葬った場所へと目を向けた。


「髪の長い女か………」


鎌鼬が言った『髪の長い女』という言葉とその無念とも思われる鎌に後ろ髪をひかれつつ昌享はその場から駈け出して行った。




昌享たちが瘴穴を探し出してから10分ほどたったころ、結界内に細長い竜巻が立ち上った。

その場所は結界の中心から北側で、昌享が急いでその場に駆け付けると巽風が宙空に浮いて何かをしていた。


「どうしたんだ巽風?」


「ん?ちょっと連絡を……震電は遅れるから早く封印しておいてほしいって」


「震電が?」


巽風からの報告に昌享は意外な内容に首をかしげた。

震電は昌享が最初に召喚した神将で何かと自分の事を気にかけてくれる、よき兄と言う存在で今回の様な場合では必ず付いている。

最近は神将が増えてきたため一緒にいる事は少なくなってはいるが、それでも他の神将と比べると何かと一緒にいる事が多かった。


「大丈夫かな……」


そのため、何か問題を起こしても震電のおかげで何とかしのいできていたのが多かったので、思わず弱音が出てしまう。

そんな昌享の肩を巽風はバシッと叩いた。


「大丈夫!俺がいるからな!」


自慢げに胸をそらす巽風を見て昌享は目を座らせた。

確かに巽風とは震電に次いで付き合いが長くいつも助けてもらっている。

しかし……


「……やっぱり不安だなぁ~」


「おい!そりゃないだろ!」


一瞥してワザとらしくため息をつく昌享に巽風は一瞬、体制を崩しそうになったもののすぐに態勢を立て直し、突っ込みを入れた。

昌享は笑いながら「冗談、冗談」と言って巽風を落ち着かせ、目の前にあるそれに目を向けた。


「これが今回の瘴穴?」


「ああ、見事に開いているなこりゃ」


二人が見つめる先には一本の小さな水路があり、そのちょうど真ん中の中空に直径二メートルほどの黒い球体が浮かんでいた。

それこそ昌享達が探していた瘴穴であった。

瘴穴が出来初めのころはビー玉程の大きさであるが、それは日覆うごとに徐々に大きくなっていく。

最終的にどれほど大きくなるのかは分からないが、過去の記録によると3丈3尺(約10メートル)程の瘴穴を封印したとの記録もあるのでそれ以上かと思われる。

そんな瘴穴を前にして昌享は用意してきた道具を取り出すためコートの袖や内側をあさり始めた。

熟練者になればある程度の瘴穴を道具なしに封じることも可能らしいが、昌享には無理なので道具を使うのだが急にその手が止りボソリと一言。


「……場所が悪い」


瘴穴の封じ方は幾つかあるが基本的に瘴穴そのものを囲うのが基本で、昌享は八卦に則り八方を囲う方式をとっている。

しかし、今回瘴穴があるのは用水路の上にあり方角の決まりがあるので全ての点を押さえるのが難しい。

これまた熟練者なら何とかするのであろうが……

昌享は申し訳ないといった様子で巽風に目を向けた。


「巽風、悪いんだけど……」


「大丈夫、大丈夫。任せときな!」


そう言うと巽風は昌享が手にしている8つの独枯杵(とっこしょの内、5つを取ると空中へ放り投げた。


「まずは反対側!」


巽風がそう言った瞬間、空中に放り投げた独枯杵の3つが弾丸のように飛び、反対側の地面に突き刺さった。

昌享は反対側の3つの独枯杵の位置を確認しながら、3つの独枯杵を突き立てた。


「あとは……」


昌享が巽風を顧みると、巽風は目を閉じ二つの独枯杵を静かに風に乗せていた。

風に乗った独枯杵は、ゆっくりと用水路の上へと運ばれていく。


「あまり長くは持たないから一発で決めてくれよ」


「うん」


昌享は大きくうなずくと懐から光沢のある小石をひとつ取り出し、指の間に挟むと目をつぶり大きく深呼吸をして集中力を高める。


「我、八卦の力を統べるものなり……………」




昌享が封印を開始したころ、震電は先ほど昌享が鎌鼬を打ち倒したところにいた。

震電は真空の刃によって地面に出来た大きな亀裂をジッと見つめていた。

見つめるその視線の先には、鎌鼬の有一の名残ともいえる鎌が転がっているだけだったが、震電の手には青龍刀が力強く握られていた。


「やっぱあるじの力不足が気になりますかな?長男殿」


震電が声のした方へと視線を向けると、近くの木の上にソウが座っていた。


「主の失態を尻拭いするとは大変ですなぁ~」


他人事のようにソウはのんびりと話すが震電は特に気にしてはいない様子で、むしろその口元には笑みを浮かべていた。


「その尻拭いを昌享に気づかれない様に結界を張っているのはどこの誰かさんかな?」


「言ってくれるねぇ~」


震電の言う通りソウは先ほど瘴穴を探しに行くと見せかけその場にとどまり、周囲に昌享が張ったのと同種の結界を張っていた。


「まぁ、当初の目的は達成できたからいいんだけどなぁ」


軽口を叩きながらソウは視線を震電から別の方へとそらす。


「さすがにこいつを相手にさせるのはお前でも早すぎか?」


そう言って震電はソウの視線の先に目を向けた、そこには鎌を寄りしろに集まる瘴気の塊があった。

瘴気の塊はうごめきながら両手の鎌と尻尾を中心に三つの塊を形成してゆく。

二人はその様子をただ眺めながら話を再開した。


「早すぎも何もこれは想定外。だろ?」


「まったくもってその通り!」


次の瞬間、鎌を媒体とした3つの瘴気は震電とソウに襲いかかった。

各々から発せられる鎌鼬は先ほどのそれとはケタ違いの威力で、ソウがいた木ごと周囲の木々を切り裂いていた。

もしソウがあらかじめ結界を張っていなかったら、さらなる被害が出ていただろう。

しかし、二人は難なくそれをかわし余裕の表情を浮かべていた。


「じゃあ、その想定外を何とかしないとな」


「早くしないと昌享の封印が終わってしまうしなぁ~」


震電は青白く光る青龍刀を低く構え、ソウもまた毛を逆立てながら態勢を低くした。

一方、瘴気の塊は二人の周りをぐるぐると回り始めた。

それは二人の状況を見るためか、それともそのまま切り裂くためか……どちらにせよ高速で動く鎌によって二人の動きは制限される事になった。

しかし、非常に不味いと思われる状況であるが、二人は構えながらも涼しい顔をしていた。


「で、どうする?」


てっとり早く片付ける方法はいくつかあるが、震電はあえて質問した。

一方、問いかけられたソウは鎌に気を張りながらもしばし考えてから答えた。


「……お前に任せる」


「では、お手数掛けない様に努力します……か」


次の瞬間、震電が無造作に放った一閃は周囲に雷電をまき散らすと同時に3つの内の1つの鎌をとらえ瘴気ごと切り裂いた。

切り裂かれた鎌と瘴気はそのまま跡形もなく消し飛んだが、震電の隙を狙って残り2つの鎌が雷電の隙を狙って背後から迫る。

一方、震電は先ほど放った一閃の力をそのままに足を軸にし、正面からその鎌を青龍刀の刃と柄の二ヵ所で受け止めるとその力を解放した。

次の瞬間、青龍刀に阻まれた鎌は青白い稲妻に呑みこまれ、刃の部分全体にひびが入る。

2つの鎌は大量の瘴気を噴き出し、震電から離れ態勢を立て直そうとするがそれは無駄な事であった。

その時にはすでに、震電の左手には青白い稲妻がその姿を現していたのだ。


「いけっ!」


そう言い放つと震電は距離をとる二つの鎌の間めがけ、稲妻を纏わせた左手を突き出した。

すると付き出した手の先にある2つの鎌は青白い稲妻に焼かれ、気がつけば鎌と鎌の間には一条の亀裂が走っていた。

そして亀裂の先には馬ほどの大きさで2本の尻尾を持つ狼、俗にいう雷獣が一頭いた。

震電は先ほど鎌をはじくと同時に雷獣を召喚し、鎌が態勢を立て直す前にその青白い稲妻を持つ牙と爪で止めを刺していたのであった。


「―――――――――――!!」


雷獣が吠えるとかろうじてその姿をとどめていた鎌は砕け散り、それにまとわりついていた瘴気も霧散した。


「さすがに早えなぁ~」


一瞬だけだった先の様子をただ見ていソウが前足で器用に拍手すると、震電はあきらめにも似た表情でソウを一瞥するが、すぐに雷獣に視線を戻すと無造作に腕を振った。

すると雷獣は急に形を崩し、青白い稲妻を少しだけ残してその姿を消した。


「さてと……」


震電は周囲が安全か確認するとソウに視線を向けた。

そこには震電同様、安全確認を終えたソウが尻尾を一振りして結界を解いたところらしく、すでに背をこちらに向けていた。


「こっちは、このまま解散でいいのか?」


「ああ、向こうに一言、二言文句を言ってくるわ」


震電の質問を背に受けたソウはそれだけ言うと、風を纏うとあっという間に駆けだし、その姿を消した。

ソウが本気を出せば昌享の結界はあってないのと同じ事だろう、そしてそれは先ほどの戦いでも一緒だったはずである、震電はそんな事を考えながら昌享たちがいる方へと駆けだした。




その頃、封印の作業をしている昌享の方も大詰めを迎えていた。

八方に置いた独枯杵はその力を発揮し、瘴穴を完全に包囲してその力を弱めていた。


「……丑寅うしとらの地を統べるは大地の母を示す、ごんこうなり、太極の爻より生まれし八卦の力を持ちて、瘴穴を今ここに封ず……」


最終段階の詠唱を唱えるとわずかだが瘴穴の力が一段と衰えた。

その機を逃さず指にはさんだ小石を瘴穴めがけ放り投げる。

すると放り投げられた小石は急に輝き始め、瘴穴に触れるとさらに強烈な光を発し始めた。それを確認した昌享は気合と共に最後の詠唱を唱える。


「八方を治めしは、偉大なる王なり!」


詠唱が終わると光は徐々に衰え始めそれにより周囲の状況が鮮明になる。

八方に据えられた独枯杵はその姿を消し、その中央にあった瘴穴もまたその姿を消していた。

昌享は確認のため巽風に目をやると大きくうなずき親指を立てた。


「お疲れさん」


その言葉に安心した昌享はドッと疲れが出た気がして地面に座りこんだ。


「終わった……」


そう言って空を見上げていると、心の隅で気になっていた人物(?)の声がした。

声のした方を見ると震電が安心した様子で歩いてくるのが見えた。


「無事に終わったみたいだな」


「ああ。ところで震電は何していたんだ?」


昌享の質問に震電は肩をすくませた。


「ちょっとソウと相談をな……次はもっときつい仕事を探してくるって息まいてたぞ」


「マジ!?」


今回の仕事でもかなりきついのに更にきつい仕事……

嫌な予感しかしない昌享は思わず肩を大きく落とした。

次は手助け無いんだろうなぁ……、とマイナス方面へと物事を考えそうになるが、なんとか踏みとどまるが、やはり気は晴れなかった。

その様子を見かねた震電は気をそらせようと話しかける。


「そう落ち込むな、今回の仕事も無事に終わったことだし戻るぞ」


「……だね」


とりあえず今日の分は終わったのだから、また今度考えようと割り切ると昌享は結界を張った時と同じように印を作ると目を瞑った。


「この地に吹くは現世の風のみなり」


すると結界は音もなく静かに消え去った。

結界を解除した後、先の戦闘で壊れた場所を見て回り、何も問題の無い事を確認すると巽風の風によって帰宅の途に就いた。


その後、無事に家の上空まで来ると家族を起こさない様に巽風は気を使いながら、昌享をそっと庭に下ろした。

一方、さっさと寝ようとしていた昌享は自分の部屋の前に炎獣が一頭いるのに驚いた。


「昌享いつものお出迎えだ」


驚く昌享に声を掛けたのは離蓮で、宵坎とともに簀に腰を掛けていたが炎獣の隣までやってくると昌享を手招きした。


「えぇ……」


昌享はいやいやながらも離蓮の指示通り炎獣の前へと移動する。

その様子を見ながら震電と巽風は、宵坎のいる簀へと移動し終えると炎獣がおもむろに口を開いた。


『昌享、大丈夫だった?離蓮さんから話は聞いたけど本当に大丈夫?』


なんと炎獣は咲の声そのもので話し始めた。

実はかなり限定的ではあるが、離蓮は炎に人の意志や伝言を記録させる事が出来るのだ。

以前、昌享の帰りを心配してなかなか寝付こうとしなかった咲を見かねた離蓮が、その力を使ったのが始まりでそれ以降、昌享が仕事に行った時は必ずと言っていいほど伝言を残している。

炎獣からの伝言を聞く昌享の様子を見ながら、震電は離蓮に声を掛けた。


「……咲の奴、今回はどのくらいメッセージ入れて行ったんだ?」


「状況が分かっていた分いつもよりは少ないな、だけど例の約束のせいか無駄話が多い」


震電に答えを返しながら、徐々に堕ち込んでいく昌享の表情を離蓮は面白そうに見ている。


「そ、それって……」


「……いつもと変わらない」


離蓮の返答に思わず巽風が口をはさみ、今まで黙っていた宵坎が無愛想に答えた。

「いつものと変わらない」その答えに震電と巽風は昌享に伝言を伝え続ける炎獣へと目を向けた。

炎獣は1つの伝言を言うと少しずつ小さくなるのだが、その気配すら見えていない。


「……ごめん。俺、先に帰るわ」


「……私も」


ものすごく面倒になりそうだ、と思った巽風はさっさと風の気配をわずかに残し消えてしまい、それに続くように宵坎も僅かばかりの水の気配を残して姿を消した。

一方、巽風と宵坎にある意味見捨てられた形の昌享はそんなことが会ったことも知らず、ただ顔を困らせながら咲からの伝言に耳を傾ける。

いつの間にやら話の内容が、今回の仕事の事から明日の学校の帰りに買い物に行こうという話になっている。

そして昌享は余程辛いのか、伝言だけだというのに返事をしはじめた。


「うん、うん……分かったから、てかもう名前呼び捨て?」


はたから見ていてもあからさまに参り始めている昌享だが、この咲の伝言タイムは震電と離蓮にはどうする事も出来ない。

有一の対策は、常に咲を安心させるだけの実力を付けるしかないのだが、二人が見る限りではそれだけの実力を付けたとしてもなかなか止まらないだろう。

大きく傾いた月が庭先に照らすのは、咲からの伝言にただ頷くしかない昌享とそれを見守る震電と離蓮だけであった。

帰ってきてもすぐには休めない事が判明した昌享ですが、このあとどうなったかは各自のご想像にお任せします。

ちなみに今回は少ししか出なかった瘴穴の封印の詠唱ですが、丑寅を書いていて今年と来年の干支は丑寅だなと気付き、昨今の不況はこのせいかと考えてしまいました。(当然、全く関係ありません)


艦魂の特別編を最優先し更には艦魂本編を優先としているため、次回更新は1月末以降となります。(後押しが入ればまた変わるかも

それまでには未だに決まっていないこの先の内容を決めておきたいと思います(オイ


感想やご意見、メッセージ等、お待ちしております。


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