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第壱ノ巻 夜半過ぎの修行,そして木漏れ日の朝

月が降りはじめた夜半過ぎとある住宅街の一角、周囲の家よりも幾分大きな敷地を持つ平屋の古民家、そこにある庭を取り囲むように一般人にはわからない不可視の結界が張られていた。

その結界は現実とその空間を隔離するもので分かりやすく言えば結界内でどんなことが起ころうと現実には影響がないという何とも便利なものである。

そしてその結界の内側から声が響いた。


「オンアビラウンキャンシャラクタン!」


テニスコートが余裕で入るであろう大きな庭に一人の少年が立っており首からは数珠を下げ夜の闇を切り取ったかのような色のコートを着こみ両手で印を結んでいた。

少年は目標をまっすぐ見据えたまま先ほどと同じ様に声を上げる。


「ナウマクサンマンダ、バサラダンカン!」


その声とともに両手をふるうと白銀に光る三日月の刃が姿を現す。

三日月の刃はそのまま直進し目標……子犬ほどの体躯で額にちょこんと青白い角の生えた生き物へと向かう。


「まだまだ、あまいぞ~」


しかし、狙われた生き物は余裕そうにそう言うとひょいと三日月の刃をかわす。

目標を仕留めそこなった三日月の刃はそのまま結界にぶつかり消滅する。

かわした生き物は体をひねり優雅に着地すると一言。


「そんなんじゃ意味ないぞ~、ま~さ・ゆ~き・君っ!」


その途端その生き物は針のような光を無数に放った。

その放たれた先には先ほどの三日月の刃を放った少年……『まさゆき』と呼ばれた一人の少年がいた。

少年はその反撃に息を呑みあわてながらも咄嗟に刀印を結びに空中に五芒星を描く。


「き、禁!」


少年が叫ぶと同時に先ほど描いた五芒の軌跡が輝きを放ち放たれた無数の針を全てはじいた。

それを確認することもなく素早く掌を輝く五芒星へと向けるとさけんだ。


「破っ!」


その途端、五芒星はそのまま生き物めがけ放たれた。


「ヤバッ!」


まさかの追い打ちに生き物は目をむき咄嗟に避けようとするが間に合わず直撃を受けた。

それと同時に大きな爆音が響き爆風と砂煙が舞う、もし結界を張っていなければ周囲へも大きな影響を与えていただろう。


「ハァ、ハァ……どうだ!」


爆風が過ぎ、砂煙も徐々におさまり少しずつ視界が戻っていく中、少年は大きく肩を上下に動かしながらこれでもかと言わんばかりの声を上げる。

つらそうに先ほど生き物のいたところへと足を進める。

今日こそは確実に仕留めた!

連日、惨敗していたことを思い出しながらその場へ向かうとそこには何もいなかった。


「なっ!」


「あま~い!」


絶対の自信があったはずことに驚く少年の頭の上からものすごく嬉しそうな声が響いた。

少年が上を見ようとする間もなく肩に鈍い衝撃が走り、そのまま地面に倒れ伏した。




鳥の声とカーテンの隙間から差し込む朝日で少年はあわてて起き周りを見渡した。

小奇麗に片づけられた部屋には机や幾つかの本棚があり少年が寝ていた布団のそばにある壁には昨夜少年が来ていたコートが掛けられていた。


「朝か……っ!」


ほっ吐息をつくと肩に軽い痛みが走る。

少年の名は陽野ひの 昌享まさゆき。現在、陰陽師としての修行、真っ最中の陰陽の術が使えること以外はごく普通の高校一年の少年である。

昌享が自分に陰陽師の力があるとわかったのはこの年の春、昌享の父方の祖父である陽野ひの 昌朗まさろうの家に引っ越してきてからである。


「もう2カ月たつのか……」


自分に初めて陰陽師の力があると知ったときのことを思い出しふと言葉を漏らす。

知った時はあまりに唐突だったためそれ以上はその話をきこうとはしなかったがさまざまなことがあり今は毎晩、修行にいそしんでいる。

その時、部屋の入口である障子の向こうに誰かがくる気配がしたと思うと影が見えた。


「陽野君、起きた?」


「うん。開けても大丈夫だよ」


昌享がそう言うと声の主はスッと障子をあけた。

今まで障子にさえぎられていた日光が目に入り思はず目をすぼめるがすぐに慣れてきた。

部屋に入ってきたのは少女で肩までかかる黒髪に紺色のブレザーと鼠色のスカートという制服を着ていた。

そして部屋に入ってきた少女へ挨拶をする。


「おはよう堺さん」


「おはよう陽野君」


昌享からの挨拶に少女は笑顔で答えた。

彼女の名前はさかい さき

祖母と暮らしていたが分け合って現在、陽野家に居候している昌享の同級生であり祖母との二人暮らしが長かったので家事のほとんどができるので居候を始めてから昌享の母、明子の家事を手伝っている。


「さぁ、早く着替えて、もう朝御飯の準備もできているから急いで食べないと遅刻するわよ」


昌享をせかす咲はあることを思い出したのか「そういえば」と言い部屋の隅に目線を送る。

昌享もつられそちらに目をやるとそこには昨晩、昌享に見事な蹴りを食らわせたあの生き物が部屋の隅で丸くしていた。


「ソウ君。さっき昌朗さんが呼んでいたわよ」


咲に『ソウ君』と呼ばれた生き物は四肢を大きく伸ばし欠伸をしながら「おお~」と答えるとぽてぽてと歩きながら昌享の部屋を出て行った。

先ほどの生き物はその見たこともない姿から察せられるように普通の人には見えないもの……ごく一般には妖怪やあやかしなどと言われているが当の本人であるソウ曰く「俺は物凄くありがたい存在」らしく本当の名前は教えてもらっていない。

ソウという名は昌享が名前がないと面倒だということで勝手につけたものだが結構気に入っているらしい。

そんなことを思い出しながらソウが部屋から出ていく様子を見ていた昌享は眉間にしわを寄せた。


「お爺ちゃんがソウを呼んでいるってことは今日もか……」


「……とりあえず頑張ってね」


大きくため息をつく昌享の様子に咲は少し困った様子で笑いながら励ましの言葉をかけた。

陰陽の術が使えるとはいえ昌享の実力はまだまだなので毎晩……いや、昌享が学校から帰ってくると修行を行っている。

その内容は祖父の昌朗とソウが決めているのだがその内容は半端なものではなく昨日のように気がついたら朝だったということ言うことは一度や二度ではない。

しかし、そのような修行でも学業に影響がないというのが一番すごかったりするのだが……


「昌享~!咲さ~ん!急がないと電車に遅れるわよ~!」


う~ん。と昌享が唸っていると未だに来ない息子とその息子を呼びに行った咲が戻ってこないのが気になったのか昌享の母親の呼び声が響いた。


「いけない!まだご飯の用意が済んでなかったわ!」


「やばっ!」


そう言うと咲はあわてて部屋を出ていく。

昌享も急いで寝巻として使っている単衣から咲の制服と同じ色のブレザーとズボンという制服に着替え、朝食の用意されている居間へと向うと急いで朝食をとり二人揃って家を出たのであった。

始まったばかりですが評価・感想お待ちしております。

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