第拾漆ノ巻 炎雷と黒の嵐
わずかに欠けた月明かりが照らす廃屋。
その影となっている暗闇がぞわぞわと音を立てて始める。
そして、無数の赤い点が現れたと思えばこちらへと一気に群れを成して向かってくる。が、その群れはこちらへたどり着くことなく爆散し、文字通り消し炭となった。
その様子を見ながら爆散した本人である離蓮は顔をしかめながら口を開いた。
「気持ち悪いな。気が滅入る……」
嘘のない言葉を捨て吐きながら、離蓮は手に持った蛮刀の先に火球を作り出し、とめどなくこちらへ向かってくる影へと向かい大きく振り払った。
放たれた火球は影へぶつかると爆発を起こし周囲を一気に焼き払い、先ほどまであった影は再び姿を消していた。
しかし、奥からはまだまだざわめく影は迫ってくるようである。
その様子に警戒を続けていた震電はあきれるように声をかけた。
「その割にはずいぶんと火力が出ているみたいだが?」
「気持ち悪からな!」
今度は両方の蛮刀に火球を作り出し続けざまに打ち出した。
打ち出された二つの火球はそれぞれが影響を受けない範囲へ着弾、爆発を起こす。
衝撃でパラパラと廃屋が崩れるが一気に崩れ落ちる様子はなかった。
再び着弾地点へと目を向ければ炎がその場に残り、奥から出てくる影を次々と焼いていくが影は前にいる影を踏み台にしながら二人へと近づいてくる。
「キリがないな……」
思いのほかしぶとく数の多い影に離蓮は表情を変えずにそうつぶやく。
その間にも影は炎を抜けようとするが、一筋の雷光が共に炎でとどまっていた影を薙ぎ払い、更にその炎の範囲を拡大させた。
「このままだと昌享に影響が出るかもな」
一閃を放った震電は構えなおしながら離蓮に心配事をぶつける。
このままでも時間をかければ奥まで到達するのはそれほど難しくないだろう。
しかし、土蜘蛛側がこのまま黙っているわけがある筈もなく場合によっては昌享に手を出すことも考えられる。
震電の言葉の意味を離蓮はすぐに察すると予定を変えることにした。
「なら……」
その瞬間から先ほどよりも離蓮の放つ神気に熱が帯び始め、炎を煽る。
そして、煽られた炎が炎獣となって一体、また一体と離蓮の周囲に姿を現していく。
昌享への負荷はさらに増えるかもしれないが、それでも少しでも短時間で決めたほうがいいと離蓮は判断した。
そのためには、高火力をもって一気に突破するという至極単純で離蓮が最も好きとする方法を選ぶことにした。
震電同様、武器を構えなおした離蓮は半歩後ろにいる震電に問を投げかけた。
「震電、ついてこられるな」
「お前についていけるのが八卦で俺以外に誰がいる?」
その瞬間、震電の周囲には雷獣たちが姿を現し、離蓮の問いかけへの返答とも取れた。
八卦神将の双璧をなす離蓮と震電。火行と木行を八柱の中で有一与えられた二柱はその分、他の六柱よりも強い力を持っている。
現に炎獣と雷獣を呼び出せることがその力の強さを証明でもあった。
そして、もう一つ。本来の八卦と違う『八卦神将』たるもう一つの関係も……
「そうだな……兄貴」
「……俺としては弟がいいんだけどな、姉さん」
次の瞬間、炎獣と雷獣が廃屋の奥からわき続ける影へと群れを成して突撃を始めた。
動きの素早い雷獣は先行すると影を切り裂き、わずかに影をひるませる。
炎獣はその隙に影へと喰らいかかり、その火力をさらに増大させ膨れ上がった炎がさらに周囲を焼き尽くしていく。
その勢いは正に破竹の如く、先ほどまでの勢いが完全に逆転し離蓮と震電の進撃は一気に速度を上げるが、それは長くは続かなかった。
先行していた雷獣と炎獣の一部が突如として影に飲み込まれたのである。
しかし、離蓮はそれに臆することなく一気に炎獣らを飲み込んだ影に切り掛かった。
振りかぶった蛮刀は赤熱したかと思うと炎を纏い、影を焼きながら切り裂くが手ごたえはほとんどない。
そして、切り裂かれた影から少し離れたな場所に一際大きな影が姿を現した。
「オノレ、母上ガマダダトイウノニ」
明らかに不機嫌そうに前足を震わせながら人語を解する巨大な土蜘蛛。
おそらく召兌から聞いた、昌享をさらった土蜘蛛がこの個体だろう。
「土蜘蛛よ、なぜ我らが主をさらった」
蛮刀を突きつける離蓮の後方では震電が襲いかかる影を切り払う。
周囲の影と化した土蜘蛛の相手は震電にまかせ、離蓮は目の前の土蜘蛛との話に集中するがそれでも警戒は一切解くことはない。
「我ガ一族ノ悲願ヲ成ス為。タダソレダケノ事」
「その悲願とやらは、いったいなんだ」
声音を強める離蓮をよそに周囲の影の勢いを増すが、それらは震電の一閃を受けるたびに勢いが掻き消される。
しかし、土蜘蛛はその状況下でも狼狽えることはなく徐々に身に纏う妖気を膨らませ始めた。
「礎トナルモノノ。マシテ、人ノ元ニ下ッタ神ゴトキニ話スナドト思ウカ」
「離蓮」
「わかっている」
召兌からも話を聞いていたが、ここに入ってからの戦闘と先ほどの間での話の間に離蓮も震電も土蜘蛛たちの異様さを改めて感じていた。
周りの影となっている土蜘蛛もそうだが、巨大な土蜘蛛も本来ならば考えられないほどの妖気を纏っていたのである。
確かにこれだけの妖気ならば油断していたとはいえ、召兌を一時的に退けることはできる。
そして目の前の土蜘蛛はさらにその妖気を高めているのである。
その様子に離蓮はこれ以上の話は時間の無駄と判断し、周囲の炎獣を退却させ目の前の土蜘蛛を倒すために纏う神気をさらに高めると突き出していた蛮刀にその力を込める。
「ならばまずは主を返してもらおう、悲願とやらの話はその後だ。」
「我ガ一族ノ悲願ノタメニ我ラ兄弟ガ朽チヨウト邪魔ハサセンゾ!」
話はここまでというように双方の高めあった神気と妖気が爆発した。
先ほどの爆発を感じてから時折流れてくる風に知っている神気が混じっているのを昌享は感じていた。
「離蓮と震電の神気……どんどん近づいている」
助けが来たことに安堵する昌享ではあったが、先ほどよりも体か重くなっていくのも感じていた。おそらく離蓮と震電が力を使っているせいだろう。
しかし、それは一定ではなく稀に楽になることもあり、これは向こう側もこちらのことを考えてくれているのかもしれない。
「嬉しいけど、きっついなぁ……」
下手に気を抜くとそのまま気を失いそうになるこの微妙な感覚に昌享は思わず苦言を漏らす。
しかし、このままではいずれ気を失う可能性も考え、あたる月光から少しでも力を得ようとしたとき後方にスッと影が音もなく降り立った。
咄嗟に手持ちの符と力を使おうとするが続いて響いた声にそれをやめた。
「お~す、無事みたいだな」
「ソっ!?」
驚いて声を上げようとする口をソウは後ろから尻尾で器用にふさぐ。
「おっと、静かにしていてくれよ。ここでバレるのはまだ避けたいんでな」
何処かいたずらをしようとする子供にも似た声音で喋るソウであるが、それでも全身の毛は若干逆立っており周囲を警戒しているようだった。
「二人は大丈夫なのか?」
昌享の問いにソウは先ほどよりも嬉しそうに答える。
「ただの土蜘蛛相手にあの二人に敵うもんか……噂をすればほら」
口をふさいでいた尻尾が指す先に視線を向けると轟音と共に土煙が上がった。
そして、土煙を突き破るように真っ赤な炎に包まれた巨大な塊とそれよりも小さい塊が現れ、そのまま反対の壁へとぶつかってゆく。
唖然とそれらの塊を見ているとそれが昌享自身をさらった巨大な土蜘蛛とその配下であろう土蜘蛛であることに気づいた。
巨大な土蜘蛛はユラリと身を起こすとざわざわと全身の毛を震わせ始めるが、周囲にある塊はピクリともせずその炎に焼かれ徐々に小さくなっていく。
「ヌオオオオオオオオオオオオ」
苦しみに耐える呻きとも、傷を負い仲間を失った怒りとも取れる唸り声をあげると、土蜘蛛は全身から妖気を吹き出しその身にまとわりつく炎を振り払う。
よく見れば赤く光る目はいくつか潰れており、足も切断されたのか何本かが短くなっている。
更に剛毛に覆われた全身にできた無数の切り傷が目立ち、そこからは血なのか黒い体液と体に取り込んだ瘴気が漏れ出ているようだった。
先ほど見た時の姿からは想像もつかない、もはや満身創痍ともいえる土蜘蛛が残る目で睨めつける先には全身から神気を迸らせる離蓮の姿があった。
その神気の勢いは式に下した時以来のもので、息切れもせず傷どころか汚れすらない姿はそれだけの力をもっているというのを改めて感じた。
「さすがに将ともいえる存在はそう簡単には落ちないか」
そうは言いつつも、離蓮の声にはどこか余裕が感じ取れた。
それを感じ取ってか土蜘蛛は全身の傷から体液と瘴気を噴出させながら満身創痍の体を動かし始める。
「ナ、ナメルナアアア!!」
怒号と共に残り少なくなった全身の剛毛を震わせ妖気と瘴気の暴風を作り出すと、そのままその巨体が剛毛と瘴気で黒くなった暴風の中に消える。
更に暴風は勢いを増して離蓮を取り囲むように動き始めた。
おそらく、瘴気の暴風で身を隠しながら離蓮を攻撃するつもりなのだろう。
昌享は離蓮の支援をしようと身を起こそうとするが、急に更なる重圧が体にかかった。
土蜘蛛の仕業かと一瞬思うが、すぐにそれが自身の中から来ていることに気づくと同時に暴風が炎を纏う風へと変わった。
「ギャアアアアアアッ!!」
次いで耳触りな悲鳴が響いたと思うと炎の風を突き破り飛び出してきたのは大蜘蛛で、その身から左側の足四本がバラバラと散っていく。
片側の足をすべて失った土蜘蛛はバランスを取ることすらできず、今度は地面へと叩きつけられた。
「すごい……」
あまりにも一方的な状況に唖然と言葉を漏らす昌享にソウはあんなのは序の口だとうなずいた。
「ま、あれでもな……やっと来たか」
ソウの声に視線をずらすとそこには周囲を警戒しつつこちらに来る震電の姿があった。
震電は昌享のそばに来ると拘束している蜘蛛の糸を昌享が傷つかないように、きれいに切りながら体調を確認する。
「昌享、大丈夫か?」
「うん、震電と……離蓮も大丈夫みたいだね」
昌享はようやく全身の拘束が解かれ安堵し、視線を離蓮のほうへと向ける。
すると一拍おいて若干体が軽くなり、それと同時に震電の纏う神気が少なくなった。
おそらく離蓮の様子から震電が昌享の消耗を避けるために力を抑えたのだろう。
しかし、それでもまだその身の内側に重くのしかかるものがあることに変わりはなく、震電もそれに気づいて申し訳なさそうに口を開く。
「俺はともかく離蓮は全く問題がないというわけでもないがな」
「いや、でも助かったし……別にっ!?」
気にしなくていいと昌享が続けようとするが、震電はそれを遮るように周囲に雷をたたき落とした。
何事かと周囲を見れば影となって近づいていた小型の土蜘蛛たちが周囲に集まってきており、その近くには先ほどの雷を喰らったのか灰となっていく土蜘蛛もいた。
どうやら震電は昌享と話しながらも近づく土蜘蛛の気配を察していたようだ。
「お前にとってはそうかもしれないが、そうも言ってられないのが今の俺たちなんでな……すまない」
そう言うと震電は手に持つ青龍刀を構え直すと二体の雷獣を呼び出す。
同時に昌享の体が重くなる。一応、震電も気には掛けてくれているのだろうがそれでも限界があるようだ。
昌享と震電の間に微妙な空気が流れるが、それを払うように昌享の足元にいたソウが尻尾を軽く振るった。
「ま、その話は帰ってからだな」
そして、遠くで離蓮と対峙する土蜘蛛へと視線を向け挑発するように睨む。
全身の毛を逆立て、戦闘態勢整えると口を開く。
「隙を見て獲物を襲うような奴らの巣じゃ、のんびり話してられないからな!」
「エエイ、コウナレバ!我ラガ兄弟ヨ!!」
ソウの挑発と戦闘態勢に奇襲は無理と判断した土蜘蛛の命令に従い、周囲を囲んでいた影が一斉に襲いかかる。
「なめるなよ!」
まるで先ほどの土蜘蛛のように全身から風を吹き出させるソウであるが、その風は澄んだもので襲いかかる影を吹き飛ばすように払っていく。
更に自身の高質化した毛も混じらせて飛ばしているのか、周囲の影も怯むようにその場から後退している部分もあった。
しかし、数では有利なのを悟ってか風の隙間を縫うように影が迫り始めてくる。
当初はまばらでソウ自身や二体の雷獣が防いでいたものの、吹き飛ばした影がそのまま自身を盾として特攻の如く動き始めると流石に辛くなってきたのか舌打ちする。
「ちっ、震電!」
「分かっている、……少し我慢してくれよ」
「う、うん」
ソウの要請に震電は昌享に一言掛けると神気を再び強め始める。
同時に昌享への重圧が強まるが、その効果はすぐに目に見え始めた。
先ほどまで影を一体ずつ倒していた雷獣が全身を震わせると、バチバチと音を立て全身に電撃を纏い始める。
そして、身を屈めた次の瞬間には雷のような光と音を立て周囲の影たちを一掃する。
震電も昌享を守るように立ち位置を取ると、迫りくる影を青龍刀で問答無用でいなしていった。
その勢いは凄まじく先程までいた大量の影がみるみる消されていく。
その様子に離蓮と対峙していた土蜘蛛は怒号と共に残っていた妖気と瘴気を爆発させる。
「オノレ、オノレエエエエ!!」
もはや自身の命を懸けた力の開放の爆発に間近にいた離蓮は飲み込まれ、離れていた昌享達へと襲い掛かる。
咄嗟にこらえようとするもののそれはすぐに無理だということがわかった。
「うおっ!?」
「ソウ!」
いくら四足で踏ん張れるとはいえ小型のソウが真っ先に吹き飛ばされるが、ソウの尻尾を昌享は咄嗟につかむ。
しかし、爆風の勢いは強く次の瞬間には昌享の体も宙に一瞬浮きあがるが、震電が自身を中心に張った結界の中へと引きこんだ。
「ありがとう、震電」
「気にするな」
そういいながら震電は結界の外の様子を伺うが、わずかに青白く光る結界の幕の外は黒い剛毛が荒れる大嵐と化しており下手に動けないようだった。
一方、昌享は手元に抱えるソウに視線を向ける。
「大丈夫か?」
「尻尾の付け根が痛いが感謝する。」
その様子に昌享は「素直じゃないな」と呟くがソウは掴まれていた尻尾を二、三度振って大丈夫なのを確認すると震電と同様、視線を結界の外に向ける。
外の嵐の様子は収まるどころかますます強くなっているらしく、震電の張る結界に叩きつけられる妖気と瘴気の力が強まっているようだった。
「さて、どうするか……」
「ひとまず離蓮と合流したほうがいいんじゃないか?」
ソウの言葉に昌享は離蓮との合流を提案する。
主と式神の関係で繋がっている以上、離蓮の身に何かあれば昌享は感じ取れるが少なくともそういった悪い感覚はなかった。
もっとも離蓮が無事なのは昌享を含め全員が自信を持って言える事なので、安否の確認の説明の必要もなかった。
しかし、無事とはいえ流石に離蓮が単独でいる事を昌享は避けたいと考えたのである。
昌享の提案にソウと震電は頷き、その場から動くことを考えようとするが……
「見ツケタゾ、贄ヨ……」
黒い嵐からぬっと出てきた土蜘蛛の姿に全員が戦闘態勢を取る。
体をずるずると引き摺りながらも、潰されていない赤い目にはまだ諦めてはいないという強い力が込められていた。
その眼力に狙われている昌享は思わず背筋が凍る。
ここまでしてしようとする一族の悲願とはいったい何なのだろうか。
そして、口から黒い体液を吐き出しながらも土蜘蛛はさらに体に力を入れる。
「コノママ逃ガスワケニッ!?」
その瞬間、嵐が凪いだ。
そして、無くなった左側の足の付近に立つ人影がしゃべり始める。
「相手の動きを見ずに背を向けるとは、随分と余裕があるようだな土蜘蛛の将よ」
悠々と喋る離蓮の手元には土蜘蛛の胴体に深々と刺さった蛮刀が二本握られていた。
「式神イイイィィィ!!」
土蜘蛛は右足に力を入れ、蛮刀を引き抜こうとするが離蓮がそれを許すはずがなかった。
離蓮は無造作に蛮刀を捻ると込められた神気を一気に解放する。
巨大な土蜘蛛の体が一瞬膨れ上がったかと思うと、全身の傷から炎が噴き出し始めた。
つまり、これは内側から焼かれていることを意味しているのだろう。
噴き出した炎はさらに離蓮の神気に煽られ、火力を増し、体表を舐めるように広がるとあっという間に全身を覆い尽くした。
もはや動くことも出来ない土蜘蛛に離蓮は怒りを込めた視線を向けると口を開く。
「近いうちにお前達の母上とやらもそちらへ送くろう、それまで向こうで待ってるがいい」
「オノ…レェ……」
土蜘蛛が出来たのはその言葉を出すことだけだった。
まるでそれが合図のように炎はさらに燃え上がると瞬く間に巨大な土蜘蛛をただの灰へと変えてしまった。
もはやただの灰になった土蜘蛛を見下ろしていた離蓮はふぅ、と肩で息をすると手に持つ蛮刀が姿を消す。
そして、昌享の前に来ると膝をつき頭を下げる。
「今回の件は私の責任だ」
体の重圧がなくなりホッとしたところへの離蓮の言葉に昌享は声も出せず驚く。
そして、昌享が口を開くよりも先に離蓮は話し始める。
今日の護衛が少なかったこと、救出が遅れたこと、そして無理に昌享に負担をかけたこと。
まるで自身がため込んだものを吐き出すように離蓮は昌享に懺悔をしていく。
その様子に昌享はソウと震電に視線を向けるが二人ともただ聞くようにと促す。
まるでずっと続くかのような離蓮の懺悔であったがそれも終わりが来た。
「本当にすまなかった」
最後にその一言を終えると離蓮はそのまま動かなくなり、昌享は如何したものかと内心困惑する。
しかし、主である以上は式神への対応を決めるのも主の務めである。
昌享は意を決して口を開こうとしたとき
「あなたがクロの言っていた贄ね」
突如として響いた声に全員の視線が声の主へと向けられた。