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第玖ノ巻 紫陽花(あじさい)と烏(からす)

本当は12時間前に更新したかった……

友人である忠の姉、香のお見舞いをするため電車に乗った昌享たちの姿は市立病院に……無かった。

昌享たちは何事もなく病院へと向かっていたのだが、途中である事に気がつき急遽寄り道をする事になったのだ。

そのため昌享たちの姿は病院のすぐ近くにあるあま通り商店街の一角、小さな花屋にあった。


「ねぇ、この花とその花どっちがいいかな?」


「う~ん……こっち!」


赤や黄色、オレンジといった様々な色の花がある狭い店内で咲と鈴はどの花にするか相談しており、昌享は二人の邪魔にならないよう店の外にいた。

昌享は時折店内の様子を見ながら、時間も時間のため買い物客が多い通りの流れを見てため息をついた。


『また、ため息か?昌享』


「出しちゃ悪いか?」


周囲の目に気を付けながら昌享は巽風のいる方を睨んだ。

巽風が姿を消しているとはいえあるじと式の関係が成り立っているため、主である昌享にはうっすらとその存在を感じる。

ソウいわく更に経験を積めばはっきりと見る事が出来るらしいが、今の昌享の目には気まずそうに目をそむける巽風がぼんやりと見えるだけである。

そんな巽風を一通り睨むと未だに店内で花を選んでいる咲と鈴に目を向けた。

この花屋に来てすでに10分が経とうとしているが、まだ決まらないらしい。


「ったく、俺たちがいなかったらどうするつもりだったんだか……」


昌享は咲と楽しそうに話す鈴を見た。

最初は途中で何か買うのだろうと思っていた昌享と咲であったが、鈴が何も持たず病院へ入ろうとした瞬間、慌てて止めた。


「まぁ、もう少し早く聞いていればよかったのか?」


『それでもあの言葉は言うと思うぞ』


昌享の疑問に巽風は苦笑いをしながら答えた。

昌享たちが慌ててお見舞いの品について聞いた際、鈴は「え、必要なの?」と言ってのけたのである。

その反応には昌享と咲だけではなく巽風と宵坎も驚いたぐらいである。


「何であんなのと幼馴染なんだろう……」


思わず本音が漏れたが、すぐさま口を押さえ振り返る。

するとちょうどレジで会計をしている二人の姿が見えた。

どうやら先ほどの本音は聞こえなかったらしい。


「危ない、危ない、口は災いのもとだからな……」


ホッと胸をなでおろしていると会計を終えた二人が戻って来た。


「お待たせ~」


「ごめんね、遅くなっちゃって」


そう言って二人は買ったと思われる小さな花かごを見せた。

それほどは花には詳しくないので知らない花が多いが、選んだ花の中には紫陽花あじさいが含まれていた。

出来上がった花かごは今、三人で出せる金額ではかなり上出来のものだろう。

これなら少し財布が寒くなったのも我慢できる。

そう思って目をそらすと咲の手に小さな一輪の花が握られていた。


「それも買ったの?」


驚く昌享に咲と鈴の二人は目を合わせるとクスクスと笑いだした。

その様子を不思議そうに昌享は見ていると咲が答えた。


「これは店員さんのサービスでくれたの」


「へぇ、良かったじゃん」


そう言って店内にいる若い店員を見る咲に昌享が相槌を打つと後ろから肩を叩かれた。

振り返ると鈴が押しつけるように花かごを渡して来た。


「マー君これお願い!」


鈴はそう言って咲の手を取り、病院の方へと早歩きで歩き出した。

いきなりの事に咲は何も言えずそのまま引っ張られていき、昌享は戸惑いつつも慌てて二人の後を追おうとしたが、急に足を止めた。


『追わないのか?』


巽風がそう尋ねるが昌享はジッと手にした花かごを見つめる。

何事かと巽風も花かごを見るがこれと言って変わった事はないと言える。

すると昌享は周囲を一瞥すると小さく印を結んだ。


「我が思いを贈るものに、かの花の願いが届く事を切に願う」


昌享がそう唱えると花かごの中にある紫陽花の色がほんのりと淡くなった。

それを確認し昌享は印を解きほっと息をつく。

咄嗟の思いつきであったが、うまくいったようだ。


『花の呪か?』


今まで昌享の様子を見ていた巽風は確認するように花かごを覗きこむ。

昌享は頷くと花かごを持ち直し大分離れてしまった咲と鈴の後を追い始めた。

花の呪……それは元々花に意味を込めた物である花言葉に力を込め、その意味を具現化させる術である。

元々花には詳しくない昌享であったが、たまたま紫陽花の花言葉がこの前読んでいた本に書いてあったので覚えいていた。


「一応うまくいったみたいだけど、どこまで効果があるか自信はない」


咲と鈴に何とか追いつき少し息の上がった昌享は、前を歩く二人には聞こえない様に巽風に話しかけた。

元々この術の信頼性と効果はそれほど高いわけではない上、現在の一つに花に対し花言葉はいくつもある。

そこには外国や様々な信仰からの花言葉も含まれており、時としてはほぼ違った意味も込められていたりする。

そして、込められた思いや意味が違えばその花言葉の力は薄くなってしまう。

そのため効果の程としては一般的なおまじない程度と言っても過言ではなかった。


「しかもこの術、初めてだし……」


それこそ昌享が一番不安に思う要素であった。

あくまでこの術は本で読んだだけであって一度も実践した事はない。

先にも述べたが1つの花に対し花言葉にはいくつもあり、力の込め方次第では思っていたのとは違う花言葉の意味が具現化してしまう。

やってしまった以上、後はその効果を信じるしかないのだが、思わず「本当に大丈夫なのだろうか?」と手元の花かごを見つめる。

そんな昌享を思ってか巽風は昌享の肩を叩く。


『大丈夫、大丈夫。心配するな!』


元気づけようとしてくれるのはありがたいが正直な話、巽風の言葉を聞いてもあまり安心できないんだよなと思う昌享である。

それではいけないと思うのだが、震電と離蓮の二人を見ていると巽風の言葉は軽く感じてしまう。

どうすべきかと昌享が内心考えていると、今まで咲につき無言だった宵坎が昌享に話しかけてきた。


『……昌享』


「なんだ?」


昌享は考えを中断して宵坎に意識を向ける。

宵坎は巽風の隣に来るとすぐそこにある病院の入り口をちらりと見た。


『……ごめんなさい、私達はこれ以上……』


そこまで聞いて昌享はある事を思い出した。

それは昌享が震電を初めて召喚してからすぐのころで、震電から聞かされた話で八卦神将は人の生死にかかわる場所、特に病院内へ入る事は余程の事がない限りしないとのことだ。

その時、理由を聞いたが震電は「時が来れば話す」と言い答えてくれず、その後も他の神将に聞いたが皆、同じような答えしかしてくれなかった。

理由は気になるが今ここで無理に聞いても仕方がないので昌享は頷いた。


「分かった、二人はここで待っていてくれ」


すると巽風と宵坎は昌享に見える程度その姿を顕現させると詫びるように膝をつき頭を下げる。

昌享はそこまでしなくてもと思ったが、二人の真剣な様子に何も言えなかった。

とりあえず後でこれからあまり堅い態度をとることのないようにと言う事にして咲と鈴の後を追った。

咲と鈴を追い離れる昌享の背に頭を下げていた巽風と宵坎がそっとつぶやいた。


「今の昌享ではもしもの時、俺たちを止められないからな」


「……ごめんなさい、昌享」


まさゆきを見送った二人の神将はそのまま先ほどと同じ様に隠形し、その姿を消そうとしたがふとある方向に視線を向けた。

その視線の先には一匹の白と黒の虎柄の子猫がいた。

二人はしばらくその子猫を見ていたが何事も無かったかのようにその姿を消した。




「この部屋?」


「うん、526号室だからあってるよ!」


巽風たちと別れた後、昌享たちは受付で香が入院している病室を聞きその病室の前まで来ていた。

咲と鈴の話を聞きながら昌享は部屋の前にある名札を確認しる。

どうやら病室は個室の様でそこにはきちんと「伊勢 香」の名札があった。


「あってるみた……」


「じゃあ、入るよ~」


いつものごとく昌享の確認をスルーして鈴が病室のドアを開ける。

せめてノックはしろよと昌享が注意しようと鈴の肩を叩こうとしたその時―――!!


「姉ちゃんは何も話す事はないって言ってんだろうが!」


突然の怒号に昌享は思わず伸ばした手をひっこめ耳をふさぐ。

すると目の前にいた鈴も耳をふさいだかと思うと目の前から消え、代わりに白い長方形の物体が目の前に現れた。

これは……


まくハブッ!」


突如現れた枕は見事に昌享の顔面に命中、枕は思ってたより質量があったため昌享は一歩下がった。

軽い痛みをこらえ枕が飛んできた方を見るとそこには、枕を投げたままの恰好で茫然とするよく見知った少年がいた。

少年の背は昌享よりも高く頬には小さな切り傷の後があった。


「やっぱりお前か……」


鼻を押さえながら昌享は半眼でジッと枕を投げた張本人を睨みつける。

一方、昌享に睨みつけられた少年こと友人の伊勢 忠は慌てて手を合わし詫びようとしたが、それは出来なかった。


「昌享、ごめ「だから止めなさいって言ったでしょうが!」いっでぇぇぇぇ……」


謝ろうとした忠は脇から飛んできたリンゴの直撃を受け、頭を押さえる。

すると更にたたみかけるように髪が腰の所まで伸びた寝間着姿の女性が忠に平手打ちを食らわせる。


「だっ!」


「たっく……ごめんね陽野君、大丈夫だった?」


昌享に謝罪した後、その女性は忠に対し追撃を開始する。

追撃と言っても往復ビンタであるが、速すぎて一体何回叩いているのかが見えない……

忠にビンタを食らわせ続けているのが今回お見舞いに来た伊勢 香であるのだが、今の様子ではとてもではないが今朝まで気を失っていたとは正直思えない。

すでに頬が赤くなりぐったりする忠の様子に唖然としながら昌享と咲は声を掛ける。


「は、はい。それより……」


「香さん大丈夫なんですか寝てなくて?」


その言葉に騒がしかった病室は一気に静かになった。

ポカンとする香に対し昌享と鈴は咲の発言を指示するように頷く。

そして数秒後……


「……あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ、忘れてた……」


香は絶叫の様なうめき声をあげるとバタリとその場に倒れ込んだ。

倒れた香の背中には傷口が開いたのか血が染み出している。

それを見て昌享は慌てて指示を飛ばす。


「咲!看護婦さん呼んで!」


「う、うん!」


昌享の指示に咲は慌ててナースセンターの方へ駆けて行く。

そして昌享も倒れて呻いている香の傍によってとりあえずベッドに移動させようとする。

しかし、そんな昌享に鈴が一言。


「マー君、今は看護婦さんじゃなくて看護師さんだよ」


「今そんな事を言っている場合か!てか、ベッドに戻すの手伝え!」


確かにそうであるが今はそんな事を言っている場合でない。

手伝う様に言うと鈴は「は~い」と返事をして昌享の手伝いを始めた。

因みに足元には頬がパンパンに張れた忠が転がっているが、あのくらいのビンタなら大丈夫だろうと二人は完全に無視しその場に放置される事になった。


それから約30分後……

526号室で昌享達は疲れた顔で用意されたパイプ椅子に座っていた。

そんな昌享たちに香がうつ伏せの状態で声を掛ける


「ごめんなさいね、迷惑かけちゃって」


「忠が余計なことすらから」と言って香は笑い飛ばそうとするが、痛みに顔が少しゆがむ。

一方、忠は未だに赤い頬をさすりながら「すまん」と言って頭を下げた。


「まぁ、ノックしなかったこっちも悪かったですし……」


昌享はそう言いながら隣に座る鈴を見る。

すると鈴は不思議そうにこちらを見返してきた。どうやら自覚は無いらしい……

思わずため息が漏れそうになるのをこらえ、昌享は頭を押さえる。


「マー君、頭痛いの?」


鈴の一言に昌享は頭から手を離しジロリと睨みつける。


「誰のせいだよ……」


沸々と怒りが湧き上がるのを自覚しつつ、昌享は出来るだけ声を押さえ鈴に問いかけた。

いつもの事とはいえ未だに慣れていない咲はおろおろと二人を見るが、昔からの二人を知っている忠や香は平然として……いや、むしろ今後の展開が気になるのか面白そうに見ている。

そして鈴は昌享からの問いかけを受け頭にクエスチョンマークを浮かべる。どうやら全く分からないらしい。

その反応にふるふると握った拳を振わしだした昌享を見て咲は鈴との間に入り、慌てて話題を変えた。


「そ、そう言えば、お見舞いに花を持ってきていたよね?」


咲はそう言うと昌享の膝の上にある花かごを見る。

紫陽花が目立つそのデザインは鈴と話し合いながら選んだもので、メインとなる紫陽花は鈴の一押しであった。

とりあえず咲が割って入ったため昌享は少し冷静を取り戻し、花かごを香に見せた。


「早く元気になってくださいね」


「ありがとうね、みんな」


香はそう言うと近くの台にその籠を置くように言った。

昌享は花かごを台に置くと先ほどの術がちゃんと聞いているか確認する。

先ほど術を掛ける際に昌享が紫陽花の花言葉の中で選んだのは『元気な女性』と『家族の結びつき』である。

両方とも元気で家族思い(特に忠)な香のイメージに会う花言葉だと昌享は考えていた。


『もう十分過ぎる位、元気な気もするけど……』


先ほどの騒ぎを思い出しながら、昌享は心の中で苦笑いする。

とりあえず少しでも効果がある事を願い昌享は自分の席に戻った。

昌享が席につくと、今まで頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた鈴が思い出したかのように忠に質問した。


「そういえばさっき何で忠は枕を投げてきたの?」


「危なかったよ~」と言いながら鈴は被害者となった昌享をビシリと指差す。

昌享は指を差されたのに少しイラッとしながらも忠を見た。

すると忠は頭を一掻きすると頭を下げた。


「すまん!」


「いや、謝るのはいいから理由を言ってくれ」


鈴の態度に憤りを覚えながらも、いきなり枕を投げてきた理由が気になった昌享は続けるよう促す。

すると横になっていた香が代わりに口を開いた。


「忠は警察の人が来たと思ったのよ」


その答えに昌享たち三人はポカンとした。

何故、また警察相手ににそんな事を……


「まだ、犯人が分からないでしょ。だから警察の人も意地になっているみたいでね……」


「姉ちゃんがこんなんだってのに、『犯人はどんな姿だった』だの『どこに行った』だのうるさかったから……だから来た時に備えて枕を構えてた」


「そして鈴がドアを開けたってわけか……」


姉思いの忠らしいと言えばらしいが、警察相手にそんな事をしてよかったのだろうか?

まぁ結局、投げられた枕は昌享に当たり一応その事態は回避されたわけだが……


「とりあえず、そういうのは止めてくれ。他にお見舞いに来た人もいい迷惑だ」


昌享の忠告に咲は全くと言わんばかりに頷くと、忠は「分かった」と言い親指をグッと突き立てた。


「今度は確認してから投げる!」


まさかの発言に昌享と咲は椅子ごとこけ、鈴は何故か腹を抱えて笑いだした。

混沌とする空気に包まれる中、香はどこからともなくおもちゃのマジックハンドを取り出すと「バカッ!」と叫びながら忠の頭を叩いた。

おもちゃとはいえ、かなりの勢いで頭にマジックハンドを叩きこまれた忠は頭を抱えその場に座り込む。

香は勢いに任せ更に追撃に入ろうとするが、こけていた昌享と咲が慌てて止めに入る。


「香さん落ち着いて!」


「傷口が開いちゃいますよ!」


「アハハハハハハ」


二人が必死に香を止めようとする中、鈴はまだ笑い続けている。そしてこの騒ぎはしばらく続く事となった。

当然、これだけ騒げば看護師たちが飛んでくるのは当たり前で、その場にいた全員が夕日を背に看護師長から小言を食らう事となるのはまた別の話である。




陽が傾き僅かな夕日が差しこむ小さな洞窟……そこにソウの姿はあった。

目の前には小さな祠、背中に夕日を受けソウはイライラしていた。


「……遅いッ!」


ここに来てからほぼ半日、いくら待っている相手が多忙とはいえ遅すぎる。

そんな事を考えているソウの周囲には風が取り巻き蒼白い火花が散る。

それはソウが不満を隠すことなく表に出している証拠でもあった。

その時ソウが原因とはまた違う風が吹き、遠くから声がした。


『少しは落ち着いてください』


その声にソウは動じる風もなくそのまま口を開く。


「……肆辛ししんか?」


するとソウの声に答えるかのように風は徐々に纏まり、からすほどの大きさの鳥の姿になった。

そして鳥の姿になったそれはソウに対し頭を下げた。


『申し訳ありませんが、今日はお引き取り願えないでしょうか?』


その言葉にソウの纏う気が更に鋭く、刺々しくなった。

一方、鳥の姿をしたそれはその反応も覚悟の上といった様子で話を続ける。


『我があるじは現在、休息のためこちらに来れなく……』


「ふざけるな!」


ソウが叫んだ瞬間、洞窟内に暴風と稲妻が起こった。

鳥の姿をしたそれはすぐさま風となってその姿を消すが、洞窟の天井や壁は風や稲妻に削られバラバラと石が転がる。

しかし、それほどの衝撃を受けながらもソウの目の前にある祠だけは全く変化はなかった。


「確かにそっちの負担は俺たちのせいでもある!しかし、ここまで待たせておいて帰れというのはどういうつもりだ!」


ソウが叫ぶ中、肆辛と呼ばれた風は再び鳥の姿となりどうしたものかと思案する。

一方、ソウはさらに力を強め実力行使の構えを見せる。その気になれば相手方の領域に入る事は造作のことは無い。


「納得のいく答えがないのならこちらから行くぞ……」


『それは困るわね』


ソウガさらなる行動に出ようとしたと時、突如として洞窟内に女性の声が響く。

声のした方をソウが見れば、そこには子供ほどの大きさの人型の紙が立っていた。


「こちらも昨夜、色々あってね……こんな姿でごめんなさいね」


声を発する人型は声の主がしているかのように頭を下げた。

人型の様子をじっと見ていたソウは一言口にした。


「……外の奴らか?」


「ええ、かなりの腕だったわ。地の利がなければ危なかった……」


そう話す人型であるが、ソウはその言葉を胡散臭そうに聞いていた。

地の利を利用すれば、まずこちらが外の奴ら相手に負けることはない。

危ない目に会ったというのは大方、手を抜いていたからだろう。こちらは余程の事がなければ外の奴らを殺めはしない。

しかし、念にはとソウは人型に話しかける。


「そいつは入っていないだろうな」


「ええ、いつものようにお帰り願ったわ」


そこまでの話を受けソウはホッとした。

『お帰り願った』ということは、昨夜の相手はこちらが心配する相手ではないということだ。

しかし、それはソウが考えていたあまりうれしくないことを意味していた。


「となると……すでに何かが入り込んだな」


「本当?」


「護りが無いに等しい今、嘘をついてどうする」


ソウは昨夜の昌享の仕事もとい、修行の内容を事細かに伝えた。

すると人型は思案するようなしぐさを取る。


「困ったわね……今、いつはみんな出払っているの」


しんの奴らは?」


昨日の段階でのソウの予測で、侵入者に対抗できるであろう最低限の要員の様子を聞くが、人型は首を振るしぐさをした。


「そっちは補強に回っているわ、正直な話、の誰も動かせないわ」


「……チッ」


ソウは舌打ちすると腰を上げ、洞窟の出口へと歩き出した。

その背に人型は声をかける。


「どうするの?」


するとソウはため息をつき振り返った。


「こうなったら、責任を取らせる」


「大丈夫なの?」


人型はその言葉を予測していたかのように、すぐに疑問をぶつける。

ソウが考えていることは、大きな危険を伴うのである。

しばらく沈黙が続いたが、ソウは口元に笑みを浮かべ言い放った。


「……今はあの器を信じるだけだ」


その一言に納得したのか、人型は「フゥ」と息をつくと今まで無言で頭を下げていた肆辛に命じた。


「肆辛、送ってあげなさい」


『承知しました』


肆辛は再び鳥の姿を解くとソウを取り巻くように、風となったその身で包んだ。

ソウはその様子を意外そうな顔で見る。


「いいのか?」


先ほどの話ではそれほど余裕がないみたいであったが、いいのだろうか?

そんなソウの疑問を読みとったのか人型が、少し笑みを含んだ声音で答えた。


「出来るだけ早い方いいでしょ。それにきっと必要になるわ」


その言葉が意味することが何となくわかったソウは少し複雑な表情をした。

ただでさえこの相手には借りが多いのだ、おそらくこの後にまた貸しを作ることになるのだろう……

そんなことを考えるソウに、人型はあることを思い出したのか先ほどとは違う、強張った声音で話しかけてきた。


「あと、あの子はしばらく外出させない様にね」


「分かっている」


複雑な表情をしていたソウは、それは当然とばかりに答えるとクイッと首を軽く振る。

すると肆辛に纏われたソウの体は帰るべく、浮かびあがり洞窟の外へと飛び出していった。

次回更新は来月末(?)を予定……予定は未定なのであしからず。


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