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カエルになったベルナ 最終話

「グエッ(異様な光景ね)」


城の一室に集められカエルにベルナは顔をしかめた。

自分もカエルの姿だがここまでカエルが集まると少し気持ちが悪い。

テーブルの上に集められていたカエルは顔をしかめてお互いを見合っている。


「順番に人間に戻している最中だよ。今、ドネツク殿は自分が元に戻るための液を作っているところだ。カエルの姿で」


バージル王太子は苦笑してベルナ達を別室に案内した。

ディートリッヒの肩に乗りながらベルナは頷く。


「グェェ(やっと人間に戻れるわ)」


「そうだな。長かった……」


先ほどまでロンド王子と戦っていたディートリッヒは少し疲れた顔をして頷いた。

薄暗い廊下を歩き、バージル王太子はドアをノックした。


「ドネツク殿、入ってもいいか?」


「いいぜ」


人間の声で答えるマスターの声にベルナは目を丸くしてディートリッヒを見上げた。


「グエェ(マスター、戻っているわ)」


「そうだな」


ドアを開けて中へ入ると、人間に戻ったドネツクがにやりと笑って立っていた。

机の前に怪しい薬草や術に使用する道具が並んでいる。


「散々な目に合ったぜ。あの嬢ちゃんに後ろからカエルにされたかと思ったら、井戸に放り込まれた」


ドネツクは疲れたように肩を揉んだ。

机の上に並んでいるコップを一つ取ってディートリッヒに差し出した。


「これを飲ませればベルナちゃんは人間に戻るぜ」


「すまない」


ディートリッヒが礼を言って受け取る。


「まさか俺がカエルにされるとは思わなかった。ロンド王子はどうなった?」


ドネツクが聞くとバージル王太子が微かに笑って答える。


「死んでいたよ。死因はまさかの雷に打たれたってことだが。天罰かな」


「天罰だな。術を面白おかしく使いやがって。どっちにしろ、始末しないといけない奴らだったからちょうど良かったな」


「これで一応、術を使って人を陥れていた人物はすべて死亡した」


バージル王太子の言葉にベルナは少し暗い気持ちになる。

知っている人が死んだのだ。

良かったとは言えないが、彼らにはそんな未来しかなかったのだろうかと疑問に思ってしまう。


「それに、ロンド王子は少し性格が歪んでいたから、捕まえて国に戻しても処刑は免れなかっただろう。処刑と言う名の病死かな。王が自ら手を汚さずに良かったと思う。さすがに息子を殺すのは辛いだろう」


バージル王太子の言葉にディートリッヒは頷いてコップを手に歩き出した。


「細かいことは上の方で話し合ってください。僕はベルナを元に戻してきます」





「さて、ベルナ元に戻ろう」


部屋の一室を借りて、ディートリッヒはソファーに座る。

膝の上に乗ったカエル姿のベルナに語り掛けた。


「グェェ(はい、コップをください)」


水球の付いた手をディートリッヒに向けるとディートリッヒはベルナに微笑んで持っていたコップを自ら口に含んだ。


「グェ(えっ?)」


ベルナは嫌な予感がしてディートリッヒを見上げる。

彼は微笑んだままベルナを持ち上げると、カエルの口に自らの口をくっつけた。


(カエルの姿なのに信じられない)


ベルナは驚きつつディートリッヒの唇を受け入れて、流される液体を飲み込んだ。


「グッ」


微かな眩暈と吐き気にベルナは目を瞑って耐える。

吐き気が収まり、目を開けるとディートリッヒの綺麗な瞳が優しくベルナを見下ろししていた。

視界が高くなったことに気づいたベルナは自分の手を見つめた。

水球が付いた手ではなく人間の5本の指が目に入る。


「元に戻った」


喜んで体を見下ろすと、真っ裸な自分の姿にベルナは慌てて身を縮めた。


「今更恥ずかしがらなくても」


ディートリッヒは苦笑しながらソファーに置いていた自らのマントをベルナにかけた。

掛けられたマントを慌てて体に巻き付けてベルナは頬を膨らませる。


「恥ずかしいわよ」


顔を赤らめながら言うベルナの額に、ディートリッヒは音を立ててキスをした。


「元に戻って良かった。ベルナの体温を感じる」


ベルナを抱きしめながら、額にもう一度キスをして、瞼、頬と唇を落としていく。

そして最後にベルナの唇を塞いだ。

お互いの体温を感じるように深く長い口づけをする。

ベルナの息が上がった頃にディートリッヒはベルナを解放する。


お互い額をくっつけて見つめ合った。


「ベルナ、どんな姿になっても愛している」


「身に染みてわかったわ。ありがとう。私も愛しているわ」


ベルナは苦笑してディートリッヒにもう一度キスをした。







「迷惑をかけたね」


ベルナとディートリッヒが国に戻って数日が経過していた。

アンドレ王子が直接謝罪をしたいという事でベルナは久しぶりに元職場の城へと来ていた。

数か月ぶりの元職場は何も変わっておらず、懐かしさを覚えながらも向かったレナード王子の執務室で待っていたのは疲れた顔をしたアンドレ王子だった。


ソファーに座っていたベルナは隣に座るディートリッヒを見上げた。


「その後はどうなったのですか?」


謝罪を受け入れディートリッヒが聞くと、アンドレ王子は微かに微笑んだ。


「ロンド兄上は密かに埋葬されたよ。アスケラ嬢は遺体の受け渡しを拒否された。一応、死亡したのを確認はしたので各国に出していた指名手配は解除したよ」


アスケラ嬢は死んでしまったのかとベルナの心が少し傷んだ。

酷いことをされたが、決して死んでほしいとは思っていない。

そんなベルナの心を察してかディートリッヒがベルナの手を握る。

後ろに控えていたアンドレ王子のお付きのベイカーがしんみりしながら口を挟んできた。


「悪い事だけでもなかったのですよ。ロンド王子の遺品から一冊の本が見つかりましてね。アンドレ王子が女性から嫌われるという術を解くすべが書かれていたのです。これで王子も結婚相手が見つかるかもしれませんね」


涙を拭きながら言うベイカーにアンドレ王子は微かに笑った。


「そうだな。女性から嫌われている人生では無くなるのは嬉しい」


「あ、だから今日は服装が地味なのですね」


いつものアンドレ王子の恰好ではなく上下黒い服を着たアンドレ王子にベルナが頷くと彼は首を振った。


「いや?これは喪に服しているからだ。恰好は特に変わってはいないが……」


あの派手な恰好が女性に敬遠される原因でもあるのだがベルナがそれを言う事はできない。


グッと言葉を飲み込んでアンドレ王子の額に光る王冠を見つめた。


(あの王冠みたいなのも似合っていないし。髪の毛も相変わらずくるくる縦ロールだし。術以外に治すところがあるのに言えないわ)


そんなベルナの心中は誰も察してくれず、アンドレ王子の隣に座っていたレナード王子が思い出したように手を叩いた。


「そうだ、世界を飛び回っているマスターから伝言があったんだ。ディートリッヒに術がかからないのは、二重に術を掛けることは高等なことだからロンド王子にはまだ出来なかったのだろうという見解だそうだ。気にしているかもしれないから伝えておいてくれと言われていたんだった」


「なるほど。ロンド王子も不思議がっていたからな。術を解かないでおいて良かった」


ディートリッヒは納得して頷いた。


「それでカエルになってどうだった?辛かっただろう?」


アンドレ王子にからかうように言われてベルナは頷く。


「辛かったわ。体はベタベタするし、言葉は通じないし、見た目が酷くて落ち込みました」


「そうだろう。もう二度とあのような経験はしたくないな」


「そうですね」


ベルナとアンドレ王子はお互いカエルになった者同士妙な連帯感を感じて頷いた。




アンドレ王子との謁見が終わり、ベルナとディートリッヒは自宅へと戻った。

緊張から疲労感がどっと出てきてベルナはソファーの背もたれに身を預けて天井を眺める。


「疲れたわ」


「ずっと忙しかったからな」


ディートリッヒもソファーに座るとベルナを持ち上げて膝の上に乗せた。

小さくなった時と変わらない扱いにベルナは冷めた目でディートリッヒを見上げる。


「カエルでも小さくもないのだけれど」


「知っている。ベルナの体温を一番感じるのがこうすることだから。ベルナはじっとしていればいいんだよ」


ギュッと抱きしめられてベルナも抱きしめ返す。


「カエルになってわかったわ。こうして体温を感じあえるのは素晴らしい事ね」


「そうだな。カエル姿でも可愛かったけれど、こうして人間の姿が一番いい」


「そりゃそうでしょう。カエルがいいと言われたら私はショックで寝込むわ」


眉をひそめて言うベルナにディートリッヒは軽く笑って額にキスをした。


「アンドレ王子もこれから大変だろうな」


「そうなの?」


「各国回って、謝罪をしに行くらしい」


謝罪だけではなくきっと国同士の難しい取引もあるのだろうとベルナは頷いた。


「そこでいいお嫁さんが見付かるといいわね」


「そうだな。まぁ、あの格好では無理だろう」


ディートリッヒの言葉にベルナは噴き出す。


「ディートリッヒ様もそう思うのなら言ってあげればいいのに。私からは恐れ多くて言えないけれどね」


「僕だって言う事は出来ない。まぁ、どうでもいい事だしな」


ディートリッヒは頷いてベルナにキスをした。


「辛いことも多かったけれど、ディートリッヒ様とこうして過ごせることが嬉しい」


ベルナが言うとディートリッヒも頷く。


「考えも及ばないことに巻き込まれて散々だったけれど、こうしてベルナが無事で良かった」


お互い抱き合って体温を感じ微笑み合う。


「おじいさんとおばあさんになるまで仲良く過ごせるといいわね」


ベルナが言うと、ディートリッヒは微笑んだ。


「多分、そうなるよ」


ディートリッヒの年を取った姿など想像ができないなと思いながらベルナは彼の口づけを受け入れた。





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