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跪いている彫刻のように美しいディートリッヒはじっとベルナを見つめている。

宝石のようにキラキラ輝いている瞳に見つめられてベルナは助けを求めるように壇上に居るレナード王子に視線を送った。

王子とは口をきいたことは無いが、ディートリッヒが護衛しているだけあって上司なのだから何とかしてくれと視線で訴えるが面白そうにニヤニヤ笑っているだけだ。


その横に立っているサイア姫が睨みつけてくる顔を見て慌てて視線を逸らした。


「ディートリッヒ様、しっかりしてください!姫様に結婚を申し込むのでしょう!」


小声でディートリッヒに言うと彼は頷いてお盆を持ったままのベルナの手を取ろうとする。

いつの間にか傍に居たサノエがベルナのお盆を奪うとどこかに消えていった。

空いたベルナの手をディートリッヒは両手で包み込むと微笑む。


「どうか、僕と結婚してください。愛しい人よ」


「はぁぁぁぁ?」


ベルナとサイア姫の声が会場に響いた。


「いや、私じゃなくて姫様に言うセリフですよ!しっかりしてください!私たちはそういう仲じゃないですよね!」


ワナワナと怒りで震えているサイア姫が見えてベルナは慌てて否定をした。

ディートリッヒに掴まれている手を引っこ抜こうとするが力が強く外れない。


「たまにしか話すことは無かったが、ベルナと会うと心が落ち着く。結婚して幸せな家庭を築こう」


神々しい笑みを浮かべて見上げるディートリッヒに思わず頷きそうになるがベルナは首を振った。


「いやいやいや。おかしいですって!ディートリッヒ様ちょっとおかしいですよ!」


慌てて否定をするベルナにディートリッヒは悲しそうな顔をして目を伏せる。

様子を見ていた招待客が騒めきだした。


「ディートリッヒ様、かなり表情豊かねぇ」


「いつも無表情なのに・・・」


囁いている人たちの声に、ベルナは慌ててその場を離れようとするがディートリッヒが手を離してくれない。

困っていると、壇上に居たサイア姫の兄バージル王太子が手を叩いて大笑いをした。


「あははっ!良いねぇ!サイアの妙な魔術はちゃんと効果があったんだよ。どうしてもサイアに結婚してくれと言えなくなり、本当に愛している人に結婚を申し込んだ。良い魔法ではないか!」


大笑いをしているバージル王太子の言葉に招待客達が頷き始めた。


「確かに・・・だからディートリッヒ様はサイア姫に結婚を申し込めなかったのね・・」


「ずっと黙っていたからな。恐ろしい魔法だな」


口々に言っている招待客に、サイア姫は顔を真っ赤にして手に持っていた扇を力任せにへし折り、床に投げつけると音を立てて歩き出した。

怒りを込めた目で見られて慌ててベルナは下がろうとするがディートリッヒに手を握られたままで身動き一つできない。

ゆっくりと近づいてくるサイア姫は歯を食いしばりながらベルナを睨みつけると右手を上げた。


「あんたに結婚なんてさせるものですか!ディートリッヒ様が愛しているのは私なのに」


サイア姫は低く呟くと、聞いたことが無い言語の言葉を呟いた。

サイア姫の手の平が一瞬輝き、ベルナは眩しくて目を瞑った。

眩暈のような症状に平衡感覚がなくなり倒れそうになるベルナの体をディートリッヒが支える。

吐き気を堪えて目を瞑ったままのベルナの耳元でディートリッヒの低い声が響く。


「ベルナ・・・大丈夫か?」


「うっ、気持ち悪いです」


吐き気を堪えて呟き喉元に手を当てる。


(声は取られていない。それなら視界を奪われたのかしら)


目を開くと、心配そうなエメラルドグリーンの瞳がすぐそばにあり慌てて身を逸らす。


「視界も奪われていない・・・一体何が・・・」


呟くベルナにお構いなしに、壇上の上に立っているバージル王太子がにやりと笑い後ろに控えていた自分の騎士に声をかけた。


「現行犯だ。サイア姫を拘束しろ」


バージル王太子の号令に騎士が素早くサイア姫の腕を掴んで後ろに回し拘束をする。


「何するのよ、放しなさい」


サイア姫に睨まれてもバージル王太子の騎士は表情一つ変えずに王太子を振り返った。

バージル王太子はベルナとディートリッヒを見て手を叩いた。


「ありがとう。サイアが妙な魔法で気に入らない人に危害を加えているのは分かっていたけれど自分はやっていないと言ってね。こうして可愛いお嬢さんに魔法を使って危害を加えているところを見ることができた。お礼を言うよ」


「危害?私は何もされていませんが・・・・」


ベルナは呟いていつもより声が少し高いことに気づいた。

自分の手も小さく見えて両手をまじまじと見る。


「私どうなっているの?」


傍にいるディートリッヒに問いかけると、彼は言いにくそうに視線を逸らした。


「小さくなっている」


「小さくなっている?・・・小さくなっている!」


縮んでいる体を見下ろしてベルナは叫んだ。

黒い侍女服は小さくなったベルナには大きすぎてブカブカになっているのを見てまた叫んだ。


「胸が無くなっているわ!」


「初めからそんなにないわよ」


叫んだベルナに遠くからサノエが突っ込んだ。

脱げ落ちそうな侍女の服の上からディートリッヒはベルナを抱えて立ち上がった。

腕の中にすっぽり入るほどの小さな体になってしまった自らを見てベルナは青ざめる。


「元に戻るんですか?」


聞こえてくる自分の声はかなり幼い。


「戻らないわよ!一生その姿で暮らすのね」


騎士に拘束されたまま吐き捨てるように言うサイア姫にバージル王太子がため息を吐いた。


「とりあえず、他国で申し訳ないけれどどこかに閉じ込めておいて。手を使わせなければ妙な呪文も使えないはずだから、手は拘束していてね」


「は、はい」


状況を飲み込めない城の騎士が慌てて敬礼をしてサイア姫を連れていく。


「もしかして、私に結婚を申し込んだのはサイア姫を捕らえるためですか?」


ディートリッヒに告白されたことは可笑しいとベルナが聞くと彼は真面目に首を横に振った。


「サイア姫を捕らえることなど知らなかった。妙な術を掛けられたらどうしてもサイア姫に結婚を申し込むことが出来なくなったのだ。そして、ずっと想っていたベルナに結婚を申し込んでしまった」


「はぁぁぁ?やっぱりディートリッヒ様おかしいですよ」


益々混乱するベルナが叫ぶとバージル王太子がまた手を叩く。


「いやー、面白いことになっているね。とりあえずいったん落ち着こうか。別室用意してくれる?」


「そうだな。ディートリッヒがここまで感情をあらわにするところを初めて見たよ」


ディートリッヒが護衛騎士を務めているレナード王子もニヤニヤと笑いながら近づいてきた。

二人のからかうような様子に、ベルナは絶望的な気分になる。


「一生このままだったらどうしよう・・・」


小さくなった自分の姿を見下ろして呟くベルナにディートリッヒはニッコリと微笑んだ。


「小さくなった姿も犬みたいで可愛いと思うが・・・」


「私はペットではありません・・・」


ベルナは小さく呟いた。





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