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カエルになったベルナ 4

翌朝、ディートリッヒとベルナはバージル王太子が居る城へと向かった。


「グェェ(今日もいい天気ね)」


馬を操るディートリッヒの肩に乗ってベルナは空を見上げる。

雲一つない青空に気分が少しだけ晴れやかになる。


「今日のベルナも可愛い。ピンク色のドレスが良く似合っている」


「グエェェ(カエルの姿で言われても嬉しくも無いし、逆にディートリッヒ様の頭が心配になるわ)」


ベルナが言うと、ディートリッヒは苦笑した。


今日のベルナはナルアーニが頑張って作ってくれたピンクの布地にレースが付いている女性カエルらしく可愛いデザインのドレス姿だ。

ディートリッヒが嬉しそうに着せてくれたのを思い出して複雑な気持ちになり顔をしかめる。


(ディートリッヒ様本当に大丈夫かしら)


幼児になった時も心配したが、カエル姿でも嬉しそうにベルナの世話をしてくれるのはもう別の何かではないかと夫の癖が心配なってくる。


(とにかく一刻も早く人間に戻らないと)


これ以上ディートリッヒの変な部分を見なくて済むとベルナは城へ早く着きたいと願った。




田舎町から都会の景色に変わると、町の中心にそびえ建つ青い城が見えた。


「グエェェ(バージル王太子がいる城?)」


自分の国以外の城を初めて見たベルナが感動して水球が付いた指で城を指さした。

ディートリッヒは馬の速度を落としながら頷く。


「そうだ。レナード王子がバージル王太子に手紙を送っている。マスターの足止めもしてくれているはずだ」


「グェェェ(あぁ、早くマスターに会いたい)」


カエルの姿のままで祈るようなポーズをするベルナにディートリッヒは頷いた。


「そうだな」


城へと続く大通りをディートリッヒは馬を走らせた。

他国の騎士服を着ているディートリッヒに何かあったのだろうかと町の人達はチラリと視線を送りあまりにも美しい顔に二度見をする人達を見てベルナはカエルの姿のまま苦笑した。


「グエェェ(かなり注目されているわ。ディートリッヒ様があまりにも綺麗だから)」


からかうようにベルナが言うとディートリッヒは肩眉を上げた。


「面倒くさい事だな」


(生まれてから顔で注目を浴びていると喜びとかないものなのね)


もし、ベルナが他人が振り向くぐらい美しく生まれていたらきっと嬉しいのにと思うがフト姉の事を思い出す。


(そう言えば姉さんも、自分の顔があまり好きではなさそうだったわね。人って無いものねだりなのね)


ベルナがディートリッヒの肩の上で考えていると気付けば城の門の前まで来ていた。

門番が敬礼をして通してくれる。


「話はお伺いしております。馬のままどうぞ」


「ありがとう」


ディートリッヒも敬礼をして礼を言うと馬の腹を蹴った。

スピードを上げて門を通り抜け城までの馬を走らせる。


「話が通っていて助かる」


「グェェ(本当ね)」


説明する手間が省けてホッとするディートリッヒにベルナも頷いた。

城の入口まで来るとまた騎士達が敬礼をしてディートリッヒ達を迎えてくれた。


「長い移動ご苦労様でした。バージル王太子がお待ちです」


「すぐにお会いできるのか」


馬を降りながらディートリッヒが言うと騎士は頷いた。


「はい。ご案内します」


肩の上に乗っているカエル姿のベルナを見つめながら騎士が敬礼をする。

集まっていた他の騎士達もベルナにくぎ付けだ。


「その……肩のカエルは……」


ディートリッヒを案内しながら城の廊下を歩く騎士が言いにくそうに聞いてくる。


「僕の妻だ」


「あ、そうですか。我が城でも数人行方不明になったものが動物に変えられ、貴国の術師のおかげで元に戻った人もおりまして。皆感謝しております。奥様も戻るといいですね」


「ありがとう」


てっきりいつもの通り大笑いをされるかと思ったが、丁寧な騎士の対応にベルナは感動をした。

ディートリッヒが丁寧に礼を言い、肩に乗っているベルナもカエルの姿のまま頭を下げた。

長い廊下を歩いていると、また視線を感じベルナは周りを見回した。

城の侍女達が顔を赤らめてディートリッヒに熱い視線を送っている。


(懐かしい光景ね)


ディートリッヒと結婚する頃には、ベルナ以外は興味ない、または幼女趣味だと言われて熱い視線を送る女性達は減っていた。

異国の地ではディートリッヒのことを知らない女性達の注目の的だ。

妻であるベルナは女性に人気があるのが気に入らないが、そういう人と結婚したのだから仕方がないと諦める。

自分以外に興味が無いと態度で示してくれるディートリッヒを信用しているからだ。


またぐるぐると考えていると王太子が待っていると言う部屋へ着いたようだ。

ドアの前には数人の騎士が立っているのを見てベルナは気を引き締めた。


「バージル王太子がお待ちです」


ドアの前で警護をしていた騎士が敬礼をして、ドアをノックした。


「ディートリッヒ殿が到着されました」


しばらくすると中に入るように促される。


ドアの前を警護している騎士達もディートリッヒの肩の上に乗っているベルナを見つめて目を見開いている。

ベルナが頭を下げて挨拶をすると、騎士達も軽く頭を下げてくれた。


「やぁ、久しぶりだね」


バージル王太子は立ち上がってディートリッヒ達を迎えてくれた。

ベルナがバージル王太子と会うのはサイア姫がディートリッヒに術をかけた事件以来だ。

苦々しい思い出だが、あの日がなければベルナはディートリッヒと結婚しなかったと思うといい日だったのかどうか悩むところだ。


「お久しぶりです。今回はご協力ありがとうございます」


ディートリッヒが敬礼をして言うとバージル王太子は含みのある笑みを浮かべた。


「とんでもない。そちらの国の優秀な術師にはお世話になっているからね。ところで、その肩に乗っている可愛いカエルはベルナさんかな?」


室内に居る騎士達の視線が一斉にベルナに集まる。


「そうです」


ディートリッヒが頷くと、バージル王太子は耐えられないというように噴き出して笑い始めた。


「手紙では聞いていたけれど、実際に見るとすごく異様だね。カエルに可愛い洋服を着せて肩に乗せている美形の騎士なんてっ……」


そう言いながら腹を抱えて笑っている王太子。


周りに居た騎士も笑いを堪えているのか唇を噛んで耐えているが肩が震えているのが見えた。

ベルナ自身もレースが付いたピンク色のドレスっぽいものを着させられているカエルを見たら笑うだろうと思い遠い目をした。


そう思っているベルナとは対照的に、ディートリッヒは珍しく眉間に皺を寄せてかなり不機嫌そうにしている。


無表情な彼にしては珍しい事だ。


「グエェェ(ディートリッヒ様、カエルに服を着させていたら誰だって面白いから仕方ないわよ)」


このまま王太子に怒り出すのではないかとベルナは心配になってディートリッヒに囁いた。


「ベルナはカエルになってもこんなに可愛いのに」


「グェ(絶対に少し可笑しいと思うわよ)」


自分を愛してくれるのは嬉しいが、方向性が絶対可笑しいと確信をしてベルナは遠い目をした。

そんな二人のやり取りにますますバージル王太子は笑っている。


「すまないね。僕もマスターから言葉が解るペンダントを借りている」


そう言って首から下げているペンダントをちらりと見せたバージル王太子にベルナは慌てて頭を下げた。


「グエェ(失礼しました)」


「気にしないでいいよ。笑わせてもらったからね」


ひとしきり笑った後に、バージル王太子はディートリッヒに座るように勧め自らも机を挟んだ前に座った。

優雅に足を組んでバージル王太子はディートリッヒと膝の上に移動したカエル姿のベルナを見つめた。


「何度見てもカエルが可愛い洋服を着ているのは笑ってしまうね」


そう言ってまた笑いだすので周りに居た騎士が敬礼をして報告をする。


「今、術師ドネツク殿を呼んでおりますのでお待ちください」


「そうだった。昨日、行方不明だった使用人がカエルになって見つかってね。人間に戻してもらったんだ。ただね、カエルになった使用人が行方不明になったのは一週間前だ。誰がカエルにしたのか……」


バージル王太子の言葉にディートリッヒが無表情に聞いた。


「サイア姫がやったのではないですか?」


「あぁ、サイアね。彼女は行方不明のままだ。もしかしたらこの世に居ないかもしれないね」


サイア姫は行方不明となっているが、バージル王太子がカエルになった姫を密かに飼っているということだったがどうやら彼女ではないらしいとベルナは密かにうなずく。

ディートリッヒを見上げると難しい顔をして頷いていた。


「……なるほど。他の誰かとなると、ロンド王子かアスケラ嬢でしょうか。他国でも騒ぎを起こしているようですし」


ディートリッヒがそう言うと、バージル王太子は頷く。


「多分そうだと願いたいね。これ以上術を悪用する人間がいたら頭が痛くなるよ」


そこへ、一人の騎士がバージル王太子に耳打ちをして何かを報告している。


(なにかあったのかしら)


カエル姿のベルナとディートリッヒはお互い顔を見合わせた。

バージル王太子は足を組み替えると一つ息を吐いた。


「残念なお知らせだ。ドネツク術師が行方不明だ。着ていた洋服が城の庭に落ちていたらしい」


「グェ。グエェェェ!(えっ。それってマスターがカエルになったということじゃないの!)」


カエル姿のベルナが叫ぶと、王太子を護衛していた騎士が噴き出した。


「す、すいません。カエル姿なのに何を言っているのか分かったことが面白くて」


笑いを堪えながら必死に頭を下げてくるのでベルナは“いいのよ”と言うように手を振った。

ディートリッヒはベルナを優しく抱えると肩に乗せる。


「ドネツク殿を探してもよろしいですか」


「城の中はどこでも探していいよ。僕達も捜索しよう」


ベルナとディートリッヒを見て笑いを堪えながらバージル王太子も立ち上がった。


「ありがとうございます」


頭を下げるディートリッヒに頷いてバージル王太子が手を叩いた。


「よし、ドネツク殿を捜索しよう。カエルや不審な動物を見かけたらすぐに回収して僕かディートリッヒに確認をする。言葉が解る魔法のアイテムを持っているから。それから、ロンド王子とアスケラ嬢が潜伏している可能性がある。見つけ次第、殺せ」


王太子の言葉に騎士達は敬礼をして一斉に動き出した。




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