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カエルになったベルナ 2

「ベルナ!」


大きな音を立ててリビングのドアが開くと金色の髪の毛を振り乱し青ざめているディートリッヒが飛び込んできた。

鬼のような形相で部屋を見回して、ソファーの上にちょこんと座っているカエル姿のベルナを見つけると駆け寄ってくる。


「グエェェ(ディートリッヒ様ぁ、こんな姿になってしまったの)」


ディートリッヒの姿をみて安心したのか、カエル姿のベルナは大きな目からポロポロと涙を流しながら訴える。

言葉は通じないが、ディートリッヒは目を見開いてそっとカエルのベルナを抱き上げ頬ずりをした。


「ベルナ。どんな姿になっても愛しているから落ち込むな」


「グエェェ(ディートリッヒ様)」


カエル姿の自分にいつもと変わらず愛情を注いでくれるディートリッヒに感動をしてベルナも同じように頬ずりをした。


「うわっ。本当にカエルになっている」


レナード王子を先頭にぞろぞろと護衛騎士達が入ってきてカエル姿のベルナを見て目を丸くしている。


「グエェェ(助けてください)」


ベルナの助けを求める視線にレナード王子は申し訳なさそうに手を振った。


「ごめんよ。今マスターは国を出ていて、他のカエルになった人を助けている最中だよ」


「グエェェ(そんなぁ)」


絶望的な状況にディートリッヒの両手の中でベルナはぐったりとする。


「ベルナ?大丈夫か?」


心配したディートリッヒにベルナはカエルの目を向けた。


「グエェ(大丈夫。精神的に辛いだけだから)」


「僕が守るから心配しないでくれ」


手の平の上のカエル姿のベルナにディートリッヒは薄く微笑んで語り掛けた。

そんな二人の姿を見守っていた護衛騎士達が感心して囁き合っている。


「ディートリッヒの愛情が本物だと証明されたな。でも、ちょっと怖くないか?」


「怖いよ。ベルナさんがカエルになったと聞いたときのあの顔、殺されるかと思ったよ」


レナード王子も頷いて首にかけていたネックレスを外す。


「このネックレスが無いのにディートは言葉が解るんだもんね。愛だなぁ」


そう言いながらディートリッヒにネックレスを渡した。

ディートリッヒはネックレスを首にかけてベルナに微笑む。


「これで言葉が通じるようになった。詳細を聞かせてくれ」


「グエェ(はい)」


ベルナは頷いてアスケラ嬢が現れてからあっという間にカエルの姿にさせられた経緯を語った。


「あの女!殺してやる」


全て聞き終わると、ディートリッヒは怒りを抑えきれずギリギリと歯を噛みしめた。


「ディートが怒っている。初めて見たかもしれない」


レナード王子が珍しいものでも見るように感動しているのに対して傍に居た護衛騎士は呆れたように首を振った。


「珍しいですけれど、今下手なことを言うと殺されますよ。ディートリッヒ様は気が立っているから……」


小声で言う若い護衛騎士にレナード王子は頷いて真面目な顔を作って咳払いをした。


「それで、今はマスターに早く戻ってきてもらおうと手紙を出している最中だがしばらく戻れないかもしれないと言う雰囲気だ。バージル王太子の国と、王家問題で争って王子達が行方不明になっている国を行ったり来たりしているらしい」


「なるほど、今居るとしたらどの国だ?」


ギロリと鋭い目で見られてレナード王子は一歩後ろに下がりながら答えた。


「バージル王太子の国だってさ。またカエルにされた人が見付かったから呼び寄せたって」


「なら今からそこに向かう。早くベルナを元に戻してもらおう」


立ち上がったディートリッヒの人を殺しそうな雰囲気に一同は頷くしかなかった。


「バージル王太子にそう伝えておく」


「よし、行くぞ!ベルナ」


「グエェ(準備をしないと)」


今すぐにでも旅立ちそうな雰囲気にベルナが言うと、息を切らせながらナルアーニが部屋にやって来た。


ナルアーニはディートリッヒの手の平の上に座っているベルナの前に小さな布を広げた。


「ベルナちゃん、できたわ!カエル用の洋服が」


「えっ、それを一生懸命作っていたの?」


呆れたように言うレナード王子をディートリッヒは睨みつけた。


「いや、よく考えたら大切なことだった。ベルナは裸だ。母上ありがとう」


「いいのよ。可愛いのを作ったから。もう少し時間があればもっと可愛いのを作れるわ」


小さなカエル姿のベルナに赤い色の小さな洋服を着させた。

袖はついていないが上下が繋がったワンピースタイプの洋服を着たカエル姿のベルナはかろうじてメスのカエルに見える。


「可愛い。ベルナ」


ディートリッヒは洋服を着たベルナを褒めると軽くキスをしてナルアーニに向き合った。


「母上、出発は明日にする」


「わかったわ。可愛い洋服を数枚作るからそれを持って行って」


母子で頷き合っている姿とカエル姿の洋服を着たベルナを見て護衛騎士達が軽く首を振った。


「シュールすぎる。なにもかも、受け止めきれない」





ベルナは毎晩眠っているベッドの上で大きなため息をついた。


自らの姿を手鏡で見つめて情けなくなってくる。

緑色の肌はベトベトしており、両手は吸盤がついている。

目はぎょろりとしておりちっとも可愛くない。

こんな姿の自分を可愛いと言ってくれるディートリッヒは無理をしているか、少し可笑しいのではないだろうか。


吸盤のおかげで物を掴むことはできるが幼女の姿の時よりも不便になってしまった姿にまた涙が出てくる。

ボロボロと泣いていると、お風呂から帰ってきたディートリッヒがベルナの隣に腰を降ろした。


「泣きたい気持ちは判るが、すぐに元に戻る。そう落ち込むな」


ベルナをそっと持ち上げてカエルの唇にキスをした。


「グエェェ(こんな姿の私にキスをしても気持ち悪いでしょう)」


「まさか、どんな姿でもベルナであれば愛しているから気持ち悪いなど思うはずもない」


「グエェェ(ありがとう。ディートリッヒ様)」


何度ディートリッヒの言葉に救われるのだろうか。


愛する人には嘘が付けない呪いともいえる術が解けないままの彼の言葉は真実なのだ。

ベルナは心からお礼を言うと、ディートリッヒは軽く笑ってまたキスをして枕にベルナを置いた。


「本当に夕ご飯は食べなくて大丈夫なのか?」


心配するディートリッヒにベルナは頷く。


「グエェェ(不思議とお腹が減らないの)」


「そうか。明日は早く出るからもう寝よう」


「グエェェ(確かに疲れたわ。おやすみなさい)」


カエル姿のベルナが目を閉じるとすぐに静かになる。

眠ったのを確認してディートリッヒはまたベルナにキスをした。


「どんな姿になっても愛しているよ。ベルナ」


ディートリッヒの言葉が聞こえたのかカエル姿のベルナは微かに微笑んだ。





翌日、早朝にディートリッヒは荷物を愛馬に乗せる。

その肩にはカエル姿のベルナがちょこんと乗っている。


「ベルナちゃん、人間になって元に戻ってきてね。カエル用の可愛いドレスを数枚作ったからちゃんと着替えるのよ」


昨日と同じ赤い服を着ているベルナにナルアーニが言うとベルナは頷いた。


「グエェェ(ありがとうございます)」


「いいのよ。可愛い娘だもの。二人とも気を付けてね」


ベルナを撫でて言うナルアーニに少し離れて見ていた護衛騎士達がまた軽く首を振っている。


「ネックレスも無いのに話が出来ている。ディートリッヒの母上は凄いわ」


「世界で一番美しい息子を持っていると感覚もおかしくなるんだよ。それより、ディートリッヒ様の肩に赤いドレス姿のカエルが乗っているのが異様すぎて怖い」


「たしかに、少し可笑しい人かなって思うもんね」


護衛騎士達の声は聞こえているはずだが、ディートリッヒは全く気にした様子がない。

そのまま馬に跨ると、噂話をしている護衛騎士達に鋭い視線を向けた。


「逐一連絡をしろ」


「変化があればします」


敬礼をする騎士達に頷いてディートリッヒは馬の手綱を引いた。

駆けだしていく馬を見送って、一同は手を振った。


「お気を付けて」


「グエェェ(ありがとうございます)」


ベルナはディートリッヒの肩に乗ったまま手を振った。

二人の姿遠くなると、護衛騎士達は呟いた。


「完璧ヤバイ人ですよ。ディートリッヒ様」


「カエルに服着せて可愛いって褒めてキスしていたら下手したら逮捕だよね。大丈夫かな」


心配している若い騎士に、ナルアーニは振り返る。


「城の隊服を着ているから大丈夫よ。身分証も持っているし、あの顔なら何でも通るわよ」


「それもそうですね……。最後は顔かぁ……」


何かを諦めたような若い騎士を励ますようにナルアーニは彼の背を叩いた。



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