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カエルになったベルナ 1

*完結済みでしたが追加で更新しております。どうぞよろしくお願いします。

鳥の鳴き声にベルナは目を覚ました。

ディートリッヒと結婚をして数か月、目が覚めてから目にする新居の部屋の風景もだいぶ見慣れてきた。


傍で眠っているディートリッヒにも驚かなくなったベルナはじっと夫の顔を見る。

プラチナブロンドの長い髪の毛が朝日に当たりキラキラ輝き、本当に人間なのだろうかと疑いたくなるような美しい寝顔もだいぶ見慣れてきた。


(ディートリッヒ様と一緒に寝ることに慣れるとは思わなかったわね)


初めのころは照れ臭かったが、今はもう日常の一部として当たり前のように認識していることにベルナは感心する。

腰に回っているディートリッヒの筋肉質な腕を軽く叩いた。


「おはよう、ディートリッヒ様」


身動き一つせず目を瞑っているディートリッヒはいつもベルナが起きる少し前には起きている。

初めのころは何度も本当に眠っていると思っていたが今はもう騙されない。

ベルナが挨拶をすると、ディートリッヒは目を開いた。


「おはよう。ベルナの体温をもう少し感じていたかったがそろそろ時間だな」


額にキスをされてベルナもディートリッヒの頬にキスをした。


(毎朝の習慣になっているけれど慣れって恐ろしいわね)


ベッドから起き上がりながら一年前の自分に言っても到底信じてもらえないディートリッヒとの距離感に心の中で呟く。


「そういえば、今日は母上が来ると言っていたな」


ディートリッヒは身支度をしながら言うとベルナは頷いた。


「お茶会の招待状の返信を一緒にしてくださるって。助かるわ」


結婚をして城の侍女の仕事を辞めたベルナはディートリッヒの妻として屋敷を切り盛りしている。

足りない知識をディートリッヒの母であるナルアーニに指導をしてもらっている。

ディートリッヒの家と少しでも近づきたいと思っている貴族達のお茶会やらの誘いの手紙をどうしていいか困っているベルナに助言をしてくれるため大変助かっているのだ。


「他の貴族など適当にあしらっておけばいい」


無表情に言うディートリッヒにベルナは苦笑した。


「お義母様もそう言っていたわ」


いい方もそっくりだと内心思ったがベルナはあえて言わない。

意外と似たところがある母と息子だがお互いそう思っていないところがまたベルナにとっては面白い。




身支度をすませ、共に朝食をとる。

いつもと変わらない日常にベルナは幸せを感じる。

そして、ディートリッヒが仕事に出かけるのを玄関で見送る。

騎士服に身を包んだディートリッヒを見上げてベルナは顔を赤らめた。


制服を着ているディートリッヒはカッコよく見える。

こればかりは何度見ても慣れるものではない。

そんなベルナの心中を察しているのかディートリッヒは非常に嬉しそうに微笑んでいる。


「行ってらっしゃいませ」


使い込まれた銀色の剣を渡すとディートリッヒは受け取りながらベルナに軽くキスをした。


「いってくる。何かあったらすぐに知らせてくれ」

「何もないわよ」


毎日同じことを言って仕事に行く夫を見送ってベルナはこんなに幸せでいいのだろうかと思いながら書斎へと向かった。

数年前まではベルナが仕送りをしないといけなかった実家の事業も持ち直し、ベルナの仕送りなどしなくていいほどに回復をしている。


ディートリッヒと結婚をしてから、妻らしいことをしようと台所に立とうものなら奥様はそんなことはしなくていいのですよと言われキッチンに立つのはお菓子作りぐらいだ。

ディートリッヒは多くの人を家に入れることを好まないため少ない使用人で屋敷をやってもらっているが、非常によく働く人たちでベルナが手伝うことなどない。

掃除や洗濯など下っ端侍女だった時代にはやっていた仕事を発揮できなかったが、それよりもディートリッヒの妻としてやることは意外と沢山あった。

屋敷の切り盛りや使用人達の人間関係の確認などはベルナの役目だった。

パーティーやお茶会の招待状の返事などもベルナがやらなければならず意外と毎日忙しく過ごしている。



書斎に入ると少し本のカビ臭い匂いにベルナは軽く眉を顰める。

ベルナ達が住むまでは間空き家になっていたため多少の埃っぽさは残っているのは仕方ない。

ベルナは庭に続く窓を開けた。

少しだけ蒸し暑かった室内に風が入り、埃っぽい空気が入れ替わる。


書斎の机の上に置かれている大量のお茶会と夜会の招待状を見てため息をついた。

ベルナとディートリッヒの馴れ初めや二人がどう過ごしているのか聞きたくて仕方ない人達が居るのだ。


結婚をしてから社交界はベルナ達の話で持ちきりらしい。

それもそうだろう、ベルナが小さくなったと噂されていたり終いにはカエルになる人まで出てきてしまったのだから誰もが興味があるだろう。

そんな場所には行かなくていいとディートリッヒとナルアーニも言ってくれるためベルナは今の所どこのパーティーにも行っていない。

貴族の付き合いをしなくてはいけないのかと思っていたが、以外とナルアーニも行くことは無いと言ってくれてベルナは安心をしていた。

それでも招待状は毎日の様に送り付けられてくる。

無視をするわけにもいかず、断りの返信を書くのだがナルアーニに手伝って貰いながら少しずつ返信をしていた。

今日もナルアーニがやってきたら共に招待状の返信を書く予定だ。


ベルナはため息をついて庭に出た。


「堅苦しい貴族の付き合いをしなくていいのは嬉しいけれど。私たちに注目しすぎで疲れてしまうわね」


一人呟いて大きく伸びをする。

夏ももうすぐ終わりだ。

白い雲が少しだけ高いような気がしてベルナは空を見上げた。

風が吹き庭の木々を揺らす。

風が気持ちよくベルナは目を瞑った。



「見つけたわ! 今度こそカエルにしてやるんだから」



聞いたことがある声が聞こえてベルナが目を開ける前にグラリと眩暈が体を襲った。

急激に来る吐き気を押さえてうずくまる。


「おほほほほっ。やったわ!私をコケにした罰よ」


吐き気が収まり、ベルナが目を開けると地面の近さに驚く。

赤いヒールの靴が近づいてきてベルナは見上げた。


「ほら、あんた今カエルの姿になったわ。私の修業のおかげね」


ベルナの視線の先には醜く微笑んでいるアスケラ嬢が飛び上がって喜ぶとベルナを指さした。


「一生カエルの姿で過ごすのね。あんたの夫にも言っておくのね。私を振ったからこうなったのよ。あと、私を一度でもカエルにした罰ね」


高笑いをして去っていくアスケラ嬢にベルナはショックで身動きが取れない。


(今、アスケラ嬢はなんて言った?私がカエルになったですって?)


まさかと思いながら視線がいつもより低いことが気にかかる。

自分の周りを見ると、先ほどまで来ていたワンピースが芝生の上に広がっている。

せめて幼女の姿であってほしいと祈りながらゆっくりと両手を目の前に持ってくる。



5本あった指が4本になっておりどう見ても人間の手ではなくカエルのそれだ。


「グェェェ(嘘でしょ~!!)」


叫んだ声は情けないカエルの声に変換されてベルナは途方に暮れた。

こんな姿でどうやって生きて行けばいいのか。


「ベルナちゃん!」


庭に続く書斎の開いた窓からナルアーニが走って出てきた。

青ざめた顔をしてベルナの前に跪く。


「グエェェ(カエルになってしまったのです)」


言葉が通じるわけではないがベルナは必死に訴えると、ナルアーニも必死に頷いた。


「なんて言っているかは分からないけれど、見ていたから!ベルナちゃんがカエルになるのを見たから大丈夫よ!すぐにディートリッヒに知らせるわね」


「グエェェ(ありがとうございます)」


握りつぶされたようなカエルの声が自分だとは思えなく、情けなくなりながらベルナは必死に頭を下げた。


(どうしてこんな事になってしまったのぉ)




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