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カエルの王子様 7

大人に戻ったベルナがいつもの侍女服に着替えてレナード王子の執務室に向かうとアンドレ王子が優雅に紅茶を飲みながら手を上げて迎えてくれた。




「やぁ、レディー。お互い元に戻れてよかったね」




ソファーに座り足を組んでキザっぽく言うアンドレ王子の言葉にベルナはなぜか拒否反応で背筋がゾゾッとして身震いをした。


カエルの姿ではなくてもなぜかアンドレ王子の言動が受け付けない。


人に対して拒否反応などしたことが無いベルナが首を傾げているとディートリッヒがベルナの背を撫でた。




「どうした?」




「いえ、アンドレ王子のすべてに拒否反応が出てしまって…なぜですかね」




小声で言うベルナにディートリッヒは無表情にうなずく。




「恰好が異様だからだろう。ベルナが他の男に興味が無くて僕は嬉しい」




「いやいや、そういう事じゃなくて…」




熱を帯びた瞳で見られてベルナはディートリッヒの腕を叩いた。




(何か違和感を感じるのよね)




「さぁ、これで問題は解決したね」




レナード王子が満面の笑みを浮かべて一同を見回した。


さっさと帰ってほしいとアンドレ王子とベイカーを見るとベイカーは心得たと頷いて頭を下げる。




「ご迷惑をおかけしました。アンドレ王子を救っていただきありがとうございます。このお礼はまた今度させていただきます」




「気にしないでいいよ。ただ、アンドレ王子の双子の兄様にこれ以上悪いことをしないように言っておいて」




レナード王子が言うとアンドレ王子は首を傾げている。




「なぜ兄上は妙な術を使っているのだろうか」




「そんなことは僕も知らないし、知りたくもない。そっちの問題はそっちで片付けてくれよ。僕の国では問題を起さないでね」




丁寧に言うレナード王子にベルナは深く頷く。


勝手についてきた女性に危うくカエルにされるところだったのだ。


もう巻き込まれたくはない。




「起こさないでと言われてもね。僕だってカエルになりたくてなったわけではないし」




髪の毛をかき上げながら言うアンドレ王子にベルナが顔をしかめていると、カエル担当だった若い騎士も顔をしかめている。


彼もアンドレ王子が受け付けない一人なのだ。




「殺気を感じますな」




レナード王子の後ろで護衛をしていた護衛隊長が剣の柄に手をかけて呟いた。


部屋に居た護衛騎士達が一斉に動き出し王子達を囲む。


ディートリッヒもベルナを王子達の間に入れると剣の柄に手をかけた。




「何も感じませんが」




アンドレ王子の護衛騎士達が首を傾げながらも警戒しながら配置についている。




「ウチの隊長の怪しい気配を感じる力は獣並なんですよ」




レナード王子の護衛騎士が言うと、隊長がギロリと睨みつけた。




「獣とは失礼だぞ」




隊長が怒鳴りつけると同時に、執務室の窓がガラリと開いた。




「やぁ、諸君」




手を上げてにこやかに入ってきた男にアンドレ王子が驚いて指をさした。




「兄上!」


「兄上?」




ベルナが驚いて窓から入ってきた男を見る。


全身黒づくめの男はよく見ればアンドレ王子と顔はよく似ている。


双子の兄と言う割には雰囲気が全く違い、顔は笑っているが目が鋭く雰囲気も恐ろしい気配にベルナは立ち上がっているレナード王子の陰に隠れた。




「アンドレがカエルになったと聞いたから見に来たのだけれど、もう元に戻ったのか。残念だなぁ」




にこやかに言う双子の兄ロンドにアンドレ王子は首を傾げた。




「なぜ兄上は妙な術を使うのですか?人を動物にするなど酷いではないですか」




「面白いから。退屈な毎日に刺激があるとおもしろいだろう」




にこやかに言うロンド王子にレナード王子は首を振った。




「理解できないが、王子同士で揉めるのは結構。けれど、ウチの国でそういうことはやらないでほしいのだけれど」




「それに対しては申し訳ない。術を研究していると面白いから人で試したくなるのでね。僕も国同士でもめるつもりはないから安心してほしい」




「兄上、なぜアスケラ嬢に教えたのですか、僕が酷い目にあいました」




髪の毛をかき上げて言うアンドレ王子にロンド王子は苦笑する。




「適当に教えてみたら才能があったみたいで、術をマスターしたんだよね、彼女。使い道がありそうだから、アスケラ嬢はもらっていくよ」




ロンド王子は大きなガマガエルを手に持っている。


一同が呆気に取られていると、ロンド王子は微笑みながら手を振った。




「じゃ、また旅に出るから父上たちによろしく言っておいて」




「ま、待ってくれ!兄上。悪いことをしてはダメだ」




まっとうなことを言うアンドレ王子に、ロンド王子は声を上げて笑って振り向いた。




「悪いことをしている感覚は無いよ。ただ、術の研究をしながら世界を旅しているだけだよ。あ、そうだ。アンドレ、お前に小さい頃からかけている術があるんだ」




「え?」


驚くアンドレ王子にロンド王子は面白そうにニッコリと笑った。




「主に女性に毛嫌いされる術。お前が、女に嫌われるのは術のせいだから」




「な、なんだってぇぇぇ。兄上!術を解いてくれ」




ショックを受けながらも懇願するアンドレ王子に、ロンド王子は大笑いをして窓から姿を消した。




「兄上ぇぇ」




今にも泣きそうなアンドレ王子の悲鳴が聞こえる中、騎士達が窓から顔を出してロンド王子の姿を探す。




「姿がありません」




「各方面に知らせろ。ロンド王子を見つけたら速やかに確保…は危ないかな?」




隊長がディートリッヒを見ると彼は頷いた。




「危ないでしょうね。居場所を把握しておくだけにしておいて、アンドレ王子の国にすべて任せましょう」




ディートリッヒが言うと、レナード王子も頷いた。




「あまり関わらない方がいいね。ドネツクはどう思う?」




部屋の隅で黙って見ていた術師ドネツクが肩をすくめた。




「それがいい。人間に戻すことは俺はできるけれど、あの王子様と対峙したら俺が負けるぐらいには術師として上に居るな」




「厄介だな」




ディートリッヒが言うとレナード王子も頷く。




「よし、僕達の国はもう関わらないことにしよう。アスケラ嬢も確保が難しくなったがどう対応していいか困るだけだったしちょうど良かったかな。もう我々に関わらないと信じよう。なので、さっさと帰ってください。アンドレ王子」




アンドレ王子は項垂れながらソファーに力なく座ってよろよろと顔を上げた。




「ショックで立てない。僕が女性から好かれていないとは思っていたが兄上の術だったとは。女性にモテようと美容に力を入れていたけれど関係なかったなんて…」




ショックを受けているアンドレ王子に同情してベイカーがハンカチで涙を拭っている。




「お可哀想に。小さい頃から女性に気持ち悪いとか生理的に受け付けないと言われて、そして今でも言われているアンドレ王子。きっとこれから先も言われるのでしょうね」




「ベイカーさんの言葉もキツイですね」




ベルナが囁くとディートリッヒは微かに肩をすくめた。




「マスターに治してもらえばいいのではないか?」




ディートリッヒの言葉に一同は手を叩いた。




「確かに!術師殿どうか、アンドレ王子の女性に嫌われる術を治してあげてください」




懇願するベイカーにドネツクは首を振った。




「ロンド王子の術が複雑に絡んでいて俺には無理だな。十数年単位でかけている術だからそう簡単には解けないぜ」




「そんな…。それなら僕を殺してくれないか。女性から見向きもされず嫌われる人生など生きていても仕方ない」




ドネツクの言葉に頭を抱えて落ち込んでいるアンドレ王子にレナード王子が肩を叩いた。




「可哀想だけれど、とりあえず帰ってくれよ。何か情報があったら教えるから」




「うぅぅぅ」




レナード王子の言葉にとうとう泣き出したアンドレ王子に一同はため息をついた。


ディートリッヒはベルナの背を押した。




「一件落着したようだから、ベルナは戻っていいだろう」




「そうだね。迷惑をかけたね」




レナード王子の許可が降りて、ベルナは頭を下げた。




「では仕事に戻ります」




ディートリッヒに背を押されながら退出するベルナにアンドレ王子が手を伸ばした。




「レディー。僕を見捨てるのか」




見捨てるも何も、関係ないのにと思いつつベルナは頭を下げる。




「お世話になりました。その…気を落とさないでくださいね」




レディーと言われて嫌悪感から顔をしかめてしまったベルナを見てアンドレ王子は涙を流して顔を覆った。




「女性が僕を嫌っているのが兄上の術のせいだったなんて。今もベルナが僕を嫌な顔でみたよ」




「王子、お可哀想に」




アンドレ王子を慰めているベイカーを見てベルナはレナード王子の執務室からそっと退出した。










「もう夕方ですね」




寮の部屋までディートリッヒに送ってもらいながらベルナは呟いた。


とても一日で起きた出来事とは思えず疲労を感じながら赤く染まる空を見上げた。




「とんでもない一日だった」




ディートリッヒも空を見上げてため息をついて呟く。




「私の体も元に戻って良かったですけれど、何も問題解決していないような気がします」




術を使うロンド王子を思い出して言うベルナにディートリッヒは小さく息を吐いた。




「関わらなければ問題ないが…」




「まずは何事も無く結婚式が無事に行えるように願うしかないですね」




両手を胸の前に組んで祈るように言うベルナをディートリッヒは抱き寄せた。


急に引っ張られてよろけながらベルナはディートリッヒの胸に手を置いた。




「あと少しで結婚式か。ベルナと共に過ごせる日々がとてもうれしい」




美しい顔で微笑むディートリッヒに見とれていると何かを思い出したようにディートリッヒは急に歩きだした。


ディートリッヒに引っ張られるまま歩かされてたどり着いたのは城の裏庭の一角。


小さな庭園のような場所には噴水とベンチが置かれていた。




「どうしたんですか?急に」




何か用事でもあったのだろうかと首を傾げるベルナにディートリッヒは片眉を上げた。




「返事を聞いていなかったと思って」




「なんの返事ですか?」




何か答えないといけないことでもあったかと記憶を辿るがさっぱり思い出せない。


ディートリッヒは微笑んで首を傾げているベルナの前に跪いた。




「ディートリッヒ様?」




一体何事だと目を見開いているベルナの手を取ってディートリッヒは見上げた。




「あの日、ベルナは返事をしてくれなかった」




ディートリッヒの瞳が夕日に当たってキラキラと輝いている。


宝石のように綺麗な瞳に見入っているベルナの手にそっと口付けた。




「僕と結婚してください。愛しい人よ」




ディートリッヒに求婚された日、ベルナは気が動転して確かに答えていない。


あの日と同じように跪いて同じ言葉で結婚をしてほしいと伝えるディートリッヒにベルナは目を見開いた。


少し緊張をして見上げてくるディートリッヒの美しすぎる顔を見てベルナは胸がドキドキして大きく息を吸い込んだ。


なかなか返事をしないベルナに不安になったのかディートリッヒが強くベルナの手を握る。




「ベルナ?返事は?」




目立つことのなかった自分が、美しすぎる騎士に求婚されていることが信じられずベルナは息を何度か大きく吸い込んで心を落ち着かせた。


何度考えてもディートリッヒが自分を好きになってくれる理由が分からない。




「私なんて目立たない普通の人なのに…私でいいのですか?」




急に怖気づいているベルナの言葉にディートリッヒは両手でベルナの手を包んだ。




「ベルナがいい。何度も言うが姿かたちではない」




ディートリッヒはそう言って少し考えて気遣いながらベルナを見上げた。




「ベルナの見た目が悪いと言っているわけではない。僕にとってベルナは愛する人で世界一可愛い人だ」




「ありがとうございます」




愛する人に正直に告白するという術をかけられているディートリッヒの嘘偽りない言葉にベルナは顔を赤くした。


以前も同じようなことを言われたが、何度言われても恥ずかしくてとても嬉しい。


早く返事をしてほしいと見上げてくるディートリッヒの瞳にベルナはゆっくりと頷く。




「はい。私もディートリッヒ様と結婚したいです。大好きです」




勇気を振り絞って言うベルナにディートリッヒは心からの笑みを浮かべて立ち上がってそっと抱きしめる。




「ありがとう。ベルナ」




ディートリッヒの顔が近づいてきてベルナはそっと目を閉じた。











6話を抜かしてこちらを先にupしておりました。

申し訳ございませんでした。

6をupしております。

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