カエルの王子様 6(追加)
「次はベルナを元に戻してもらおう」
「はい。早く元に戻りたいです」
ディートリッヒに抱えられながらベルナはドネツクが居る部屋へと向かう。
ソファーに座っていたドネツクはベルナ達が部屋に入ってくると手に持っていたカップを差し出した。
机の上にはカエル王子を元に戻すために使ったのか枯れた葉っぱやドロドロとした茶色い液体が入った瓶が置かれている。
「ほらよ。小さくなった体を元に戻す薬を煎じておいた」
あの臭い薬を飲まないといけないのかとベルナは顔をしかめた。
ディートリッヒは臭い匂いを放っている飲み物を受け取ると、ベルナを抱きながらソファーに腰を降ろした。
ディートリッヒは持ってきた自らのマントをベルナに巻き付ける。
「元に戻った時にまた洋服が破けたらベルナを襲ってしまうかもしれない」
無表情に言うディートリッヒにベルナは面白くないと首を振った。
「冗談に聞こえないです」
「冗談ではないが」
真面目に言うディートリッヒにベルナは本当だろうかと首を傾げる。
そんなベルナにお構いなしにディートリッヒは膝の上に座っているベルナを見下ろした。
「この飲み物を飲めばベルナは大人に戻れるはずだ」
「はずだ、ではなく大人になる。俺の術師としての腕を舐めるなよ。ただ、その飲み物には愛する人の愛情が足りてないからな」
少し離れて見守っているドネツクの言葉にベルナは首を傾げる。
「そういえば、前回もディートリッヒ様のおかげで元に戻れたような気がしますが一体何を入れるんですか?」
「なんでもいいんだよ」
ドネツクはにやりと笑う。
意味が分からないベルナは首を傾げているとディートリッヒは匂いを放っている飲み物を手に持つと自らの口に含んだ。
「えっ?」
それは自分が飲むものだったはずではと目を丸くしているベルナにディートリッヒの綺麗な顔が近づく。
綺麗なディートリッヒの瞳に見とれていると、彼の唇がベルナの唇を塞いだ。
「うっ?」
驚くベルナの唇をこじ開けてディートリッヒに生暖かい液体を流し込まれ勢いのまま飲み込む。
「なっ、なにをするんですか!」
ディートリッヒから顔を離して咳き込みながらベルナが言う。
ディートリッヒはベルナの体が落ちないように背に手を添えて微かに微笑んだ。
「ベルナが元に戻るように愛情をこめて液体を飲ませた」
「液体って?」
パニックになるベルナにドネツクがニヤニヤと笑って頷いた。
「愛する人が本当に元に戻ってほしいという願いを込めて体液を混ぜれば完成する薬だ。まぁ、今は道具が揃っているからそれじゃなくても良かったんだがな」
「な、信じられない…気持ち悪い」
ベルナは驚きながらも吐き気と眩暈に力なくディートリッヒの胸に倒れた。
「大丈夫か?気持ちが悪いというのは僕の体液が気持ち悪いのではないだろうな」
心配するのはそこですかという一言が言えずベルナは吐き気を堪えながら目を瞑った。
意識が一瞬途絶え、肩を軽く揺すられて目を開けた。
先ほどよりもディートリッヒの綺麗な顔が近い。
「ベルナ?」
心配そうに見つめているディートリッヒの瞳が綺麗だなと見つめてベルナは何度か瞬きをしながら手を動かした。
手の平を自分の顔の前に持ってくると幼児ではなく大人の手だ。
「元に戻りました?」
掠れた声で言うベルナの額に口付けをしてディートリッヒは頷く。
「元通りの大きさだ」
「よかった」
ベルナはディートリッヒに抱きかかえられたままマスターを見た。
「そういえば、アスケラ嬢は私をカエルにするつもりだったみたいですけれど、なぜ小さくなったのかしら」
ベルナの問いにマスターは肩をすくめた。
「多分、その嬢ちゃんの術が未熟だったのかもしくは、ベルナの体が小さくなる術に適応しているかだな」
「適応ってことはまた小さくなることもあると…」
嫌な気分になっているベルナにマスターは笑った。
「それはあるだろうな。体が覚えているから。カエル王子もひょんなことからカエルになる可能性があるってことだ」
「カエルよりはましですね」
ベルナはカエルの姿になった自分を想像してゾッとした。
カエルになったら話すこともできないのだ、それならば幼女の姿の方が幾分かましだ。
「カエルの姿でも変わらずベルナを愛している」
ディートリッヒはベルナの頭頂部に口付けして呟いた。
「カエル姿の私と結婚式できます?」
「もちろん、それがベルナであれば」
即答するディートリッヒにベルナは思わず頷いた。
彼ならば本当にどんな姿をしたベルナでも本当に愛してくれるのだろう。
愛する人に嘘を吐けないという術にかかったままの彼の言葉は真実なのだから。
6話を抜かして7を先にupしておりました。
申し訳ございませんでした。




