表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/31

最終話


「ベルナ。この洗濯物を厩舎に届けて」


先輩侍女に言われてベルナは頷いて洗濯物が入った籠を抱えて歩き出した。

後ろからサノエが同じように洗濯物が入った籠を持って追いかけてくる。


「ベルナ。今日から仕事復帰なんてちょっと早すぎない?」


午後のうららかな日差しが城の廊下に差し込んでいる。

ベルナたちが城へと戻ってきてからしばらくは事情聴取やらバージル王子との面会やら忙しく過ごしていたが、だいぶ落ち着いてきたのでベルナは今日から仕事復帰をしている。


「もう私やることないもの」


洗濯物を抱えているベルナが言うと、サノエは冷やかしの目を向けた。


「みんなが憧れているディートリッヒ様と結婚が決まっているんだから花嫁修業でもすればいいじゃない」


「落ち着かないから普段通り働いていたいのよ」


「解らないでもないけれどねぇ。ベルナがディートリッヒ様と婚約したって聞いて悲しむ人が多いかと思ったけれど、意外と少なかったわね」


サノエの言葉にベルナは頷いた。


「先輩たちにいじめられるかと思っていたけれど、意外と祝福ムードで驚いたわ」


大きくなったベルナ達が帰ってくるとすぐにディートリッヒとの婚約が発表された。

仕事復帰したベルナにみんな優しく接してくれ気構えていたベルナは拍子抜けしたほどだ。


「ディートリッヒ様がベルナ一筋だってことが一番効いているみたいよ。ずーっとベルナの事を語っているらしいから。自分に振り向く可能性が無い男には興味が無くなるのよ」


「そういうものかしら?」


理解できずベルナは首を傾げる。


「それでも、ファンクラブは存在しているらしいわよ。あの美貌を見守る会みたいなのが」


「解らないでもないわね。人間離れした美貌だし」


ベルナが頷くと、サノエも頷く。


「人形のように感情が無い雰囲気が素敵だったのに最近はへらへら笑っていることが多いからファンが減ったという噂もあるわ」


「それも理解できるわ」


ベルナと会っている時のディートリッヒはニコニコ笑っていて締まりがない顔をしている。

無表情で何を考えているか分からないディートリッヒが素敵だったという女性達の気持ちもわかりベルナは頷いた。


「しかし、大変だったわねぇ。噂にも聞いていたけれどあの悪の姫様がカエルや犬に変えていた人間が結構な数居たらしいわね」


声をひそめたサノエにベルナも小声で話す。


「そうなのよ。私がお世話になった劇団の人達も数人カエルにされていたから、マスターが治してくれたのよ」


「マスターって何?」


胡散臭い顔をして聞いてくるサノエにベルナは噴き出す。


「術を操る師よ。その人に私の体を戻してもらったの。飲み物を飲んだだけよ」


「その飲み物大丈夫なの?」


「中身は知らない方がいいと言われたわね・・・」


「怖いわね・・・。姫様の国でもカエルなどにされた人の捜索が始まっているらしいわね」


「人間以外に変えられた人の言葉が解るペンダントを使って探すってバージル王太子が言っていたわ。見つかるといいけれど」


ベルナが言うと、サノエは顔を青くする。


「怖いわねぇ。カエルにされている間に、蛇なんかに食べられたらお終いじゃない。その怪しいペンダントも怖いし。絶対関わり合いたくないわね」


「そうね」


ベルナは頷いてサノエと別れた。

裏口を出て慣れた道を歩く。

厩舎の中へと久しぶりに入ると、奥にディートリッヒが馬を撫でているのが見えた。


「いると思いました」


ベルナが洗濯物を抱えながら近づくと、ディートリッヒは照れくさそうに微笑んだ。


「来ると思ったから待っていた」


「少し忙しかったからこうしてゆっくり話すのは久しぶりですね」


ベルナもディートリッヒの馬を撫でて言うと、彼は頷く。


「そうだな・・・。ところで、婚約を早く進めてしまってよかったか心配にはなっているから確認をしたかった」


城に帰ってきてすぐに両親も呼び婚約の書類にサインをしたのを思い出してベルナは少し考える。


「もう少し落ち着いてからでもよかった気がします」


「すまない。ベルナの気が変わらないか心配だった」


目を伏せて言うディートリッヒにベルナは苦笑した。


「私も、ディートリッヒ様がやっぱり嫌だというのではないかと心配です」


「それは無い。何度も言うが、自分の心に素直になったからベルナを愛していると伝えることができたのだ。それは今後も変わらない」


目を合わせて言うディートリッヒに嘘は言っていないと伝わってくる。


「私が大きくなったらやっぱり違ったと言われると思っていました」


「小さくても大きくなってもベルナはベルナだ。むしろ小さい方が幼女趣味だと言われて気を使ってしまうから元に戻ってくれてよかった」


確かにディートリッヒが幼女趣味だと言う噂がいまだに流れている。

ベルナは笑ってごまかした。


「ディートリッヒ様が私に対する気持ちが嘘ではないと信じることが出来ましたから。姉に会っても変わらないっていうのが一番嬉しかったです」


照れながら言うベルナをディートリッヒは目を細めて見つめる。


「人は見た目ではないと言っている。・・・ベルナが可愛くないと言っているわけではないので誤解をしないでほしいのだが・・・難しいな」


顔をしかめているディートリッヒにベルナは笑った。


「いいですよ。無理しないでください。ディートリッヒ様が私を想ってくれているのは分かりますから」


「それはよかった。・・・実は結婚式も少し予定より早められないか調整をしている」


「はぁぁぁ?準備だっていろいろありますよね・・・」


驚くベルナにディートリッヒは真面目な顔をして頷いた。

通常であれば一年は準備期間がいるものだが、準備を早めるなどどれぐらい早めているのだろうかとベルナはじっとディートリッヒを見つめた。


「半年まで短縮できそうだ」


「よくそんなに早く・・・・」


呆れるベルナにディートリッヒは微笑む。


「お金と権力の力を使っている」


「全く・・・評判が悪くなるじゃないですか」


「他人などどうでもいい。早くベルナと一緒に住みたいのだ」


真面目に言われてベルナはため息をついた。


「私だって、早くディートリッヒ様と一緒に居たいと思いますけれど無茶苦茶です」


「ベルナも同じ思いだと知って嬉しい」


ディートリッヒはベルナをそっと抱きしめる。


「ちょ、仕事途中ですよ」


「自分の心に素直になった結果だ」


嬉しそうに言うディートリッヒにベルナそっと息を吐いた。


(自分に正直になるのも良し悪しだわ)


これからもディートリッヒのペースですべてが進んでいくのだろうとベルナは諦める。

早く結婚式の日にならないかなと想いを馳せた。




まだ少し続きます。どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ