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ディートリッヒは抱いていたベルナをそっと床に降ろした。


「サイア姫に見つからないようにここに居ろ」


「はい」


ベルナが頷くのを見て、ディートリッヒはマスターを振り返る。


「俺がまず出て行き隙を作る」


「で、俺が姫様をカエルにかえる・・・カエルにカエルって冗談みたいな戦法だな」


一人で笑っているマスターをディートリッヒは無表情に眺めているのでベルナがマスターの足を叩いた。


「面白くないです」


「悪い。嬢ちゃんに、いいものを渡しておこう。このネックレスの先についている石は特別な石で姿を変えた人間の声が聞こえる。もし、俺達の姿を変えられたらこれで意思疎通ができるからよろしく」


マスターは近くの棚から黒い石が付いたネックレスを取り出し小さなベルナの首にかけた。


「ディートリッヒ様がカエルになったら、女性達が悲しみますね。もちろん私も悲しいですけれど」


首にかけられたネックレスの黒い石を握って不安な瞳で見つめているベルナの頭をディートリッヒは撫でる。


「大丈夫だ」


「よし、行くぞ」


マスターが腕を回しながらディートリッヒに言う。

ディートリッヒは頷いて気配を消しながらドアをそっと開け飛び出した。

その後ろをマスターも続く。


「ディートリッヒ様、見つけましたわ。グッ」


サイア姫の喜びの声が聞こえたかと思うと、低いうめき声に変わった。

捕まえることができたのかとベルナはそっと割れた窓から外を見た。

庭の真ん中でサイア姫の腕を後ろ手に回してディートリッヒが拘束している。

拘束を逃れようともがいているサイア姫にマスターが右手の平をかざした。

聞いたことのない言語でマスターが呪文のようなものを唱えると手の平が光る。


「止めなさいよ!殺してやるから!」


サイア姫は自分に何をしようとしているのかわかり、ツバを飛ばして悪態をつくが一瞬で姿が消えた。

赤いドレスがふわりと舞う。


「あー!ディートリッヒ様だ!いましたよ!」


ぞろぞろと門から城の騎士が数人、入ってきてディートリッヒを指さしている。

一番後ろから入ってきたレナード王子が地面に落ちている赤いドレスを青ざめた顔をして指をさした。


「そのドレス見覚えがある。サイア姫が来ているの!?中身はどこに行った?」


半ばパニックになりながら辺りを見回しているレナード王子にディートリッヒが静かに地面を指さした。


「中身はここに居る」


赤いドレスの間から大きなガマガエルがはい出てきた。


「・・・まさか、カエルになったの?」


レナード王子が震えながら大きなカエルを指さすと、ディートリッヒは無表情にうなずいた。


「えぇぇぇ?嘘でしょ。隣国の姫をカエルにしちゃったの?元に戻るの?」


叫びながら驚くレナード王子は助けを求めるようにマスターを見た。


「元に戻せるが、戻すと俺達全員この姫様に人間以外の動物にさせられる恐れがあるがどうする?」


「・・・カエルのままでバージル王太子に渡そう」


レナード王子は頷いて騎士を振り返った。


「丁重にお運びしよう」


「このカエルを・・・ですか?」


嫌な顔をする若い騎士は恐る恐るカエルを持ち上げた。

窓から様子を見ていたベルナは、ドアから庭へと向かう。

ペンダントのおかげでカエルになったサイア姫が聞くに堪えない文句を言っているのが解り顔をしかめた。


「あー!ベルナさんまだ子供のままですね」


「そうなんです。とりあえずこれをお貸ししますね」


カエルを持ち上げている若い騎士にベルナは首にかけていたペンダントを差し出した。

ディートリッヒはベルナの手からペンダントを取ると若い騎士の首にかけた。


「このペンダントでカエルの言う事が解るようになるらしい」


ディートリッヒが言うと、若い騎士は目を見開き硬直している。


「聞こえます・・・・カエルが言っている言葉が・・・。凄い文句を言っています。とても姫様が言う言葉じゃないですよ」


半泣きになりながら訴える若い騎士にレナード王子は安心したように頷いた。


「姫と意思疎通が出来そうで良かった。とりあえず、ベルナちゃんを大人に戻してもらって城に帰ろう」


「そうだった。大人に戻してください」


ベルナはマスターを見上げて頭を下げた。

マスターは大きなため息をついた。


「一日に何度も大きな技を使わせるんじゃねぇーよ。疲れたよ、俺は。それに家も壊されたんだぜ」


「家の修理と術を施した料金は色を付けて支払うのでよろしくお願いします」


レナード王子が言うと、ディートリッヒも頭を下げる。


「嫌だとは言ってねぇよ。ところでディートリッヒ君とベルナちゃんはどういう関係?城の騎士とお嬢様?お姫様?」


「婚約者だ」


言い切るディートリッヒにベルナはまだ婚約していないと言う言葉を呑み込んだ。

マスターはベルナとディートリッヒを交互に見て頷く。


「それならすぐ大人に戻せるぜ。おめぇら愛し合っているんだろ?」


「はいぃぃぃ?」


顔を赤くするベルナにディートリッヒは無表情にうなずく。

それを見ていたレナード王子が目頭を押さえた。


「ディートが誰かを愛していると言えるなんて成長したなぁ」


「確かに他人に興味を示すディートリッヒ様は意外ですけれど泣くほどですか?」


若い騎士が言うとレナード王子は何度も頷く。


「何考えているのかさっぱり分からないやつがこんなに心の成長をするなんて。こればかりはサイア姫に感謝だな」


レナード王子の言葉に、若い騎士が抱えていたガマガエルが小さな声で鳴いている。

若い騎士は顔をしかめてカエルを地面に置いた。


「サイア姫、凄く罵詈雑言が酷いです。僕、聞いていられません」


「カエルになっても自分のやったことを反省しないとは。いい度胸をしている姫様だな。嬢ちゃんを元に戻すからディートリッヒ君こっちに来てくれ」


マスターに促されてディートリッヒは家の中に入っていく。

庭に残ったままの小さなベルナの前にレナード王子はしゃがんだ。


「もうすぐ元に戻れるね」


「そうですね。お世話をおかけしました」


姿は子供なのに大人びたいい方をするベルナにニッコリと微笑んだ。


「むしろ巻き込んだのは我々の方だからね。ところでさ、ディートリッヒとの結婚は進めてもいいんだよね」


小声で言うレナード王子にベルナは少し考えて頷いた。


「ディートリッヒ様は術にかかっているから私みたいな平凡な人と結婚したいと勘違いしているのかなと思っていたのですが、実は感情の蓋を外してあげたような状態らしくて・・・ほ、本当のことを言っていたと信じることができたので・・・」


「結婚してもいいと思ったのか・・・。ますますサイア姫に感謝だなぁ。複雑な気分だけれど」

「・・・そうですね」

ベルナが結婚に前向きだという確認ができてレナード王子が安心して息を吐いた。

「良かった。これで断られたらディートは死んでしまうかもしれないからね」

「そんな大げさな」

「いいや、あいつの絶望は凄いと思うよ。一途すぎて恐ろしいからな。ちょっと偏っているから」


偏っていると言うレナード王子の意見にはベルナも同意する。

後ろに居た騎士達もホッとして息を吐いた。


「そういえば、どうしてこちらに来たのですか?」


「心配だからだよ。ディートリッヒに何かあったら大変だし。姫様も確保しないといけないし」


真面目に言うレナード王の後ろに控えていた護衛騎士が首を振っている。


「野次馬ですよ。何か面白いことが起きそうだと急いで来たくせに」


「・・・面白い場面に間に合ってよかった」


ボソリと言うレナード王子にベルナは頬を膨らました。


「見世物ではありませんが」


「ごめーん。あ、ほら、ディートリッヒが出てきた」


家の中で何かをしていたディートリッヒとマスターが出てくるのが見えた。

手にはコップを持っていて、それをベルナに差し出す。


「なんですか?これ」


銀色のコップの中ではポコポコと気泡が浮いては消えていく怪しい液体が入っている。

どす黒く、鼻を突く異様な匂いにベルナは顔をそむけた。


「これを飲めば大人になる・・・とマスターが言っている」


ディートリッヒも信じていないようで首を傾げながらベルナにコップを持たせた。


「こんな臭いものを飲めと・・・」


いくら大人に戻れると言ってもなぜかポコポコと気泡が出ている異様な飲み物を口に含ことができない。

渋い顔をして液体を見つめているベルナの体をディートリッヒは持ち上げた。


「戻れなくても、とりあえず挑戦はしてほしい」


「挑戦たって、こんなの飲めない・・ぶっ」


ディートリッヒは器用にベルナを抱えながらコップを持って口元に持ってくとベルナの小さな口にあっという間に流し込んだ。

臭い匂いと苦みに吐きだそうとするが鼻と口を塞がれて苦しさのあまりベルナは液体を飲み込んだ。

口の中に残っている苦みに顔をしかめていると、胃の当たりが熱くなり吐き気に襲われてお腹を押さえる。


「ベルナ?」


顔色の悪いベルナをディートリッヒが覗き込んで心配してくれているが、ベルナは顔をしかめて首を横に振った。

とても話せる状態に無く、心臓の鼓動が早くなる。

肩で息をしていると、目の前が真っ暗になりベルナは力を失い意識が途絶えた。


「ベルナ!」


どれぐらい気を失っていたのか、頬を軽く叩かれてベルナは目を開ける。




「ベルナ!大丈夫か?」


心配しているディートリッヒの顔が近くにありベルナは慌てて身を引こうとするがぎっちりと抱きしめられていてピクリとも動かない。


「大丈夫ですので放してください」


吐き気も無くなり、むしろ体調はさきほどよりも良くなっている。

体も軽い気がしてベルナは自分の体を見下ろした。

ディートリッヒに抱えられている体は大きくなっているが、なぜか彼のマントで体を包まれている。

ベルナはディートリッヒを見上げた。


「元に戻ってます?戻る瞬間気を失ってました?」


「戻っているが・・・」


ディートリッヒはきまずそうに顔を背ける。


「戻っているが・・・なんですか?」


大きくなったのにちっとも喜んでいないディートリッヒにベルナは眉をひそめた。

ディートリッヒは言いにくそうにベルナから顔を逸らしながら小さく呟く。


「ベルナが気を失っている間に大きくはなったのだが・・・その勢いで小さなベルナが着ていた洋服が破れて・・・・」


「はいぃぃぃ?」


自分の体を見るとディートリッヒのマントに包まれている状態だ。

体にくるまっているマントの間から自分の体を見ると見事に裸だ。


「信じられない!み、見ました?」


顔を真っ赤にしてディートリッヒとレナード王子と護衛騎士達が一斉に首を横に振る。


「見ていません!」


「本当ですね!」


念を押すベルナに一同は一斉に頷いた。


「見ていないと信じましょう」


納得はいかないが、事故みたいなものだと自分を納得させてベルナは頷く。

ディートリッヒはベルナが落ち着いたことに安心して息を吐いた。


「馬に積んでいるベルナの荷物に大きな洋服が入っていたと思うから持ってくる」


「よろしくお願いします」


マントから見えないように体にきつく巻いてベルナが頷いたのを確認してディートリッヒは荷物を取りに歩いて行った。


「あの飲み物で成功してよかった。なんせ、古い術だからな、今まで幼児に変えられた人間なんて見たことなかったからさ」


軽く言うマスターにベルナは頭を下げる。


「ありがとうございました。ところであれは何が入っていたのですか?」


苦みがまだ口の中にあるような気がしてベルナが顔をしかめると、マスターはにやりと笑った。

「知らない方がいいと思うぜ」


「・・・・そうですね」






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