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しばらくすると、女性の悲鳴と剣がぶつかり合う音が聞こえ始めベルナは振り返った。

数台の馬車が細い道を塞いでいて、周りを馬に乗ったガラの悪い男が剣を振り上げて襲っている。


「横を通り抜けるのは無理だな」


ディートリッヒは呟いて剣を抜いた。


「盗賊か!」


ディートリッヒの大きな声に、馬車を取り囲んでいた男たちが一斉に振りかえった。


「誰だ貴様」


「通りすがりの者だ。道を開けろ」


ディートリッヒが言うと、男たちは鼻で笑って馬に乗ったままディートリッヒに斬りかかってきた。

その剣をかわして、盗賊の男の腕を斬りつける。


「ぐわぁ」


悲鳴を上げて剣を落とした男の後ろからまた馬を走らせて男が斬りかかってくるのをディートリッヒは剣を振り上げて男の腕と肩を斬りつける。


「やべぇ、コイツ強いぞ」


盗賊の一人が叫ぶと、ディートリッヒは声を上げた。


「腕と首を切り落とされたくなければ去れ」


ディートリッヒが現れると一瞬で盗賊が不利になった状況に、リーダー的な男が舌打ちをして馬を下がらせた。


「クソッ、引け」


男が大声で号令を出すと、盗賊たちは無言で馬を下がらせベルナたちが来た方向へと去って行った。


「プロの強盗だな。少しでも不利だとわかると引き下がる」


いつもと変わらず無表情のままディートリッヒは剣を収めた。

戦いの中に入るなど生まれて初めて経験をするベルナはディートリッヒのお腹に張り付いて小さく震えた。


「ベルナ、怖かったのだな」


震えている小さなベルナが可愛くて、ディートリッヒはベルナの背中を撫でた。

剣がぶつかり合う音が想像していたよりも大きく耳に響きベルナは耳を摩った。


「凄い迫力でした」


「助けてくれてありがとうございます」


襲われていた馬車の持ち主が頭を下げた。

よく見ると大所帯で、男性と女性合わせて10人ほどいる。


「あんたいい男だね。こんな美形見たことないわ」


「ほーんと、ウチの看板役者よりもいい男だね」


馬に乗っているベルナとディートリッヒを囲むように集まってきた人たちがお礼を言いつつディートリッヒの顔を見て驚いている。


「やむを得ず助けただけだ。気にすることは無い」


ディートリッヒは無表情に言うと、馬を進めようとするが馬の前を一人の太った男が手を広げてゆく手を止めた。


「待ってくれ、お礼をしないと」


「気にすることは無い。任務の一環だ」


ディートリッヒは黒いマントを広げて隊服を見せた。


「あんた、騎士だったのか!」


男は驚いているが馬の前から動かない。


ディートリッヒは珍しく少し眉をひそめて男を睨みつけた。


「急いでるのだが」


「待ってくれ、もしかしてあんた、ディートリッヒ様という名前か?」


「・・・・」


否定も肯定もせずディートリッヒは馬の前に立っている太った男を見下ろした。

今にも切り殺しそうなディートリッヒの雰囲気に、男と周りに居た人たちが慌てて両手を上げる。


「私たちは、敵ではないわよ!ねぇ団長!」


団長と呼ばれた太った男は何度も頷いた。


「俺達は、国中を回っている劇団だ。王都へ公演をするために移動をしていて盗賊に襲われた」


「なぜ、私の名を知っている」


ディートリッヒは馬の上から団長を見下ろして周りに集まっている劇団員たちを見回した。

派手な顔をした女性や、綺麗目のひょろりとした男もディートリッヒを口を開けて見上げている。

ディートリッヒほどの美しい人は劇団員には居ないようだ。

団長達は顔を見合わせて口を開いた。


「間違っていたら申し訳ないんだが、自分は姫様だっていうキツい顔をした綺麗な女があんたを探していた。この先の町で」


「えっ」


ベルナは声を上げて驚いた。


「その女は一人だったか?」


「一人だったようだが、男を数人たぶらかしてたよな」


団長が他のメンバーに聞くと、綺麗な女性が頷く。


「その辺で知り合った男達に金を出させているみたいだったね。ディートリッヒ様ほどの美しい人ではないと私の体はあげられないって言っていたのを聞いたから、どれだけの男かとおもったが、いい男だねぇ」


「なるほど」


頷いているディートリッヒをベルナは見上げる。

いつもの無表情だが、エメラルドグリーンの瞳は遠くを見つめている。


「どうしましょう。次の町に行くのは危険ですよ」


「たしかに、あの女には会いたくはないな・・・」


考え込んでいるディートリッヒに団長が声をかけた。


「あんたたちどこまで行くつもりなんだ?」


「この先のソミール村だ」


「あぁ、あの術を使う怪しい爺さんがいるところか」


団長の呟きに、ベルナは目を見開いた。


「ご存じなのですか?」


「おぉ、嬢ちゃんは小さいのにしっかりと敬語が使えてえらいねぇ」


目元を和らげて優しい口調で語りかけてくる団長にベルナは曖昧にうなずいた。


「ま、まぁ、子供ではないので」


「大人ぶって偉いねぇ。あのソミール村に居る爺さんは妙な術を使って人を助けているらしい。ソミール村に行くなら、姫様が居る町を超えなくても行ける方法がある。地図あるか」


ディートリッヒは馬を降りて、ベルナが差し出した地図を広げる。

団長は地図を覗き込んで太い指でさした。


「俺たちが今いるのはここだ。少し先に横に逸れる道がある。それを超えていけばソミール村だ。騎士様が行こうとしていたルートよりかなり短縮できる。ここで一晩過ごしても明日の昼過ぎには到着するだろう」


ディートリッヒは頷いた。


「助かった。その通りに行こう」


「そうしたらさ、お礼をするついでにここで野営していかないかい?一晩休んで明日の朝旅立てばいいよ」


一人の女性が提案すると、他のメンバーも頷く。


「それがいいよ。私たちも馬車を直さないと先へ行けない。もうすぐ暗くなるし、あんたも小さい子を連れての夜の山道は危ないよ」


中年の女性の言葉にディートリッヒは馬に乗ったままのベルナを見てため息をついた。


「たしかに、ベルナに夜の山道は危険だな。野営には慣れているのか?」


無表情なディートリッヒを気にする様子もなく、団員たちは皆頷く。


「年中野営しているから心配しないで。さぁさぁ、さっさと準備するよ」


女性の掛け声に一斉に団員たちは動き出した。



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