20.ムチムチ二人
駆けこんできたデカガキ――――ダイナ・グランバルドが言うには、どうやら『ロリ十二天魔団』らと思しき者たちが、この街に向っているとのことだった。
「ふむ……。それで、お前はどうする?」
「迎撃、もしくは殲滅する」
「迷いのない答えだな」
まっすぐな瞳でデカガキはそう告げる。
図体や外見のわりに、やはり考え方が子供だ。もう少し冷静に物事を考えたほうが良い。
「そうか……。よし、なら行け」
だから私は、ゴーサインを出した。
返答を聞いたデカガキはポカンとした瞳でこちらを見返している。
「何だ? お前がそう言ったんだろう」
煙草に火をつけつつ私は応え、続ける。
「下手に止めない方が、お前は良いと思ってね。お前にはお前の考えと勝算があるんだろう? 違うか?」
「……いや、分からない」
「そうか。ならば今度から、自分の発言には責任を持つんだな」
言って煙をくゆらせながら、私はコイツの枷を外してやることにする。
「お前の考えはあながち間違ってないさ、デカガキ。
どうせ『ロリ十二天魔団』は、一部を除いて、結局は隠密性に優れてないヤツらばかりだ。放っておいても、猪突猛進にこちらへ手を出してくる」
「……侵入するときは静かだが、こと戦闘が始まれば、辺り構わず派手に暴れるということか?」
「あぁ。だから街が滅びたりする」
頭を使うのは最初だけ。
戦闘が始まれば後はその場のノリを重視するやつらだ。
ある意味では、『ローネス』の生き方に近いとも言える。
「なら、やるべきことは簡単さ、ダイナ。この街に居る『ローネス』は私たちのみ。
であれば、――――街を一定時間練り歩いた後、奴らを街の外へと引っ張り出す」
「なるほど……。確かにそれなら、外で思う存分戦える……か」
「あぁ。
ただしその分、地の利は使えなくなるがね」
どうせこいつらは、他の人間が居ない方が気持ち的に楽だろうしな。
ならばだだっ広い草原や荒野で、思い切り相手をしてしまったほうが早いだろう。
「ならば……、すぐにでも出ようクリス」
「あぁそうしようか」
私は煙草を消し、部屋を後にする。
そしてドアの隙間に、マジックアイテムを一つ挟ませてもらった。
「クリス、それは?」
「魔力感知のアイテムだ。チビガキの精度にはぜんぜん及ばん市販品だがね。
こいつを設置することで、もし仮にこの部屋にチビガキが訪れた場合、こちらへと知らせてくれるものだ」
このアイテムの近くに、ヤツの魔力がわずかにしみこんだ物品があれば感知できる。
まぁ念のための、保険というやつだ。
私かダイナがフリーで動けるタイミングでチビガキがここを訪れた場合、どちらかが合流することが出来る。
「エイトの魔力がしみ込んだ物品とは?」
「ん? ヤツのパンツだが」
「……それがどうしてクリスの部屋にあるのかは、聞かないことにするよ」
私は「そーだな」と適当に返事をして、立ち上がり、部屋を後にする。
さて……、私らに上手いこと食いついてくれると良いのだが。
空はそろそろ夕方に差し掛かる頃で。赤めの陽の光に変わっていた。
「とりあえず一定時間練り歩き、そのまま外へ出る」
「クリス、斧はどうした?」
「路地裏のほうにある斡旋所へ、たまたま預けてある。だから私は西口の方へ。お前は東口の方へと、最終的には向かおう」
ダイナは「分かった」と頷き、並び立って歩いた。
「……………………」
「……………………」
二人、無言で歩く。
うん。私が言うのも何だが、我々はとても目立つようだ。
いや目立って良いんだが、目立ちすぎるなコレは。
「しかし見当たらないねぇ」
「そうだな」
「…………」
「…………」
「お前はどこか、行きたいところは無いのか?」
「今は特には無いな」
「そうか」
「あぁ」
「……なら、路地裏の斡旋所へ向かうとするか」
「うむ」
「…………」
「…………」
うん。私が言うのもなんだが、会話が全然続かない。
サユキは「楽しい子だよ~ダイナちんは」なんて言っていたが、どのあたりに楽しい要素が詰まっているというのか。
鉄面皮だ。そして私も鉄面皮だ。
強面の良い体格をした女戦士が、二人並んで街を歩いているのだ。しかも闘気丸出しで。
ただ事では無いと、待ちゆく人が皆振り返っている。
「おいアレ……、『ローネス』のクリスだろ?」
「隣のでかいのも、確か最近『ローネス』に入った女じゃ無かったか……?」
「何だあの筋肉と乳は……」
突っ込むこともなく、私たちは黙々と歩き続ける。
これ以上目立っても仕方が無いので、私は提案をしてみた。
「ときにダイナ」
「なんだ?」
「お前、身長小さくできたりしないか? もしくはおっぱい減らすとか」
「出来ないな」
「そうか」
「あぁ」
そうか。乳も身体も、小さくすることは叶わんか。
いや勿論、我々の目標はある程度目立つこと。
目立って行動しなければ、十二天魔団もこちらを見つけることなど出来ないだろうからな。
ただこれは……、目立ちすぎる。
「クリスの足……、すげぇなアレ」
「ムチムチの極みがよ……。ふざけてんのかよ……」
「俺たちを脚フェチに目覚めさせてどうしようってンだあの女」
「引っぱたきたい……、いや、伸し掛かられたい……。すげぇケツだぜ……」
何だか言われたい放題だ。
別に、見られることに対しては何の嫌悪感も抱かないが、こうも視線で追いかけられると今は邪魔だ。
後ろから着いてきてしまっているしな。
騒がしいのは問題ないかもしれないが……、下手に騒ぎになりすぎるのもまずいな。
懲らしめることは出来ないな、これは。
「歩くたびに左右のケツが動いてるぜ……」
「それが二人も……。とんでもねぇな」
「スタイリッシュムチケツ巨乳色白アシメ美人……」
「隣のでかいのも、よく見ると美人じゃね?」
「乳もよく弾んでるわ……」
「爆乳ムキムチ筋肉褐色ボウズ美人……」
「間に挟まれてぇ~」
「お前自殺志願者かよ」
「いやいや。でも実際、それなら死んでも本望じゃね?」
「まぁ確かに……」
「蹴り殺されたい……」「踏まれたい……」「虐めてほしい……」「またがって尻を叩いて欲しい……」「太腿からおぎゃあって言いながら生まれ落ちたい……」
頭が痛くなってきた。
普段なら気兼ねなく殺しているところだ。
「なぁクリス」
「ん? どうした?」
「別に普段と変わらない行動をするのであれば……、ヤりたいならヤってしまって良いのでは?」
……ふむ。
言われてみればその通りだった。
ダイナの提案に賛成し、後ろを振り返り「キサマら」と声を発しようとしたと同時。
ひときわ。
大きな魔力を、街の外から感じた。
「……クリス?」
「――――、」
すでにここは、私の斧を預けてあるクエスト斡旋所の近くだ。
武器を取り、そのまま外へと迎える位置に居る。
「これは……、まずい力だな」
そして……、呼んでいるのか? 私を。
あえて『外で待っている』と。
誘蛾灯のように、光を発しながら。
「六位のケケキよりも、相当強い。
なるほど、コイツか……」
この闘気が。
三位の、キッシャリアン。
大きな街一つを陥落さえると言われている、バケモノか。
「……ふぅ」
私はダイナの肩を叩き、命を出す。
この街にどれほどの『ロリ十二天魔団』が向っているのかは分からないが、コイツとチビガキの二人なら、どうにかやり過ごせるだろうことを信じることにしよう。
「まずはチビガキと合流しろ。そして何が何でも、二人とも死ぬな」
「クリス……」
「私も死なん。安心しな」
ダイナは「そうか」と静かに頷く。
そのまま去ろうとする私の背へと、彼女の言葉が飛んできた。
「クリス。私はお前の、煙草を吸う仕草が好きだ」
「……突然何だ」
「フェチの話をしている。
足だ何だと言われているが、私はそこが一番好きだ」
「フン……。知らないよ」
「だから死なないで欲しい。また私に、色っぽい指先を見せてくれ」
そう言うと彼女は僅かに笑って、背を向けて去って行った。
……指先を褒められたのは、確かに初めてだねぇ。
大真面目なツラして、何を言っているんだか。
「なら……、死なないようにしないとね」
やれやれと軽く身体を動かしながら、斡旋所へ入り大斧を回収する。
褒められた――――白い指で、ソレを持ち上げ肩に引っかける。
目指すは西から出た先にある、ケネス荒野。
乾いた大地にて、ヤツは私を待っている。
命をかけた決戦が、
始まる。