17.十二の牙たち
街へと戻りながら、俺はロリ十二天魔団のメンバーについて思い出す。
ダイナにも説明しようかと思ったが……、クリスに先に伝えたほうが良いだろうと言って走り去っていった。
「ダイナ、こいつらに注意してくれ! 一度『ローネス』とやり合ってるらしいから!」
言って俺は、クリスさんからもらったメモに丸をつけて彼女に渡す。
了解したと彼女は受け取り、すぐさま風となった。
この判断で良いだろう。
でこバフをかけるには時間がかかるし、クリスさんに情報を伝える方が先だ。
「しかし……、何だかんだ、フィールドで一人なのは初めてだな……」
この辺りで魔物に襲われることは稀だ。ただ感覚としては、丸腰で戦場を歩いている感覚に近い。
「落ち着け……」
大丈夫だ。
俺だって、モンスターを倒すことは出来なくとも、やり過ごすくらいの術は持っている。
気配察知もある程度使えるから、遭遇しないようにすることも可能だ。
それならば、急いでもらった方がいい。
「よし……、おさらいをしつつ、俺も街へと急ごう」
つぶやいて、身体能力向上の魔法をわずかにかけつつ街を目指す。
クリスさんに『ロリ十二天魔団』についての概要を聞いたさい、こんな会話も交わしていたのだ。
「今のところ分かっているのは、この名前――――というか、二つ名だけだな」
「どれどれ……」
ロリ十二天魔団についての説明が一通り終わった後、彼女はぴらりと一枚のメモを渡してきた。
「これは……、名前と、二つ名……?」
そこには一位から十二位までが列挙されていた。
これが……『ロリ十二天魔団』のメンバーか。
一位、二つ名、本名ともに不明
二位、『白昼夢』:本名不明
三位、『這い寄り踊り』:本名不明
四位、『奇婚者』:本名不明
五位、『ぼんやり棘峠』:本名不明
六位、『斬り斬り舞夢』:ケケキ
七位、『金濁』:フラウラウズカ
八位、『愛雨』:ヌヴァルジャ
九位、二つ名、本名ともに不明
十位、『正々堂々鬱々葱々』:本名不明
十一位、『操の庭』:本名不明
十二位、『日の下の兎』:本名不明
「……、」
「それらが、目下私たちの敵だな。
このロリ十二天魔団を倒せれば、魔王攻略に一歩近づけるだろう」
「なる……ほど」
なんたって魔王の手足となる存在だ。
さすがに全員を屠ることができれば、魔王だって焦るだろう。
ただまぁその、何といいますか。
「これ……、外見とかって分からないんですよね?」
「そうだな。まぁ直接やり合ったことのある六位、『斬り斬り舞夢』のケケキだけなら、私が外見を知っているが」
「それ以外は……」
「ロリであるということしか分かっていないな」
「探し出すのが困難すぎる!」
ロリであるって。
そりゃあロリ十二天魔団なんだから、そうなのかもしれないけども。
「しらみつぶしにロリを当たっていくしかないんだろうが……」
「しらみつぶしにロリに当たっていってたら、即通報ものですよ」
「まぁ、そうだろうね」
この世界に児ポ法的なものがあるのかは知らないけれど。
倫理観的に考えてみても、普通にアウトくさい案件である。
「意外と厄介ですね、ロリ十二天魔団」
「そうだな。大人であればあるほど見つけづらいとは、なかなかどうして面倒だね」
ロリに紛れているという事実が、こうも強い武器になっているとは。
そして目撃者は高確率で消せるくらいの戦闘力を持っているというのも、厄介さに拍車をかけている。
「名前が分かっている人たちは、どうやって情報を仕入れたんですか?」
「あぁ。こいつらは全員、『ローネス』とやり合っているメンツだ。
こいつらはどういうワケか、正確な戦闘行為――――おそらく顔を突き合わせての戦闘になったとき、名を名乗ってくるんだ」
「名前を、自ら……?」
「まぁ、縛りみたいなものなんだろうさ。
それが生物としての『仕組み』に組み込まれているのか、はたまた別の理由か……」
そう言うクリスさんは、どこか遠い目をしているようにも見えた。
ただそんな目をしているのもつかの間、すぐにこちらを見直して続ける。
「それに悪魔や一部の精霊は、そういったイキモノが多い。そういう習性なのかもしれないな」
「は、はぁ……」
言っている内容が半分も理解できなかったが、ともかく名前が知れた理由は、一度対峙しているからということが分かった。
「そこにいる六位、七位、八位の三名は、『ローネス』のメンツとやりあった。
戦闘もそこそこに去っていった事例もあれば、きっちり引き分けたのもいる。色々だな」
「ははぁ……。ではそのときに名乗りを上げた、と……」
詳しく聞くと、第六位のケケキはクリスさんと。第七位のフラウラウズカは、未だ見ぬ我らが団長フラワーさんと。第八位のヌヴァルジャは、こちらもまだ会ったことの無いセルマさんと。それぞれ戦ったらしい。
「フラウラウズカに関しては、戦ったというか、幻惑にかけられたというか。とにかく団長と相性が悪すぎた。
足止めをするだけされて逃げられたと、本人は語っていたよ」
「なるほど……。搦め手を使ってくるのもいるんですね」
ド直球に戦闘タイプばかりかと思っていた。
何せ軍団のネーミングがド直球だからなぁ……。
「ヌヴァルジャはとにかく、逃げても逃げても追ってきたんだそうだ。まぁこれは、セルマが『ローネス』に入る前の話だったからな。他に助けも無かったんだろう。今なら団員の誰かが助けに入り、すぐに追っ払うことが出来る」
「ふむふむ……」
「それで六位。私と撃ち合ったこのケケキは……」
視線を紙に落として、彼女は僅かに目を細める。
一瞬だけ口の動きが止まったが、息を吸いなおして言葉を紡いだ。
「――――強かった」
「……、」
ごくりと。生唾を飲む。
あのダイナを制した彼女をもってして、「強い」という評価を与えられる生物。
そんなものが、いるのか。
「まぁあの頃からすると、私だってレベルアップしている。特にあのときはなりたてだったから――――」
彼女は少しだけはっとした表情になり、言葉を切った。
そして手を口に当てながら、「とにかく」とロリ十二天魔団についての話題を続ける。
「こいつらの序列は、戦闘力順というわけではない。どういった評価で序列がついているのかは分からんが、下に行けばいくほど、危険度は少ないと見て良いだろう」
「なるほど。第六位のケケキが、もしかしたら戦闘力全振りだっただけの可能性もあるわけですね?」
「まぁそういうことだな。
ただ……、戦闘力全振りのヤツは、六位のケケキではないんだ」
言うと彼女は白い指で、「こいつだ」と、すっと名簿の三番目を刺した。
「純粋な戦闘力のみで、自身以下の序列者を全てまとめ上げている化け物」
それだけは、判明していると。
つぶやいた。
第三位、『這い寄り踊り』。
「もしもコイツに遭ったら。名乗られたら。
自身の全てを賭して、逃げろ。おそらく勝てない」
「そんなに、強いんですか……?」
俺の質問に彼女は「あぁ」と短くうなずいた。
「『這い寄り踊り』は、一人で国一つを更地にした、魔王軍が持つ切り札の一つだ」