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27.これから



 食べ終わった後、俺たちは一息つく。

 俺は満腹の腹をおさえ、彼女は平気な顔でご馳走様と口を拭っていた。

 ……鍛え方が違いますねコレは。


「それでアンタさぁ……」

「はい?」


 腹をさすりながら、彼女の声に応える。

 先ほどしていた神々の話のときよりは、だいぶくだけた態度だった。


「ハーレム作るって……、マジで言ってるの?」

「あぁ……、その、何と言いますか。成り行きと言いますか……、」

「成り行きでサユキを巻き込んでんの? 冗談じゃなく殺されたい?」

「い、いや、違うんです! 本気! 本気です!


 今のはマジで殺気を感じた。

 そりゃそうだよな……。旧知の仲(?)の人間が、ぽっと出の良く分からない男の毒牙にかけられてるかもしれないんだからなぁ……。

 言った後俺は座り直し、再び口を開く。


「いやね……? 俺は、無茶をする彼女たちの支えになりたいとは思ってるんですよ」

「ふぅん?」


 続けてという視線が返って来たので、とりあえず俺はそのまま話し続けることにする。

 どこかで首と胴が離れたら、バッドコミュニケーションだったということだな……。


「えーっと……。そ、そして彼女たちは彼女たちで、魅力的だとは思うんです。

 ただその……、そういう意味(・・・・・・)のハーレムを作りたいかと言われると……、なんというか」

「ふぅん? エッチなことには興味ないんだ?」

「いやそれはあります」


 返事は早かった。

 剣を抜かれるかと思いきや……、彼女は肩をすぼめて胸元をさっと隠し身を引いていた。

 いやいや……、襲い掛かったところで斬殺されるのがオチですって。そもそもしないし。


「いや、性欲は……、あるんですけど……、」

「ん?」

「……あるん、ですけど」


 俺は次第に俯いていく。

 なんというかちょっとだけ、これに関しては、重荷に思っている部分があるのかもしれなかった。

 だから、弱い部分が溢れてきたのだろう。

 何故か言葉が止まらなかった。


「ダイナもユッキーさんも、綺麗でカッコイイじゃないですか……。おまけにめちゃくちゃ綺麗なおでこしてるし。そんな彼女らが……、本来なら俺なんかと話してくれてるだけでも、奇跡に等しいっていうか……ねぇ?」

「うん。……うん?」

「元々が釣り合ってないんですよね……。俺と彼女らとでは。外見も、中身も。実力だってそうだ」


 吐露は止まらない。

 けれど、何故だか真っすぐに、全部を吐き出してしまいたい。そんな気持ちだった。


「俺はこれまでの人生で、どこからも必要とされてこなかった人間なんです……。

 けれど彼女らは、そんな俺が必要だって言ってくれる。ハーレムを作りたいとかぬかしてる(・・・・・)


 そんなの。

 普通に考えて、おかしい話だろ。


「エイト、エイちん……、二人は本当によく俺の名前を呼んでくれるんです。

 親しく、楽しそうに、嬉しそうに。だから俺も楽しくなるし、嬉しい。だけど、それが俺には――――」


 この先、荷が重い。

 と、言いかけたところで、ギリギリ言葉を踏みとどめた。


 そう。

 この言葉だけは、口にしてはいけないんだ。どんなに弱っていても。

 だってそうしたら、彼女らの本当の好意を、無駄にしてしまうことになるから。


「……俺は、俺、には、」


 クラリアさんは、俺の話を黙って聞いてくれている。

 世界の命運をかけて戦っている勇者を前に、俺はなんてどうでもいいことを相談しているというんだ。


 いつも明朗で、強く、カッコイイ彼女らに比べ、俺のなんて女々しいことか。

 結局は自分のことしか考えられていない。

 うつむく俺に、クラリアさんは口を開く。


「――――アンタはさぁ」

「はい?」

「戦ってるとき、めっちゃ逃げ回ってるじゃない?」

「はぁまぁ……。そうですね」

「もうすでに、めっちゃカッコ悪いわよ、アンタ」

「は、はぁ……」


 い、言われなくても……、そういうのは自分でも分かってる。

 俺も剣の一つくらい振るえれば良いんだけど、そんな実力は無いし、度胸がそもそもない。

 みんなと一緒に戦う選択肢は、これくらいしか無いんだよ。



「すでにカッコ悪いんだから……、これ以上カッコ悪くても問題なし! だから胸を張りなさい! 以上!」

「……………………ん?」



「…………」

「…………、」


 静寂が生まれる。

 俺が頭にはてなを三つくらい浮かべていると、クラリアさんはか~っと赤面し、手で顔を覆いストップをかけた。


「あ、や、えっと……、タンマ。たぶん、何か違うわ、コレ」

「そ、そうですね……。

 なんか俺を励ましたいだろうテンションは伝わったんですが……、根本解決になってないと言いますか……」

「うん。……うん、そうよね、うん。ちょっと違ったわ、今のは」


 こほんと咳ばらいを軽くして、彼女は仕切りなおして、「えーーーーーーーと」と天井を仰ぎ見る。


「はい、整いました」

「整いましたか」

「はい」


 パンと両膝を叩いて、彼女は俺を励まそうとしてくる。

 ……もうすでに、その事実だけで嬉しくなっているのは、内緒だ。

 変わらずきりっとした目をしたまま、再度口を開く。


「優しい言葉でどうにかしようとしたのが失敗だったわ。

 直球に聞くわ、エイト。アンタは、アイツらとどうなりたいの?」

「え――――、」

「欲望のままに答えなさい。言いふらしたりしないから、早く。

 一緒のチームじゃないんだから、別に大丈夫でしょ?」


 この場合一緒のチームじゃないほうが言いにくいような気もするんだけど。

 ………………。

 ええい、いいか。



「俺は……彼女らと、めっちゃ仲良くなりたいんですッッ!!」



「うん」


 俺は、

 立ち上がって、叫ぶ。


 もっと言って良いよと、彼女の目が語る。

 それでは、お言葉に甘えさせてもらおう。

 理性は、今はいらない。


「俺は――――」


 もしかしたら店の外にまで響いてしまっているかもしれない。

 奥まったところだから聞こえなければいいかなぁと思うけど、もういい、理性はそこまでだ。


「もっともっと彼女らの役に立ちたいし、しっかりとしたパーティになりたい! イチャイチャしていいならしたいし、おでこだって舐めたい!」


 欲望のままに話すことの、なんと気持ちのいいことか。

 言ってる内容には目を瞑って欲しいというのも、本音と言えば本音だけれど。


「向こう見ずな彼女たちを、何とか御せればいいなと思ってる! 俺がもっともっと強くて、ダイナやユッキーさんら、『ローネス』のみんなと背中合わせに戦えれば良いと思ってる!」

「うん」

「危険な目に遭いたくない! 危険なことをしたくない! そんな目に遭わないくらい、強くなりたい!」

「うん」

「そして……、そして……ッ!」


 俺は。思いつく限りに言葉を言う。

 たぶんこれが、きっと一番奥側の気持ちだろう。

 その言葉を、口にした。



「俺は、俺に関わってくれた人たちと――――幸せになってみたい」



 性的な意味でも。

 人間的な意味でも。

 これからを、共に幸せに生きていたい。そう思った。


「はぁ、はぁ、は、ぁ……」

「うん」


 目の前の勇者は、

 良かったねというような顔で、俺を見返していた。

 俺は息を整えながら椅子に座る。


 やっちまった……という恥ずかしさが遅れて襲ってきたが、

 何故だか、気持ちもすっきりしてはいる。


「いいじゃん。おでこハーレム。

 アンタに魅入られた綺麗なおでこの奴らは、もれなく幸せになるんでしょ?」

「え……、い、いやそれは……、」

「そういうものを、アンタは作りたいってことよね?

 良かったじゃない。めっちゃハードルの高い目標が出来て。アイツらを御すのは大変よ~?」

「うぐ……、く、」

「でも、応援してるわ、ワタシは」


 勝気に笑って、勇者(クラリアさん)一般人(おれ)に言った。


「でかい野望を持ってる同志。ライバルとして、応援してあげる。

 魔王討伐としても、『ローグズ・ネスト』はライバルだしね。これで正式に、アンタとワタシはライバル関係ってことよ」

「ライ、バル……」

「ちなみにワタシの目標は、全人類の恒久的平和。どっちが先に叶えられるか、勝負ね」

「そんな聖人君子みたいな目標とライバル関係で良いんですか!?」


 あまりにも方向性が違いすぎるんですが。

 俺がそう言うとクラリアさんは「あら」と言って、俺に向き直る。


「アンタ、その目標がどんだけ高いか分かってんの?」

「え?」

「アンタはどこまでいっても不細工は不細工なの。つまり外見じゃあ、ほぼ百パーセント気に入ってもらえないのよ?

 そんな男が、中身だけで(・・・・・)出会った女性全部を(・・・・・・・・・)幸せにする(・・・・・)って息巻いてるんだから。ワタシの目標なんかより、全然ハードル高いに決まってるじゃない」

「おう……、お、おう、……ッ!

 す、すっげぇ攻めてくるじゃん……!?」

「言いたくもなるわよ。

 ったくもう、……あはは。何よハーレムって。バカみたい。あはははっ!」


 言って彼女は、大口を開けて笑う。

 俺もそれにつられて、――――せっかくなので、笑った。


「ははは……。あっはっはっはっはっ!」


 こうして俺たちは。

 正式にライバル関係となった。


 どちらが先に魔王を倒すのか。

 世界を平和に出来るのか、人々を幸せに出来るのか。

 ハーレムを作り、強くなり、――――おでこを舐めれるのか。


 そんな、とても大仰で。

 小さな小さな勝負の開始である。







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