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2.力強き女戦士



 ダイナ・グランバルド……さん。

 二メートル近くある、体格の良い美女である。

 その美しさにつられ、つい問題発言をしてしまった俺の顔を、彼女はじっと睨むように見て、「とりあえずどういうことか話せ」と無感情に言った。


 あい、すみませぬ。

 あまりの美しさと衝撃に、感情が先走りました。

 とりあえず何から話して良いかが分からなかったので、俺は名前だけでも名乗ろうとする。しかし向こうは、どうやら俺のことを知っていたみたいだ。


「時々合同訓練、一緒に受けてるだろ?

 わりと有名じゃないか、逃げ腰エイト」

「そう……、なん、です……、ね?」


 応えながら自身(エイト)の記憶を辿ってみると……、本当だ。悪い意味で、それらは広まっているみたいだ。

 そして、虐めにあっているということも、記憶の中にあった。

 そりゃあ……、冒険者なのに逃げてばっかりじゃあ、な。


「と、とりあえずあなたは――――」


 といったところで、向こうも改めて自己紹介をしてきた。

 されている最中にまたぞろ記憶を覗いてみると……、なるほど、この人も有名だったみたいだ。

 こちらは、いい意味でも悪い意味でも、みたいだけれど。


 ダイナ・グランバルド、十七歳。

 班を組んでの実習でもない限り、一人で活動する生徒。

 その屈強な体格と、何事にも動じない態度から、周囲からめちゃくちゃ怖がられているという女戦士|(見習い)だ。

 ……周囲っていうか、俺も怖がっていたみたいだな。

 確かにすごい貫禄を感じるし。カツアゲをされれば金を払ってしまう怖さがある。


「というか……、同じ学年、だと……」

「今更だな」

「あはは……、な、なるほど(?)~……」

「……」


 あいまいに誤魔化しつつ記憶を思い出す(・・・・)

 ……ふむふむ。

 なるほど……。一匹狼なのか。


「同い年だろ。敬語はなくていい」

「そ、そうですか……。了解だ」

「ん」


 胸の前で腕を組んで、大きな態度で頷く彼女。

 改めて彼女のいろいろ(パーツ)を見やる。

 盛り上がった腕筋もすげえが、その更に奥で押しつぶされている胸部の双丘もすンげえ。筋肉も影響してるんだろうけど、とんでもないモノをお持ちのようです、はい。

 浅黒い肌も相まってか、とてもエキゾチックな空気を醸し出している。


 エロティックだけどどこか健康的な感じ――――というか、体が全体的にとてもたくましい。

 パーツ単体は大きいけれど腹部はくびれていて、それでいてムキムキだ。攻撃的な意味でのダイナマイト・ボディというやつだ(この意味で使っているやつがいたかは分からんけど)。

 ひょろひょろボディの俺とは対極の存在と言えるだろう。


 どれだけカラダのことを語るんだと言われるくらい述べてしまったが、それくらいにインパクトの強い外見だった。

 特に、百五十五センチの俺と並んだところを第三者が見ると、遠近感が狂うかもしれない。そんなレベルである。そりゃあ語りたくもなる。


「で?」

「あ……、はい」

「さっきの発言は何だ? 罰ゲームか何かか?」

「あぁいや、違くて……」


 しまった。そういうことにしておけば難を逃れたのかもしれない。

 脊髄反射で会話しちゃうから、嘘とかあんまりつけないんだよなぁ俺。バレるっぽいし。


「いやゴメン……。あまりにも、ダイナがカッコよかったからさ……」

「ふむ?」

「おでこを舐めさせてほしいって思っちゃったんだよ」

「んー……、わからないな」


 分からないかなぁ、この気持ちが。

 いや普通でしょ? 綺麗な人を見たらおでこ舐めたいって思うじゃん?


「恥ずかしながら……、性欲が先走ってしまいまして」

「それ性欲にカウントされるのか」


 難儀だなと彼女はあまり表情を変えずにつぶやく。


「その……、本当はさ。ダイナとパーティが組みたいって言うつもりだったんだ。けれどあまりにもそのワイルドな顔立ちの奥にある、お前の恥部をどうしても見たくなって、止まらなくなっちゃったんだ……!」

「おでこは恥部ではない」


 マジか。常識が覆る。

 これくらいで覆るほど、やわな精神してませんけどね! 俺は大丈夫だもんね!


「別に額を見せるくらいやぶさかではないが……」



 そう軽く言うと、ダイナは。

 髪を上げた。



 そこにはこの世の心理が見えていて。

 俺の血圧は思い切り跳ね上がり、鼻から血液を噴出して目の前がブラックアウトした。







「目が覚めたか」

「オゥフ……? う……、生まれ変わったら額当てになってました……?」

「大丈夫だ。人間だ。そもそも死んでいない」


 自分のお鼻の穴に異物感を感じる。

 あらやだ、両方とも止血されてるわ。おしゃれな鼻栓ね。

 あと後頭部がとても柔硬い。ごつごつしているような……? それでいて弾力感もあるような……?


「ってうおお!?」

「おはよう」


 そこはダイナの膝枕の上だった。

 巨大にせりあがった胸部の間から、彼女のクールな瞳が見える。


「荷物を勝手にあさるわけにはいかなかったからな。こうさせてもらった」

「ご、ごめん……!」


 俺は謝りながら体を起こすと、合わせてダイナも立ち上がる。


「いや……、こちらも早計だった。

 なるほど。お前にとっては、額は性器と一緒なんだな」

「おまっ……、そういう卑猥な単語を平気で口にするなよ……!」

「……たぶん『額』のほうを言っているな? お前」


 当たり前だろう。

 いや、出会い頭に俺も言っちゃったけどさ……。


「以後気を付けるよ」

「まぁたぶん見慣れれば……、めちゃくちゃえっちだとは思いはすれ、ここまでにはならないとは思うから安心してくれ……」

「……別の意味で安心できないが」


 やれやれと言いつつ、ダイナは自分と俺の荷物を片手で引っ張り上げ、広い肩に引っ提げた。


「え、お……おい?

 あれ? そ、そういえば今……、『以後』って……」

「パーティ、組むんだろう?

 理由はどうあれ、血を流したんだ。しばらく無理はしないほうが良い」

「あ――――あぁ! ありがとう!」

「ん」


 俺は杖だけを持ち、ダイナの方へと小走りで駆け寄る。

 こうしてここに。

 即席ではあるが、身長約四十センチ差のパーティが、誕生したのである。


 さて。

 ここでの俺の行動は、ある意味失態とも言えた。

 あまりの極楽浄土っぷりと変態性のインパクトにより、

 俺も、ダイナも、

 何故俺がおでこを『舐めさせてくれ』と言ったのかの真意を、完全に忘れてしまっていたのである。


 いやもちろん性癖だ。

 それは嘘偽りなくホンモノである。


 ただ……、それは俺の特殊能力にも起因することでもあったのだ。

 だから。

 ここでソレを伝えていないままにパーティを組んでしまったことが、あんな結果を引き起こすことになるとは。

 思いもしなかったのである。








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