0-2.はじめに
さて。
簡単に自己紹介をしておくと。
俺の名前はエイト・ナインフォールド。十八歳になりたての、おでこが好きなだけの普通の冒険者だ。
顔は超絶世のイケメンだ!
……うそです。爬虫類顔とか両生類顔と言われています。
百五十五センチと、小柄で細身な体型。
先述したダイナと比べると、縦も横も違いすぎる。体積だけで考えると、冗談じゃなく二分の一くらいしか無いのではなかろうか。
とにかく。
とある事情から、俺は平行世界――――とやらで生きていた『冒険者の俺』と意識がつながってしまったらしい。
転生というか、転移というか。
そんな風にして、この世界で生きていくこととなった。
俺にも細かいことはよく分かっていないのだが、何でも異世界側の俺の意識は消滅し、これまでこの世界で生きてきたという『知識』だけが残っていて、中身は普通の日本人――――九重 英斗なのだという。
つまり。
身体:異世界側のエイト・ナインフォールド (意識消滅)
意識:現代日本の九重 英斗 (身体消滅)
ということらしかった。
俺に事情を説明してくれた女神リャーヴェ様も、なんというかだいぶファンキーというかパンクというか、とにかくわりとテキトーな説明しかしなかったため、細かい原理などは不明瞭なままである。
ただ……どうやら手違いによるものの一端だということもあり、ちょっとだけ異世界側の俺の『潜在能力』を解放してもらった。
その能力というのが、『性的だと思う部位から魔力を送り込み、対象をパワーアップさせる』という、世が世なら、いや、世が世でなくても、だいぶ問題になりそうなものだったのである。
「――――いやわっちのせいじゃねーし。テメェの中にあったものだし」
とは、そんな女神の言。
いやはや、こっちの世界の俺。というか僕。お前いったいどんな存在だったんだよ。
大人しそうに生きていたという自分自身の記憶はあるものの、いったいどんな闇深なものを内包していたというのか。我がことながら心配になる。
…………。
……。
と、まぁ、色々あって。
本っっっ当に色々あって。
何やかんや、俺は今、この冒険者ギルドに身を置かせてもらっている。
「フッ――――」
前衛に立つ二人が、大きな体躯を持つ巨竜に適度なダメージを与え、その場を離れる。
「ダイナちんっ!」
パーティリーダーの一言により、俺の『おでこパワー』――――通称『でこバフ』を受けたダイナが、弓を力強く弾き絞った。
大きな手のひら――――に、更に納まりきらないほど大きな、弓矢というよりは一本の槍とも思えるサイズの魔法矢を、ずしりとつがえる。
常人なら矢を弾くことすら、いや、構えることすらできないだろう。
けれどこの『でこバフ』を付与されたダイナなら。いける。
「撃てェ!」
「ハッッ!」
筋力と。魔力と。
他、様々なエネルギーが合わさり、魔法矢は放たれる。
その軌跡は地面に大きな轍を残す。矢というより、これはもう魔法兵器と言ったほうがいいだろう。
小さな城なら陥落させられるほどの膂力を持った光の束は、一直線に巨竜へと飛来していき――――全面が大きく光り輝いたかと思ったら、どてっぱらに大きな穴を穿っていた。
ガフッと紫の体液を吐き出し、その場に沈む巨人。
瞳が完全に黒ずみ、それは生命活動の停止を意味していた。
「ふぅ……。今回も、どうにかなったっぽいかな……」
俺は『でこバフ』の疲れでその場にへたり込み、放ったあとの残身をとっているダイナを見て、「ふ……」と笑う。
これが俺のギルドでの役目の一つ。
パーティメンバーにパワーアップのバフを与え、クエストを効率的に進める。
そのための、補助魔法使いだ。
「今日も疲れたなぁ……」
颯爽と逃げ回っていただけの身体が、今日も疲労で重い。
術者が死んでは、対象のバフも解除されてしまう。なので、死なないことも補助魔法使い《バッファー》には必要なスキルなのである。……と自分で自分に言い訳しながら、額の汗をぬぐった。
「ダイナの額の汗もぬぐおうか?」
「間に合っている」
呆れられるのではなく、普通のコミュニケーションとして断られてしまった。
おでこチャンスを逃したが、これからも果敢にチャレンジしていきたい。
「何せ素晴らしい額に、瑞々しい汗がプラスされているんだからな……。これは貴重。貴重なものなんやでぇ……」
「エイちんは相変わらずキモいねぇ」
「いつもの病気じゃろ」
残り二人のパーティメンバーにも白い目を向けられるが……、これも日常になりつつあるかな。
「日常、かぁ……」
本当。
どうしてこうなったのやら。
クエスト場所を後にしながら。俺はダイナと出会った直後のことを。
つまりは、
自身がこの世界に『発生』したときのことを思い返していた――――