1話 目隠れ女子と世知辛い話
月刊少女野崎くんのオープニングを聴いて、王道ラブコメを書きたくなって書き上げましたが、オチを考えずに書いたら長くなり過ぎたので分けました
捨て猫を拾ったのが切っ掛けで、始まる恋もある
まぁぶっちゃけ少女漫画とかによくある話なんだけどさ
あれっていいよな!
それまで他人だった二人が、弱ってる仔猫の世話や看病をして一喜一憂したり、一緒に里親探ししてる内に、だんだんとお互いを意識し始めたりするやつ
凄いと思わないか?猫拾うだけで女の子と共同作業が出来て、更に惚れられるんだぜ!
だからさ、校門の近くに仔猫が捨てられていたら、つい期待しちゃってもしょうがないよな!
それに雨も降ってるんだぜ、これを拾わないなんて選択肢は無いだろ!どんだけ黄金パターンなんだよ!
高校入って数ヶ月だけど、ついに俺にも春が来たかと勘違いもするだろ!
という訳で、俺は下校している生徒の列から飛び出すと、反対車線へとスキップしながら渡って段ボールに入った仔猫に傘をさしてやった
漫画とかでよく捨てられている真っ白くて可愛い仔猫だ、段ボールにはお約束の【拾ってあげて下さい】まで書いてある
ここまでお約束が揃っているなら、俺もお約束で応えるべきだよな
別に何とも思ってないけど、さも物悲しげな表情を作ってから仔猫の頭を撫でてやった
「なんだ、お前も一人ぼっちなのか……ふっ、俺と一緒だな」
「ぶほっ!」
誰かの吹き出す声に振り返ると、俺並に背の高い女子が肩を震わせていた、今どき珍しい前髪で目を隠している目隠れ女子だ
つーか、漫研の根倉玲奈か、こいつクラスメートなんだけど、スタイルがストーンストーンストーンだから、話し掛けた事がないんだよな
悪いな根倉、俺の好みはおっぱいなんだ!
よし、好みの女の子が来るまでリテイクしよう
バッグから体操服を取り出して仔猫を拭きながら包んでやると、胸に抱きながら寂しげな表情で再度囁いてやる
「そうだよな……一人は寂しいもんな」
「ぶはっ!」
また根倉が吹き出しやがった!
そこで笑うのは止めてくれないかな?せっかくのシリアスな空気が壊れるだろ
ほら、向こう側の生徒が不振そうに見てる
だけどこんな妨害くらいで俺は諦めないぞ!こんなシチュエーションは滅多にないんだ、負けてたまるか!
腕の中でミーミー鳴いている元気な仔猫の口に指を近付けたら、パクっと咥えられたので、今度は優しい声で囁いてやった
「大丈夫……ほら、恐くない」
そしてそのまま抱き上げて、反対車線側で下校中の生徒へ向かって叫んでやる
「ユハ○様、この子私にくださいな!」
「ぶふっ!」プルプルプルプルプルプル
あれ?根倉以外はスルーしてるんだけど気のせいかな?もしかした滑った?
根倉はツボったみたいで、必死で笑うのを堪えているみたいだけど……って、違う!俺は笑いを取りたかったんじゃない、女の子に惚れられたかったんだよ!
くそー、根倉が笑うから方向性を間違えたじゃないか
また最初からやるか?……でも、それだと仔猫が可哀想なんだよな、夏とはいえ雨で濡れているし……ハァー、仕方ない
「根倉さん、笑ってる所悪いんだけど仔猫いる?要らないなら他の飼える人を探すけど」
「ふーふー……ご、ごめんなさい高幡くん、私の家はもう五匹飼ってるから、これ以上は……」
いい忘れていたけど、高幡薫が俺の名前だ
高校デビューを飾る為に、毎日一時間は髪の毛のセットをしている
今の所効果ゼロだけど、バイト先では好評なんだ
「五匹も!ならさー、仔猫用のミルクとかどれ買ったらいいか知ってる?ていうか、猫用のミルクでいいんだよな?」
「えっと……生後一ヶ月くらいだと思うので、ミルクと一緒に離乳食も必要です、それに……先ずは獣医さんに見せるべきかと」
「は?獣医に?」
「はい、あの……お金が二万円くらいかかりますけど、持ってますか?」
「に、二万!そんなにかかるのかよ!」
バイト代が残ってるけど、財布の中身が空になるぞ!
「保険が効かないので検査代とワクチン等で一万円以上はかかります、後はミルク代や飼うのに必要な道具の費用です」
何故か根倉が申し訳なさそうに言っているけど、高い!
どうしよう、金ならギリギリあるけど、それに使ったら欲しいゲームが買えなくなる
漫画とかだと自宅に持って帰って世話するのが普通なのに、リアルは世知辛いぞ!
拾った手前見捨てるのも出来ないと悩んでいたら、根倉が慰めるように口を開いた
「……高校生がそんな大金払えませんよね……私が動物病院へ連れて行って里親を探しますので渡して下さい、こんな時の為にお金は貯めてますから」
ごめんなさいとでも言いそうな表情に、ちょっとムッとなった
別に根倉は俺を馬鹿にしている訳ではない、ただ単に、捨て猫にそんな金を出す高校生は居ないと思っているだけだろう
もしかしたら、最初から自分でどうにかしようと思って近付いて来たのかも知らない……俺が拾っても適切な飼い方を知らずに、この仔猫を死なせると思って
確かに俺は何も知らないけどさー、俺にだってプライドがあるんだよ!
ここで根倉に渡すくらいなら、財布の中身くらいくれてやるよ!
イラっとした俺は、つい口調が荒くなる
「その金は次に捨て猫を見付けた時の為に取っとけよ、それより動物病院の場所教えてくれ、近いのか?」
「……いいんですか?」
無理しないで下さいと言わんばかりの顔で、俺の自尊心はボロボロだよ!
もう誰が何と言おうと、俺が最後まで面倒見てやるからな!
「俺はバイトしてるから二万くらい余裕だ……それに、俺はこの仔猫を拾って恋人を作るんだからな!」
自分でもぎこちない笑顔だと思ったけど、根倉に向けて虚勢を張ってやった
グッバイ新作ゲーム、ディスカウント価格になったらまた会おう
「もしかして、拾う時に小芝居してたのって……」
「もちろん漫画のように女の子と知り合う為だ!根倉しか釣れなかったけど、こうなったら元気になった仔猫の写真を一杯撮って、クラスの女子をキャーキャー言わせてやるよ!」
「ぶふっ!……な、何ですかそれ……クスクスクスクス」
また肩を震わせて笑い始めた、笑いの沸点が低いなー
そういえば根倉とは殆ど喋った事ないけど、こいつこういう風に笑うんだな
んー……悪くない、スタイルはあれだけど、性格は相性が良さそうだ……よし、これも何かの縁だ、仔猫を拾って芽生える恋を狙ってみるか!
「因みにさ、根倉って彼氏いるの?」
「えっ……あ、あの、私は……えーと……はい、一応います」(二次元にですけど)ボソッ
って居るのかよ!
くそっ、神は死んだ!呪ってやる!
その後俺達は連絡先を交換してから動物病院へ行き、仔猫を診てもらった
元気な仔猫だから心配はしてなかったけど、何の病気もなく予防接種を受けれるくらいの健康優良児だと太鼓判を押されたよ……弱っていたら予防接種って受けれないのな、初めて知った
と言っても一ヶ月後にだけどな、生後二ヶ月で最初の予防接種をするらしい
お陰で診察代は一万以内に収まった、ついでに事情を聞いた先生からミルクや離乳食とかの試供品を沢山貰ったんで、出費も最低限で済んだ……ありがとう先生、予防接種代を取っておかないといけないからゲームは買えないけど、これで買い食いは出来る
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家に帰る頃には日が沈んでいて、晩飯の時間を過ぎていた
腹減ったなーと思いながら仔猫を抱えて台所に入ると、お母さんが洗い物をしていたので、弁当箱を置きながら、なるべく自然な感じで話し掛ける
「ただいまー、晩飯何?」ミーミー
「今日はシチューよ、温め直すから着替えて手を洗ってらっしゃい」
「へーい、あーそうだ、猫拾ったから里親見付かるまでは学校行ってる間の世話よろしくー」ミーミー
「はいはい、いいから早く着替えて来なさい」
よしっ!聞き流しているみたいだけど、言質は取った!ナイスだ洗い物
これで里親探すまでは世話してもらえるだろう……いや、学校が無い時間は自分で世話するからな、俺が拾ったんだし、何よりこれを機に猫に詳しくなって、女の子にキャーキャー言われるんだ!
そう思いながら着替えてから自分の部屋に猫のトイレとかを設置して台所に戻ったんだが……両親と妹の志津が待ち構えていた
「お兄ちゃん!猫拾ったって本当!」
「薫、拾った猫を連れて来なさい」
「それまでご飯抜きだからね」
くそっ、流されてなかったか!
それにしても両親は分かるが、なんで妹までいるんだ?中一のくせに今から受験勉強してる真面目ちゃんが、部屋から出て来るなんて珍しい
どちらにせよ家族全員相手に勝てる訳がないから、素直に部屋から仔猫を抱いて来るしかないのだが
そして俺の腕に抱かれた真っ白な仔猫を見るなり、うちの家族は壊れた
「きゃ、きゃわわわわわわ」
「志津語彙が壊れているぞ!そして薫、仔猫を渡しなさい!写真撮るけどいいよな!しまった、俺の携帯は充電中だ!お母さん携帯貸して!」
「お父さんも落ち着きなさい、先ずは名前を考えるのが先でしょう、命名図鑑まだあったわよね?最高なのを付けるわよ!」
……お父さんに取り上げられた仔猫を視ながら、疑問に思う
普通の仔猫だよな?確かに生後一ヶ月くらいで可愛い盛りだけど、理性が壊れる程のものか?
モゾモゾと毛布の中で身をよじる姿は確かに可愛いけど……きゃわいいなー、目なんかパッチリしてぬいぐるみみたいだ
俺も写真撮っておこうかなー、待ち受けにしたい
ハッ!いかんいかん、取り敢えず仔猫を囲んでデレデレな顔の三人を諭さなければ!
「えーと、志津にお父さんにお母さん、落ち着いて聞いて欲しい……この仔猫は確かに俺が拾ったけど、里親が見付かったら渡すつもりだから、名前とかは付けないぞ」
俺がそう宣言したら、長い髪の毛を肩で二つのおさげにしている妹が、元気に手を上げた
「はい!お兄ちゃんそれって里親探すのを全力で阻止したら、うちの猫になるんだよね!」
「阻止すんな!ここはペット禁止のマンションだ!」
「ペットOKのマンションなら飼えるのか!よし、みんな引っ越すから準備しろ!」
「お父さん大好き!すぐに準備するね!」
「落ち着け!このマンションにはローンが残ってるんだろ!」
「ここはお母さんに任せなさい、このマンションをペット可にすればいいのよ!大家の弱味なら握っているから、明日には許可を出させるわ!」
「「流石お母さん!」」
「止めてさしあげろ!」
一時預かるだけなのに大袈裟にすんな!
そんなのやられたら大家と顔を合わせずらいわ!俺のバイト先のマスターでもあるんだぞ!
「って、そんな事よりミルクをあげなきゃならないんだった」
「お兄ちゃん、私がやる!」
「待て志津、仔猫に普通のミルクは駄目だったはずだ」
「猫用ねちょっと買ってくるわ、一リットルあれば足りるわよね!」
「みんな落ち着け!もう買ってあるから必要ない!」
仔猫一匹で大騒ぎである
あっコラ志津、勝手に俺の部屋から猫用のミルクと哺乳瓶を持ち出すな!お母さんも自分の部屋に猫のトイレとかを設置するのは止めろ!おい親父!お前も仔猫を一人占めすんじゃねーよ!志津が泣きそうな顔してるだろうが!
はい没収でーす、仔猫のミルクをやるのにも手順が必要だからな、今日知ったけど俺がミルクをやりまーす……あーわかったわかった、俺の指示通りにするなら志津がやっていいから泣くな!ほら、先ずは汚れてもいいタオルを……
おっかしいなー、漫画とかの王道展開なら女の子と一緒に世話するのに……なんでこんな目にあってんだろ?
猫の知識はネットを漁った寄せ集めなので、実際に飼う際は専門家に相談して下さい