〇八一五
その後すぐに戻って来た徹に引っ張られ、二人が連れて来られたのは放送室だった。何と、職員室から鍵を拝借してきたのだという。言うまでもなく、無断で、だ。
「怒られるよー?」
「慣れてる慣れてる」
呆れた様子のわん子と狼狽える後輩。それを後目に、徹は機材のセッティングを行う。間もなくして、わん子達の頭上から、徹の声が響いた。
『あーあー、おはようございます。東名徹です。突然ですが今猫飼いたいなって思ってる人! 先着一名限定でプレゼントします! 詳しくは二年三組東名徹まで! ……あ、責任持って飼える人だけだぞ! ちゃんと審査するからな!』
ハウリングが発生する程威勢良く言い放ち、徹は放送室から飛び出して来た。わん子と後輩の手を引き、「よし、逃げろ!」と楽しそうに走り出す。
三人は駆け足のまま一年生の階へ。後輩の女子生徒は感謝と申し訳無さから終始ぺこぺこと頭を下げていた。徹はそれに手を振って応え、彼女のクラスを後にする。
「そんな事繰り返してたら惚れちゃう女の子もいると思うけどな」
腕を組んで唸るわん子に、徹はわかってないなと首を振る。
「現実は非情なんだよ。俺がイケメンだったらもう少し違ったんだろうけど」
「徹君はイケメンだと思うけどなあ」
「……! わん子、俺と付き合おう」
「嫌」
見えない鋭利な何かが徹の胸を貫いた。
「……いや断るにしてもさ、もうちょっとこう、柔らかくこう」
「あ、教室着いたね」
首がもげそうな程うなだれる彼には「徹君はライバルだからね」の言葉は届かなかった。