少年が姿を消した日
『――県警は二十五日、――県――市の学生、東名徹さんが二十二日から行方不明になっていると発表しました――』
テレビの五チャンネルには、もう砂嵐は映らない。アナログテレビの時代は、チャンネルを間違えるとノイズが流れ、子供達を驚かせたらしいが、今となってはそんな心配も無くなった。少女が誤って押した⑤のボタンは、テレビを見たくもないニュース番組に切り替えた。
灯りの無い薄暗い部屋の中、唯一光を発する液晶の中では、氷のように冷たい表情をしたアナウンサーが、原稿に印刷された文字を淡々と読み上げている。
ニュースで報じられる出来事なんて、所詮どこか遠い世界の話でしかなかった。どこか遠くの、顔も知らない誰かのお話。しかし今はこんなにもあの世界が近い。読み上げられた事実が、現実が形を成し、体の中へとなだれ込む。
ソファーの上の少女は膝に顔を押しつける。視界を覆っても、音声を遮断しても、のしかかる重圧は変わらない。賢い少女は現実から逃れる術など無い事ぐらい充分に理解していた。それでも、少女は我関せずといった態度のアナウンサーに、見当違いな怒りを覚えずにはいられなかった。少女はまだ幼い。それを受け入れるには、余りにも時間が足りなかった。
『――同署によると東名さんは、二十二日午前七時半ごろ隣に住む友人が訪ねた際、自宅におらず、夕方まで連絡がつかなかった為、同日夕、友人が同署に捜索届を出し――』
友人。その単語が耳に届くと、少女は微かに顔を上げた。
私の事だ。少女は思う。「彼」との十年以上の積み重ねも、広い世間から見たら「友人」のたった二文字で片づけられてしまう。少女は再び、テレビから視線を外す。
『――県警は地元の消防団員らと連携を取り数十人態勢で捜索していますが、未だ足取りは掴めておらず、引き続き全力で――』
机の上、買い換えたばかりの携帯電話を手に取る。「彼」が目を輝かせて遊んでいた、最新の携帯電話。画面に表示されるのは見慣れた名前、少女にとって幼なじみの「彼」の名前。まだ操作もろくに知らないこの携帯電話は、あの日からずっとリダイヤルの画面のままになっている。
「電話ぐらい……出なさいよ馬鹿……!」
東名徹が行方不明になってから、もう四日が経過していた。