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最終話 安住祥子

もう最後なんだよねぇ

 ――

 ――――


 僕はふと目を覚ますと、そこは何もない空間であった。

 僕の前には僕より少し年上に見える女性が立っていた、見たことのない女性。しかし僕はこの女性をよく知っている。


「こんにちは、カナード王子。いや、もう一人の私」

「初めましてというのはおかしいかな? 貴女が僕だった人ですね、安住祥子」


 不思議な空間、だが懐かしい空間。僕はここをよく知っている。

 辺りの暗闇が晴れていく、すると見慣れた部屋が出てきた。


「初めて来るはずなのに、見慣れた部屋だね」

「それはそうでしょう、ここは私の住んでいた部屋だもの、貴方は私なのだし」


 それもそうだ、僕は元々ここに住んでいたんだ、それは懐かしいわけだ。


「ところで祥子は僕に何の用事かな?」

「別れの挨拶をしに」

「そうか……うすうすは気付いていたんだ、僕の中での祥子が薄れていくのを」


 そう、僕はカナードであって安住祥子なんだ。一つの肉体に二つの魂があったようなものなんだ。


「私は元の世界に完全に戻ることにするよ」

「ああ、そうか。やはりそうなるんだね、今までありがとう。祥子のおかげで僕は破滅的な未来を回避できた。君がここと自分の世界で僕を助けてくれていたんだね?」

「はは、まさか私もこんな方法で、君を助けることになるとは思わなかったけどね」


 僕と祥子はこの部屋にある本棚を見た、そこで一冊の本に目が留まる、その本のタイトルにはこう書いてあった、僕の国で使っている文字では無いはずなのに読むことができた。

 そのタイトルは『クレア・アージュの天使たちifーカナード王子の奮闘記ー』そう記されていた、著者は『()()()()』になっていた。


「まさか私が、このゲームのスピンオフ作品を書くことになるなんてね」

「確かに凄い力業だよ、でもこの本のおかげで僕は僕として動くことができた」

「私も驚きよ、カナードとしての自覚が進み、私が(カナード)になった瞬間にこの世界の安住祥子としても目覚めることになるなんてね」

「僕が上級部に入学したころだね」


 祥子は頷いた、僕が上級部に入る頃から(しょうこ)はどんどん(カナード)になってゆき、祥子はもう一人の僕になっていった、どう説明すればよいのか……感覚的な問題なためか上手く説明が出来ない。

 言うなれば僕と祥子は二人で一人なのに、二つの世界に同時に存在するという何だかよく分からない存在になっていたのだ。


「あの世界で確かに十数年生活してたはずなのに、元の世界に戻ったらたった一日しか経ってないのだもの流石に驚いたよ」

「しかし、何故こんな強引な方法を思いついたんだい?」

「元々、私の知識と少し差が有ったからね、もし上書きできるのなら? って考えたのさ」


 世界の上書き、まさに僕たちだからできた神の業だ。


「最初はネットの小説として書きだしたこの作品が、この作品のゲームメーカーの人の目に留まって、そこからゲームメーカーが出版社にかけあって私にこの話が来た、だから私は自分を主人公に、自分の考えを小説という形で紡ぎあげた」

「だから途中から完全にゲームであった僕たちの世界との狂いが生じた、クレアメインでなく僕が僕として動けるように」


 いったい何故このようなことになったのかは、僕にも祥子にも分からない、神様のきまぐれのような経験だ。


「しかし、途中からはカナード、君が起こした行動を記録しただけなのよこの本は、これからもこの先の物語を紡ぐのは貴方、カナードなの」

「そうか、そうだね。これは僕の物語だ、これからも頑張って物語を続けるよ」

「ええ、そうしてちょうだい。私がカナードとして手伝えることはここまで、だから私は小説としてのこの物語を紡ぐのはお終いにするの、この先はカナードだけの物語」


 自分(しょうこ)との別れ、おかしなことを言っているけど。僕ことカナードは、私こと安住祥子とここで道を分かれることにする。


「僕はカナードとして」

「私は祥子として」

「「僕たち(私たち)に感謝を!」」


 空間がぐにゃりと歪んだ、そろそろ時間のようだ。


「さあ、自分の世界に戻りなさいカナード、ニーナが待ってるわよ」

「ああ、本当にありがとう」


 祥子は優しい顔をして手を振る、僕は僕との別れに涙した。

 そして――


 ――

 ――――


 僕は目を覚ます、するとニーナが笑顔で僕の頭をなでていた。


「お目覚めですか王子? おや? 泣いていたんですか酷い顔ですよ」

「ニーナ……ニーナ!」


 僕はニーナの顔を見て安心して、そして愛おしさでニーナを抱きしめた。


「痛い、痛いですよ王子、私一応怪我人なんですよ」

「おっと、すまない。つい……」


 僕はすぐにニーナを離すと、真面目な顔で言った。


「ニーナ」


 僕の真剣な表情にニーナも身構える、僕はここでニーナに想いを伝える。


「ニーナ、僕は君の事が好きだ。今すぐとはいかないが、いずれ僕と結婚してほしい」

「……」


 沈黙、そしてニーナはニコリと笑った。


「あぁ、王子。その言葉待っていました、私にとって何よりもうれしいご褒美です。ええ、もちろんお受けします」

「……ありがとう。ニーナ、君が僕の付き人で本当に良かった。僕と出会ってくれてありがとう」


 僕とニーナは晴れて恋人同士となったのだった。


「そうだ、王子」

「ニーナ、これからは名前で呼んでくれないかな?」

「う、いきなりですね。……カナード様でいいですか?」

「様もいらないんだけどなぁ」


 うーん、なんかまだ他人行儀で嫌だなあと僕は文句たれるが、そこは流石に分別ってやつなのかな?


「カナード様、いまはまだ主と従者ですからそこは我慢してください、あと私が恥ずかしいです」


 そう言ってニーナがすこしはにかんだ。くは! なんつーか破壊力がすげぇ!


「それで先ほど寝言を言ってましたが、あれは何か夢でも見ていました? なにかもう一人の僕がどうとか言ってましたけど」


 寝言で何か言っていたのか……そうか、そうだな僕はニーナにはすべてを話してもいいかなと思った。


「ニーナには前に僕が未来を知ってると、話したことがあったね」

「はい、ありましたね」

「あの時は信じてもらえるか半々だったから濁したけど、今なら本当の事を話そうと思う」


 僕はニーナに先ほどの夢の事や、安住祥子の事を話した。


「はー、凄いですね。でも、何故か信じる事が出来ます。なんといいますか今も誰か、カナード様と同じような雰囲気を感じるんですよ」

「そうか(しょうこ)が見ていたのかもね」


 僕は上を見る、確かに何かもう一人の自分の気配のようなものを感じたが、今はもう何も感じない。


「ふふ、カナード様と私がこのような関係になれたのも、祥子さんのおかげということですかね?」

「あぁ、そうだね」

「なら感謝しないといけませんね」


 そういうとニーナは誰もいない所、さきほど僕も気配を感じたところに向かってお礼を言った。


「祥子さん、今までカナード様を導いてくださり、私と王子の為に色々してくれたようで、本当にありがとうございます」


 ニーナがそう言うと部屋に一陣の風が吹いた。

 こうして僕、カナードと安住祥子の破滅回避の長き旅は終わりを迎えたのだった。


最後といいつつエピローグは1時間後に公開予定

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