第二章:王都ディネロへの入国
ここは一体どこなんだ......
土の香りと草木の香りが微かに立ちこめた。
(俺は確か電車に乗って......家に帰る途中だったはず)
澤村が目を開けると蟻の行列が目の前を歩いていた。
(蟻?ここは電車じゃないのか?確かハンプティダンプティみたいな......)
澤村はハッと目を覚まし、辺りを見回した。
するとそこには、今まで見たこともない光景が広がっていた。
(農地⁉︎電車で寝過ごしてわけのわからないど田舎まで来ちゃったとか?いや、そんなことはない。ここは一体......)
「ようこそ、澤村様。ご気分はいかがでしょうか?」
振り返るとそこにはあのハンプティダンプティのような男が立っていた。
「え?あ、あの時の!ハンプティダ......」
「はい?ハンプティ?」
「いや、何でもないです。あのー、ここは一体?あの時駅のホームにいた方ですよね?」
澤村は状況がよく飲み込めず、混乱していた。
「ここはディネロ王都です。あなたはずっと不満を抱えていませんでしたか?ここはいわば、あなたの不満をそのまま反映させた国とでもいいましょうか」
(俺の不満を反映させた国?何を言ってるんだ?俺が抱えてた不満といえば...なんだ?)
「あのー......言ってる意味がちょっと......」
「まぁ、それもそうですよね。急に転生してしまってはよくわからないですよね。説明しましょう。」
(ちょ。ちょっと待て。転生?何を言ってるんだ?)
「ここはディネロ王都といって、ただ唯一ひとつだけ、変更点を加えた世の中になっています。あなたが一番不満を抱えていたことです。思い当たる節はありませんか?」
(俺が一番不満を抱えていたこと?そりゃ、俺の人生クズみたいな生活だったからな。彼女もいなけりゃ、安月給で社畜生活...そして傲慢な上司...)
「社畜生活で安月給だったから、なんのために生きてるのかよくわからなくなったこと?」
「そうですねー。あなたは確かに、会社という組織にイジメられていましたよね。そのお金とやらを得るために。そんなにお金とやらは大事なものでしたか?」
「そりゃ生きる為に、生活の為に働いて稼がなきゃしょうがないだろ」
「ふむ。なるほど。しかしここ、ディネロ王都ではそのお金という概念がありません。あなたは今日からこの国で生活を始めるのです。まぁ、それより先のことに関しては、自分で確かめるのが一番でしょう。それでは、澤村様をディネロ王都の民として迎え入れます」
すると、澤村は強烈な光に包み込まれた......
目の前にいたハンプティダンプティのような男の姿は無くなり、農地が広がっていた。
――ディネロ王都の民としての生活が始まったのだ――