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二人のお城が完成です

 



 快晴のある日。

 

 ラルベルは、一軒の真新しい建物の前に立っていた。

 雲一つない澄んだ青空に、明るい色の屋根がよく映える。



 今日はラルベルとダンベルトにとって特別な日である。

 隣に立つひときわ大きな体のダンベルトを見上げるラルベル。にっこりと笑いかけるラルベルに、ダンベルトは少し照れ臭そうに鼻の頭をぽりぽりとかいている。


「新居完成!おめでとう―っ!」

「ついにやりましたね、団長!男らしいです」

「いやぁ、このままラルベルちゃん他の男にさらわれちゃんじゃないかと、本気で心配しちゃったよ」

「なんとか新居までこぎつけたね。あとはもちろん、わかってるんだろうね??ダンベルトの旦那?」


 建物の周りに集まる町の面々から、次々と祝福の言葉とわずかに呆れを含んだ声が飛ぶ。


「皆さん、ありがとうございます!引っ越しのお手伝いまでしていただいて、本当にすみません」


 ラルベルは今日のために集まってくれた町の者たちに礼を言って、嬉しそうに笑う。

 集まったのは、先日ヴァンパイアの集落からやってきたラルベルの両親と、町の者たちである。

 が、ダンベルトは驚きを隠しきれない。ラルベルの両親はこちらがお願いしてきてもらったのだから当たり前として、なぜこんなにも人が集まっているのか。

 しかも、第二師団のみならず第一師団のイレウスとその部下たちまで集まっている。自分の部下数人とマルタに手伝いを頼みはしたが、それ以外の者に手伝いを頼んだ覚えはない。もともと自分たちだけでも一日半あれば片付いただろうし。

 

 ――やはり、ラルベルの人たらしの力は半端ないな。


 気づけばすっかり人だかりが出来ている。

 今さらながらラルベルの人たらしスキルの高さに、嬉しいやらちょっと困惑するやらのダンベルトである。


「ようやく男をあげたね、第二師団団長殿」


 肩をポンと叩かれてそちらを見やると、そこには見慣れた悪友の姿がある。


「イレウス、お前だな。第一師団の部下たちまで引き連れてきたのは」


 第一師団の団長イレウスはいつものようにその金髪をかき上げながら、絵に描いたような美形ではあるが軽薄さが滲み出た顔に笑みを浮かべている。完全におもしろがっている顔である。


「こんなおもしろいイベント、外すわけにはいかないからね。せっかくの完成のお祝いなんだから盛大にやらないとさ」

「お祝いといっても、住みだすのはまだもう少し先なんだが。まだ式も挙げていないのだし、先に一緒に住むわけにはいかないからな」


 この立派な建物は、二人がこれから暮らすためにダンベルトが長年貯めたお金で建てた新居である。


「式の日取りはもう決めたの?」

「いや、それがな。向こうの両親はいつでもといってくれているし、俺の両親も逃げられないうちに早く挙げろとはいってくれてるんだが、母親が急にベールを手作りするんだって言い出してな。その完成がいつになるか……」


 ダンベルトの両親はラルベルを大いに気に入ったようで、結婚に大賛成してくれた。ラルベルも母親の作るゴルド肉のオーブン焼きがいたく気に入ったらしく、今度教えてもらいに行くのだと張り切っている。

 が、母親がラルベルを気に入りすぎて暴走気味なのだ。


「お前の両親は店を休めないから来てないんだな。にしてもお前の母君って、裁縫得意だっけ?」


 イレウスは二度ほど、ダンベルトの両親に会ったことがある。その記憶の中では、確か豪快なあっけらかんとした感じの女性で、とても家の中で裁縫を楽しむタイプには見えなかったのだが。

 イレウスの問いかけに、力なくうなだれるダンベルト。


「いや、まったく。裁縫上手のご近所に習いに行って作ってるらしい。まだ型紙すらできてないらしくてな……。この分じゃいつ出来上がるか……」


 思わぬところに落とし穴はあるものである。歓迎されているのになかなか式の準備が進まないというまさかの事態に、ダンベルトはもはやなすすべもない。

 そうこうしている間に、家だけは着々と出来上がっていき、ついに今日完成となったわけである。


 失笑するしかないイレウスである。

 正直なところ、ダンベルトの奥手っぷりをよく知っていたイレウスは生涯独身を貫きそうだと思っていた。それくらい女の気配がゼロだったのだ。なんならその辺の五歳児のほうがませていそうなくらいである。


 ――それがまさか、いきなり結婚とはね。しかも相手は、十八歳になったばかりの子リスちゃんときたもんだ。


 少し離れた所で、ラルベルはトレードマークの一つ結びの髪を子リスのしっぽのようにぴょこぴょこと揺らして、集まった者たちに囲まれて嬉しそうに談笑している。

 いつみても元気印で、明るくあっけらかんと笑っている少女である。

 とても小柄なため、大きいダンベルトと並ぶと今まさに食われかかっている子リスと大熊といった絵面なのだが、その二人の顔はいつも胸やけしそうなくらいに甘々である。


「まぁ、それだけみんなに愛されているってことでしょ。式はゆっくり挙げるとして、さっさと一緒に住んじゃえばいいと思うけど」

「いや、それはだめだ。やっぱりこういうことはちゃんと順を追ってだな。ラルベルにとって大事なことなんだから。皆の前できっちり式を挙げて、それから新しい生活をだな」


 思った通りの返答に、たまらず噴き出すイレウスである。固いというか律儀というか、これだからこいつの親友はやめられないんだ、と思いながら励ますように背中を叩く。


「ダンベルトさぁん!みんなにお家の中を案内してもいいですか?」


 ぶんぶんと大きく手を振って遠くから呼ぶ声に、目を優しく細めるダンベルト。


「あぁ、すぐ行く。お前も見るだろ?」


 そういってダンベルトはイレウスを連れて、出来上がったばかりの建物の中に入っていく。


 まだ真新しい独特の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、ここで近い内にはじまる新しい生活に思いをはせるダンベルトであった。




 いくら高給取りとはいえども、平民のダンベルトである。間取りはごく一般的な民家のそれで、部屋数もさほど多くない。特徴があるといえば、台所とか作り付けの棚がラルベルの身長でも十分に届くように、低めに作られていることくらいだろうか。

 それに対して体の大きなダンベルトが、うっかり頭をぶつけたりしないように、建物そのものの天井は高めに設計されている。

 大きいものと小さいものが暮らしやすいように考えられた設計である。女性陣にもなかなか好評なようで、特に小さな子どもを持つ母親からは、小さな子どもでもお手伝いしやすいと興味をさらっていた。

 町で建具屋を営む主人はそれを聞いて何かひらめいたようで、ふむふむと熱心にメモを取っている。そのうち、背の小さい者が使いやすい建具などが流行るかもしれない。



 各部屋を案内しながら、見物人の目がふと他を向いている隙にラルベルがそっとダンベルトに耳打ちする。ひそひそと話すラルベルの息が耳にかかって、もじもじしてしまううぶなダンベルトである。


「ところでダンベルトさん。私、早くダンベルトさんとここで暮らしたいです。早くお式、挙げたいですねっ」


 そう言ってちょっぴり赤く染まったダンベルトの頬に、ちゅっ、と小鳥のように口づけるラルベル。みるみるほんのり赤かった頬は、耳の縁まで真っ赤に染まる。



 それをうっかり目にしたロルが、ぼそりとつぶやく。


「あーぁ、ありゃ焼き林檎より甘くて赤いわ。いやぁ、甘い甘い。……コルン、今頃どうしてるかな」




 ここは、幸せな幸せな二人のお城。

 食いしん坊な人間とヴァンパイアのハーフ少女と、うぶなゴブリンが仲良く暮らすのは、もう少しだけ先のお話し――。


 

 



 


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