閑話〜それぞれ〜
真琴と黒曜が旅立った直後の話です。
◇女将
何時もと変わらない朝日が昇る。
「行っちゃったわね。」
この世界にきて、初めて毎日が幸せだと今は思う。
可愛い娘夫婦がひょんな事から出来、私を母だと慕ってくれている。
真琴ちゃんが来てから毎日が楽しい。
何もかもに疲れ、もう暫くしたら自死も考えてた、ついこの間がもう遠い昔の様。
真琴ちゃんは、私を手放しでお母さんと呼んでくれ、黒曜ちゃんも、母君と私を呼んでくれる。
そんな2人が新婚旅行へ旅立った。
慌ただしい2人の事だし、また暫くしたら今日の事も遠い昔の様に感じるのでしょうね…。
「でも、真琴ちゃんが言ってたベルツ様?って、誰なのかしらね?真琴ちゃんがすっごい良い人で優しいんだよ!って言う位だからね。きっと、素敵な人なんだろうね。」
この世界に来てから、100年以上かけてゆっくりと成長したこの身体は、今では20後半〜30前半位の見た目になってる。
なのに、あーんな大きな娘を持って、本当人生っておっかしいねぇ。
「うふふ。人生楽しんだもの勝ちってね。行ってらっしゃい、真琴ちゃん、黒曜ちゃん。」
今日も2人が運んでくれた幸せが、きっと訪れると確信して、今日を楽しもうと思う。
◇親方
仕事前に景気付けに、度数の高いアルコールを並々注いだグラスを煽る。
毎朝のルーチンだ。
だが、今日の酒は少し苦く感じる。
「っふ…出会ってからたいして時間が経ってる訳じゃねぇのにな。厄介なもんだ。」
思わず出た自分の言葉に、苦笑する。
「あの夫婦はまるで嵐だな。」
神界なんぞ何処にあるかも分からないが、天に昇る太陽に向けグラスを傾ける。
「気を付けて行ってこい。」
グラスの中身を一気に煽ると、自分の仕事をこなすか…と、鍛冶場へ戻っていく。
俺は、俺にしか出来ない事をしよう。嬢ちゃんが戻って来た時は、嬢ちゃん専用の武器でも用意しといてやるかな。
◇ベルツ
この国で魔王討伐の為、冒険者を集めた際、旅人だと言い、討伐の為に尽力してくれていた夫婦は、王都の周囲に発生していた魔物を一掃すると、新婚旅行へ行くと報告に来た。
この国では珍しい黒髪の夫婦だ。
女性は真琴といい、人懐っこいとても愛らしい娘で、実年齢よりかなり若く見える。
そんな2人に最初は、この国の為に志願してくれてありがたい。という気持ちだけで、金貨を渡していた。その金貨は、感謝の気持ちであり、もう返ってこなくても良いと思っていた。
だが真琴は、翌日には大量の魔物を殲滅し、私に報告と返金に再度王城へ来てくれたのだ。
真琴は、突然私に嫁は居るか?と聞いてきた。居ないと伝えれば私の様な父が欲しかったとはにかんで伝えてきた。
人懐っこい性格と、実年齢より幼い笑顔につられ、思わずこの国での父と思って良いと伝えていた
この国では20も過ぎてからの結婚だと晩婚と言われる。そんな中、仕事が忙しく自分の鍛錬ばかりに気を取られていたらあっという間に40だ。
嫁が欲しく無かったかのか?と聞かれれば、欲しかった。けど、今の自分の地位は、弛まぬ訓練と犠牲にした私生活のおかげだとも分かっている。
また、自分に生まれたら同じ様に訓練に明け暮れるのだろう。
そんな私に、真琴は純粋に父性を求めていた。
この地に、母と慕う人が出来たと満面の笑みで報告し、その女性が如何に優しいか、如何に素敵な人なのかを延々と私に聞いて聞いて!とせがむのだ。
団の中でも鬼隊長と呼ばれる私に、屈託のない笑みで話してくる真琴。気が付けば、真琴は私の本当の娘の様に感じ始めていた。
「暫くの間、母をお願いします。母をお願い出来るのはお父さんだけなので!本当の本当にお願いします!」
真琴は、母も、この国も心配だからと、王都周辺の魔物を一掃してから、急ぎ旦那の親に挨拶しに新婚旅行ついでに行ってきます!と元気良く伝えられれば、任せろとしか言えなかった。
真琴は、良くも悪くも実直であり、自由な娘なのだろう。
「取り敢えず、真琴に頼まれたんだ、真琴のお母さんへ挨拶しに行こうか。」
私は、私の娘の為、会ったことのない娘の母君に挨拶しに向かう事にした。
◇女将、ベルツ
「あらあらまぁまぁ、隊長さんが態々挨拶しに来てくださったんですか?まぁまぁ、真琴ちゃんがお願いしたのねぇ…。取り敢えず、コチラへどうぞ。」
真琴が母と慕う女性は、母と云うにはまだまだ若い女性だった。
が、真琴よりは年上だろう。真琴言うとおり、とても素敵な女性だった。
優し気な笑顔や雰囲気が、とても居心地の良い女性で、この歳で初めての感覚を覚えた。
「申し訳ない、良ければお名前を教えて頂けないだろうか?私が、お母さんと呼ぶのも違和感があるので…。」
思わず名前を聞いてしまった自分に驚いた。今迄積極的に、女性の名前を聞いた事など無かったかのだから。
「ふふふ、私は千代って申します。宜しくお願いしますね?」
「真琴が言っていた通りだな。」
千代さん…。素敵な名前だ。
ふとした仕草や、柔らかな笑顔がとても心地よい。
「あら、真琴ちゃんは隊長さんに私の事話してるんですか?」
「あぁ、とても優しくて綺麗で温かい人だと聞いています。」
「あらあらまぁまぁ、真琴ちゃんったら。ありがとうございます。」
「あの…千代さん、突然こんな事を言う私に呆れてもらっても構わない。私と結婚してくれないか?」
「へ?」
「真琴から、千代さんの事は聞いてはいたが、こんなに魅力的だとは思わず…。すまない、忘れてもらっても構わない。ただ、何と言うか…一目惚れなんだ…。」
「まぁまぁ…。隊長さんもお人が悪いわぁ。」
あらあらまぁまぁと、千代さんは赤くなる頬に手を添え、照れているようだ。
その仕草も私から見れば愛らしく、守りたくなる。
「真琴からの願いでもある。コレから時間がある時は寄らせてもらう…。良いだろうか?」
「ふふ、お待ちしてますね。」
こうして私は、初恋をしたのだった。
真琴の人を見る素敵センサーとやらは、伊達ではないな。
真琴達が戻って来る頃、女将とベルツは中々良い関係になり、真琴からの後押しもあり入籍するのだが、それはまだ遠い先のお話。




