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閑話〜女将〜

早速更新。

女将の独白です。


 


「ごめんよ…ごめんよ…千代…腹一杯食べせてあげれんくて…ほんに…ごめんよ…なんも出来ん親でごめんよ…」



 記憶の中の母は、ずっと謝ってずっと泣いてた。

 私千代は、後で知ったのだけれども、江戸後期の大飢饉が訪れる数年前に産まれた。

 名は、千代。11番目の末っ子として、スクスクと言えないまでも、嫁いで出ていた姉達を抜いた家族9人何とか生活をしていた。


 だがそれも、食べ物がなくなり、泥水を啜り、雑草も枯れ果てた頃には立ち行かなくなってた。

 日々、誰が死ぬか分からぬ状態で、家の手伝いも満足に出来ない末っ子等、口減らしの為に売るか捨てるしかなかった。

 親は、私に生きていて欲しいと思っていたとは思うが、雪深いこの地に子買い達も寄り付かず、それも出来なくなったのだろう。


 私は、大雪が降ったあの日、山に木の皮を取りに行こうと言われた先で捨てられた。


 数日、何も食べておらず、骨と皮だけの身体で、雪山は正に地獄だった。

 寒さに震え、ひもじさに震え、あぁ死ぬんだと覚悟を決めた瞬間、激しい吹雪に巻き込まれた。

 

 次第に風が収まった頃、目を開けてみると其処は今まで居た雪山ではなく、温かい日の光と、山小屋が沢山ある場所に移動していた。





 私は、何がなんだか分からなかったが、数日何も食べていない身体は体力もなく、その場で意識を手放してしまった。


 次に目を覚ましたら、目の前に泥水じゃない水と、何か食べ物だろうか?クタクタに煮込んだ物が傍らに置いてあった。

 それらを見て、イケないとは思いつつも、あまりの飢餓感に堪えきれず勢いのまま平らげてしまった。


 訳も分からず知らない場所にいて、けど久々食べたご飯はとても美味しかった。


「あらあらまぁまぁ、目を覚ましたんね。ご飯もたーんと食べれとる。もう大丈夫ね」


 見た事無いような色彩の女性はご飯を用意してくれたらしい。


「まだちっさいのに、そーんな皮と骨じゃ死んじまうよ。元気になる迄家にいな!」


 豪快にガハハと笑うと、頭をガシガシされた。

 あぁ…、私は捨てられた…。けど、優しい人に救われた。涙が止まらなかった。









 それから、何年も経った。幼少期の栄養失調からか成長が他の子供よりも遅く、成人と呼ばれる年齢になっても15〜6歳位の見た目でゆっくりと成長していった。

 だが、いくら幼少期に栄養失調だったとはいえ、あまりにも成長が遅い。このままでは私はまた捨てられてしまう。

 それが恐ろしく、自分から他の街を見てみたいからと伝え、独立することにした。


 





 そこから何ヶ所も移動した。大体10年単位で次の街へと移動していく。

 それでも、私の見た目はさほど変わらない。


 





 何ヶ所目だっただろうか、見知らぬ老人から声をかけられた。

 話を聞けば、最初の村で一緒に育った男の子だった。けれど、私は孫です。と誤魔化し、私は既に亡くなったと伝えた。


 男の子だった老人は、泣きながら、こんな孫も出来たんだ幸せだったんだろうと、喜んでくれありがとうと別れた。


 当時はまだ8歳位だった男の子は、老人になっていた…。なのに私はまだ精々20歳そこそこの見た目だ。

 絶望し、悲しくなり、ただただ泣いた。








 その後も何ヶ所も移動し、王都に初めて来た。

 もう100年以上この世界に生きているが、王都に来るのは初めてなのだ。私の顔を知ってる人がいるかもいれないと思うと恐怖し、足が向かなかった事もある。


 だが、もう疲れてしまった。

 ここを最後にしよう。そう思い、王都に足を踏み入れた。


 なるべく、ひと目に付かないよう奥まった路地を歩いていると、何故か懐かしいと思える家屋を見つけた。

 初めて見る建物だけど、魂が叫ぶ。懐かしいと、帰りたいと。


「あら、お客さん。おいでなさい」


 中から、着流しのような物を着た、私と同じ黒髪の女性が声をかけてきた。


「あなた、日本人でしょ?私も同じよ。おいでなさい」


 日本人?私は、将軍様の国の人間だ。良くわからない。

 けど、同郷なのかもしれない。私は、家屋に呼ばれるまま中に入っていった。




「あら、あなた江戸末期の子なのね。」


 私の話を聞きた女性は染み染みとそう告げる。


「私より長く永くこの世界に居たのね。大変だったでしょう?」


 この家屋の女将だという女性はそんな事を言う。

 話を聞けば、彼女は昭和と呼ばれる時代の高度成長期あたりで、夫の暴力で死にかけた際にこの世界に来たという。


 また、私のいた国は日本といい、将軍様ではなく天皇が国を収め、江戸から明治、大正、昭和と時間を重ねていった。

 その間、国は他国との戦争も経験し、今は成長の途中の様だったようだ。


「けどね、飛ばされる時代はまちまちみたいね。私のとこにいる従業員は、平成という時代から来た子や、大正時代の子も居るのよ?私よりも昔に平成の子は来てたみたいだし、飛ばされるこっちの時代も違うのね。」


 彼女は、力なく笑うと、私の手を取った。


「ここは、目くらましの術を掛けて、同郷の子達だけを匿っているわ。だから、もう色々な所を転々としなくていいのよ。」


 ただ、冒険者組合のプレートを持つ人達は自由に出入りが出来るらしい。収入元が必要なので、いつ死ぬかもわからない、次いつ現れるかも分からない冒険者専用の宿屋を経営しているとの事。


「私もね、あなたみたいに少し色々見て回りたいのよ。だから、ここの仕事を覚えたら、此処を任せてもいいかしら?」







 そうして、私はここの若女将となり、ここを切り盛りする事になる。


 もう、100年以上生きた。楽しい事もあった。辛い事もあった。

 心残りがあるとすれば、子を為せなかった事だろうか。


「可愛い娘と母親思いな息子欲しかったなぁ」



 私の願いは虚空に消える。









 その願いは後で叶えられる事となるが、私はまだその時は知らなかった。

 ただ、今をただただ生きるだけだ。そして、同郷の子達を受入れ、いつか生きていて幸せだったと思って貰いたい。


 私を生かしてくれ、優しかった人達の為に…。私は、此処で…




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