転生の間、門の前で。そして転生特典は。
しゅっしゅっ
「ようこそいらっしゃいました。ここは異世界をつなぐ、ゲートでございます。あなたは異世界転生に同意なされましたね。」
厳格な雰囲気で天使様が語る。
天使様は頭の上に輪っか、大きな翼が折りたたまれており、足首くらいまで長さがある。
髪は肩にかかる程度の長さで、顔立ちは中世的で、声を聞くまでは男か女か分からないという風だ。
ここは巨大で豪華な門の間だ。その前で俺は、それなりの地位であろう天使様の前に来ていた。
閉じている門は凱旋門を髣髴とさせる大きさだ。簡単に開きそうにない。
それ以外のものは何もなく、地平線の果てまで真っ白な空間。ザ・天界っという印象だ。
この真っ白な空間で、まるで後光のような光を受けている天使様は言葉を紡ぐ。
「あなたはこの先、危険な目にも会うでしょう。」
しゅっふっふっ・・・
天使様は高圧的にならないよう笑顔で語りかけてくる。
異世界転生しようとしている人は、緊張していたり、
自棄気味になっている場合もあるのだろうか。
俺もバイト時代に後輩の育成に苦労したのを思い出す。
30代でバイトしているというのは、学生バイトから見ると失笑ものだろう。
そこで舐められると、今後の指導に影響が出る。最初の業務連絡は、一番難しい。
「勇者に生まれるわけではありません。あなたが物語の主人公となれるかどうかは俺にもわかりません。そのことも理解していますでしょうでしょうか。」
その点、この天使様はかなりの話術が長けている。
長年、指導係を務めたのだろう。
ふっふっふっ・・・・・・!
「あなたの目的は徳を積むことです。異世界を満喫するのも結構ですが、人助けをするということを忘れないでください。」
最後の説明で転生者の気を引き締めてあげるなんて優しい人だ。
「あ、世界の危機を救うことができれば転生ポイント10000pです。まぁそういったことはめったにないでしょうけどね。」
天使様はこちらに顔を向けて微笑みかけた。
ちょっとお茶目なことを言って、場を和ます術も見事!
男にも女にも見える中性的な美人天使様の、とても穏やかな笑顔だった。
10代20代の学生が受けたら恋に落ちてしまっただろうか。
同姓の場合だったら性癖を歪められた危険性があっただろう。
まっ30代の俺には効きませんがね。
ふっふっふっ・・・!
「・・・・・・」
ふっふっ・・・!
「50っ!」ふっふっ・・・!
「・・・・・・・あのーーー」
天使様は申し訳なさそうな顔で、しかしながら笑顔を崩さず、おずおずと声をかけてきた。
「はい?」ふっふっ・・・!
「何なさってるんですか?」
ふっふっ!「スクワットです!ふっ! 天界にはないのですか?」ふっっ・・・!
天使はスクワットしないのかもしれない。ひょっとしたら腕立て伏せもないのだろうか?
天使様は困ったような笑顔で
「いやありますけど・・・何で今、やっていらっしゃるんでしょうか・・・?」
と質問を返してきた。
「ら・・・・・」ふっふっ!
「ら?」
天使様は聞き返してきたので、元気に答える。
「乱数調整ですっ!」ふっふっ!
女神様に貯めたポイントでもらったものはそれは、
・天界製スキルガチャチケット×2枚
それと助言。
『転生の門の前でー、スクワット100回してから引いてくださいぃー♪』
「はぁはぁはぁ・・・!」ふっ!ふっ!
「あなた、そんなの信じたんですか・・・」
ついに、天使様は笑顔じゃなく、本当に困ったといった顔になった。
スキルを調整して俺が手に入れたポイントは[1390p]だ。
1枚300pのガチャチケット2枚で、
残り790p。
それで俺が手に入れたのは、
《運命神ミラ様の祝福》(3/5)である。
祝福を得るのに550p
そのスキルレベルを80p、160pと振って、3まであげたのだ。
スキルレベルは信仰によってあげるそうのだが、ポイントを振ることによってもあがる。
本来なら数十年間、折り続けたことによる祝福をすでに手に入れることができたのだ。
運命の!
女神様の!!
祝福だぞ!!?
それもレベル3の!!!
そんなん!ガチャでいいもん引けるに!決まってるやん!!!!!
そう女神様はおっしゃったのだ!努力を怠るなと!
スクワット100回出来ない奴が!異世界で成功するわけないやん!!
何で関西弁になってんねん俺!!
「そうですか・・・」
「100っ!!はぁはぁ・・・よし、引くぞおおおお!」
まずは手を合わせて祈りのポーズ。目を瞑る。
「1つだけ。よろしいでしょうか?」
「何でしょうか?今ガチャを引くのに集中しているんです・・・」
天使様はおずおずと語る。
「女神様の信仰値ってノルマがあるんですよ。それが溜まると、しばらく働かなくてよくなります」
「うんうん・・・うん・・・?」
精神統一している俺は聞き流していたが、ふと何かが引っかかり、目を開ける。
「ミラ様は先ほど長期休暇の申請を出しに行かれまして」
「・・・・・・ほーん」
あれ、転生ポイント騙し取られた?