クレーマー対応の気持ちがわかるので、クレーマーにはなりたくない。
「すごいですね。100ポイントを下回った人は見たことがありますが、0ポイントなんて!」
事務員天使さんが笑っている。営業スマイルじゃなくて本当に笑ってません?
それ、当事者には洒落にならないんで。
俺はまったく笑えないんですけど。今度は私が引きつる頬を営業スマイルで取り繕う番だった。
それでも、コンビニバイトで培われた我が営業スマイル力で、和やかな空間を演出する俺。
事務員天使さんは、俺が怒らないか不安で笑顔を振りまいていたようで、
笑顔を続けながらも、ほっと、安心したように見えた。
怒る人が多いんだろうなぁ。
転生斡旋なんて、クレームの多そうな仕事でしょうよ。
わかりますよ。接客業している人間はその気苦労。
クレーマーになる人間は予想できませんからね。
人が嫌がることを自分がするな。と母がよく言った。
俺も、されたときの気持ちは経験済み、店員さんにはやさしく接してしまう。
された経験のある人間は、する側になれないのだ。
まぁ事務員天使さんがかわいい人だったので、あんまり怒る気にならなかった、というのもある。
俺は事務員天使さんに優しい気持ちのまま、いくつか質問をすることにした。
「転生は無理でしたか?」
「いえ、転生自体は可能なんですが、特典を得るポイントがないということはかなり厳しいものになりまして」
「なるほど」
確かに裸で放り出すなんてひどいハードモードがあったものだ。
俺は、ハードモード系小説を脳内で検索した。
「異世界は簡単に人が死ぬ世界です。転生させたものをすぐ死なせると、私の評価が下がってしまうんです
…あ、すみませんこんな話」
事務員天使さんの迷惑になるのは嫌だな。
人畜無害で通っていた俺だ。解決策を何とか出したい。
「いえいえ、言ってもらえて助かります。かなり厳しいんですか?」
「そうですね、日本人の方は刃物の扱いとかが苦手な方が多く、あなたもそうですよね?」
「ええ」
「そういった方には魔法をお勧めしているんですが、簡単な攻撃魔法でも100ポイントからなので・・・」
なるほど、確かに俺が刃物でゴブリンを血祭りにあげている映像は思いつかない。
そんな世界で正気を保っているかどうかすら怪しい。
「内政モノとかは無理なのでしょうか?貴族に転生とかはありますか?勉強だけは人並みにできましたが」
「男爵貴族に転生に200ポイント、裕福な家庭に100ポイントが必要ですね・・・」
高い。ほかの転生者からすれば、そんなに高いポイントではないのかもしれないが。
一回人助けをすれば何ポイントもらえたのだろうか?・・・親孝行とかもしてなかったなぁ。
きいてみた。
「簡単な人助けですと100ポイント。命を救うと500ポイントです。転生される方は平均1000ポイントあたりでしょうか。」
一回命張った人助けでも、足らないのか。日ごろから優等生だったとかも加味されるんだろうな。
ピロン♪
事務員天使さんの眺めているパソコンに通知音が鳴った。
「あ、上司と交代しますので少々お待ちください」
「はい、ありがとうございました」
俺はもっとお話していたかったが・・・
上司さんがピンチに駆けつけてきてくれたのか。対応できる方だとありがたい。
そそくさと事務員天使さんはは退室していった。
ニコニコしていたのは、俺の担当外れてラッキーとか、思っていたのか。はたして真偽はわからない。
まさか0ポイントだとは・・・
何の能力もなしに俺が異世界転生したとして、
最初に出会ったゴブリンに殺されてしまうだろう。
もしくは町から一歩も出ない引きこもり生活を満喫するか。
そんな非生産的な別世界人を転生する意味はないだろう。
許可してもらえない可能性が高い。
生産チートができればよかったんだろうが、自分にはそこまで知識はない。
多少勉強はできるが、専門的知識があるわけではないのだ。
自転車の構造はなんとなく理解しているが、チェーンのかみ合わせの設計図の作成や、
スポークの強度を高める技術は俺にはない。
作れそうなものなんてたかが知れてるぞ。
それに、この市役所の人が多い雰囲気を見るに、すでにいろんな異世界転生が行われた後の世界だろう。
俺が地球人第一号の世界である可能性は限りなく低い・・・
先輩転生者に勝てる特技なんて、レジの早打ちくらいしか思い浮かばないぞ・・・
椅子に座って、事務員天使さんの上司を待っている間に、悪い想像がぐるぐると駆け巡る。
「おまたせしましたぁ。この転生機関の管理人であるわたくし、運命と転生を司る女神ミラが変わりまぁーす♪」
め、女神!?
すごい人出てきたぞ!?