人外先住民に媚びていく。森の中での食事
アルマジロ!?
ざらざらとした皮膚、体長30cmほどの、だ円の甲羅。細い尻尾。短い手足。
やる気の無さそうな半月型の目に、尖ったアゴに牙のついた口。
前世でいうところのアルマジロ。あんまり図鑑とか見たこと無いがたぶんこんな感じだ。
こちらの姿を見ても襲ってもこないようだ。ただしこちらを警戒はしている。
この世界には魔物以外の生き物もちゃんといるらしい。
人を襲わない系魔物の可能性があるが、前世でも居た生き物を見つけて安堵する。
空腹に悩まされているため、地球ではまず考え付かなさそうなことを考えてしまう。
こいつ食べれるのかな。火がないから焼けないけども、甲羅を外せば・・・
アルマジロ?は悲しそうな声で鳴いた
「ヴエエェエェ」
何かを訴えかけてくる。命乞いか?
あ、翻訳魔法!発動してみる。
『てめぇ、何考えてるか顔に出てんぞ、返り討ちにしたるわ!』
とても強気だった。
アルマジロ?には
歯のついた小さな口と、小さな爪しかなった。それで返り討ちにあうのかな。
しっかりと言語を喋っているように見える。
表情はまったく変わらないけど、高圧的な態度も伝わる。
細かなニュアンスも、理解できるのが、翻訳魔法の強みだな。
翻訳魔法を使うにはMPが必要だ。
40/50
あと翻訳できる回数は8回、
しかし、こちらの発言をも翻訳して、伝える必要がある。
動物相手に、説明するべきか。複雑な会話ができるかどうかまだわからない。
いや、翻訳があまりできないということを伝える前に、必要な情報を調べる必要がある。
俺は
『何か誤解があるようですね。俺は弱い人間です。人里に向かいたいのです。
方向を教えていただければ、お礼をいたします』
続けて、
『何か食べ物をとってきましょうか。
色・形・場所を教えていただけると、助かります』
(《話術》lv4を手に入れました。)
対話が条件だったのか、ついでにスキルも入手。
《話術》は会話をつなぐことができるスキルだ。
一息で長文を発言し、一気に翻訳魔法をかけることができるようになった。今ちょうど欲しかったやつである。
《話術》なんて接客業の経験あってこそだな。というより、バイトの時間以外はほぼ人と会話なんてしていなかった。
翻訳魔法のおかげで正確に伝わっているだろう。
しかし、俺の口から出ている音は「ヴぇええええ」
はたから見れば、奇声を発する不審な男。
が、森の中で人目はないので恥ずかしさに耐えて会話を続ける。
アルマジロはふすふすと鼻息をならしながら、
「ヴェェェェ」
翻訳すると
『おう、あんさん言葉わかるんかい!やるやん!よっしゃ教えたるで!ワイの大好物は…』
「ヴェエエエ」「ヴェエヴェエ」
MP10/50
いつくかの発言を翻訳して、このアルマジロの好みという食べられる果実の情報を手に入れた。
どうも、地面近くに生える、蔦を巻く、ギザギザの葉を持ち、白い花を咲かせる、木苺に似た果実らしい。
それがアルマジロの好物の果実。
それは食用果実ということだ。人間の消化器官で食べれるかどうかはまだ不確定だが。
猛毒では無いだろうから、闇雲に生えている実を食べるより格段にリスクが低い。
生えてそうな場所も大まかに理解できた。
日のよくあたる場所で赤い実、草を分けて探さないといけないが、食べ物のためだ、がんばろう!
ついでに人里の方向も教えてもらえるということで、一石二鳥だ。
木々の隙間に、青々とした草むらを見つける。その中に赤色が見え隠れ。
それほど探さずに群生している場所を見つけた。
周囲を観察して魔物の気配を探したが、いない様子。
1つ摘んでみる。
思っていたよりも、赤が強くて、毒々しい。
恐々と1つを食べた。
酸っぱいが甘い!
見た形とそこまで差異なく、イチゴのような味だ!
パクパクと口に放り込んでいく。うまーい!
あんまり食べ過ぎるわけにはいかない。刺激されたすきっ腹を抱えながら、採取を続けた。
30分ほど草木を分けて、木苺モドキは、兜に3分の1ほど集まった。
そのほかに2種類の果実も持っていった。
最初に見つけた、梨にも柑橘類にも見える果実と、
道すがら見つけた木に成っている青い瓜のような実だ。
これも、一緒に提出して、アルマジロの反応で、毒の有無の大体を判別する。
青い実はほかに3個ほど手に入れ、近くにおいている。
梨は大量になっていたので、食用なら後で採りに行く。
『採ってきました。道すがらほかの果実も見つけたのでこちらは好物ですか?』
毒という単語は使わず、毒見をお願いする。
三種の果実をアルマジロの前に並べる。
まずは木苺モドキ。バクバクとがっつくように食べてる。
時よりぺろりと顔の周りについた汁を、舌を伸ばして舐める。
表情はないが、行動が人間臭くて感情がわかりやすい。
「ヴエェ」
翻訳するまでもなく、おいしいのだろう。
木苺モドキを食べ終えた後、残り2種の反応を見る。
ふんっと鼻息をならし、
ぺしっと尻尾で梨っぽい果実を遠ざけた。あれ激マズか、毒だったか。食べなくてよかった・・・
青い果実は、木苺ほどがっついてはいないが、もぐもぐと食べ始めた。
味はよくないのだろうが、食べれる果実らしい。
よし、食料をゲット!残しておいた青い果実を俺も食べる。
アルマジロは俺の取り出した3つの青い果実を一瞥したが、興味ないようだ。
好きかどうか聞いただけだから、自分の分を採ってきてもおかしくないよね。
いただきます。
しゃくっと音がなる。食感はいい。だが、味は茄子を生で食ったような味だ。
おいしくないため、アルマジロは俺が食べても無反応だったのだろう。火がほしい。
空白というスパイスを持っても、嬉々として食べれず、
けれども食べれるだけでもありがたい。俺は青い実を3つとも黙々と食べた。
アルマジロにはお世話になったな。
俺は兜に水ポーションを出す。それをアルマジロに置いてあげると。
走り寄ってきた。意外と早い。
すんと、匂いを一瞬かいだあと、
鼻を兜に突っ込んで、ゴクゴク水を飲みだした。
ぺしぺしと尻尾で俺の足をたたく。
「ヴェ」
表情はまったく読めないが、
行動が人間臭くて、翻訳しなくてもわかる。
『やるじゃねぇえか』だろう?
ここまで読んでいただいてありがとうございます。