やっと森が途切れ。人影を見つける。
森を数時間歩き続けた。徹夜でそんな強行軍ができるのも、耐性スキルのおかげだ。
ようやく見つけた木々が開けた広場から、山の位置が確認できた。
山を背に向けて、歩いていく。そうすれば、森を抜けることができるだろう。
《歩行術》と《忍び足》で歩きながら、《隠密行動》を発動する。
普通は2個でも手一杯になるのだが、《マルチタスク》のおかげで、混乱することなく、発動している。
《マルチタスク》1/5 =2~4つのスキルを同時に上手に操ることができる。さらに、熟練度は減少せず、発動したスキル全てに割り振られる。
本来、熟練度は一番集中しているスキルに割り振られていたが、すべてのスキルに熟練度がたまるようになった。
これは捗りますねぇ!
利便性が高く、スキルレベル上げが加速するのだ。これはチートスキルってやつなのではなかろうか!?
笑みが自然とこぼれてしまう。足取りも軽く前に進んだ。
その後、結局1日中森を歩くことになったが、景色は変わった気がしない。
これ、パニック障害に陥ってもおかしくないんじゃないか。ストレス耐性さまさまだな。
2回の夜を越えた。異世界生活4日目。変わらずまだ森の中である。
お腹が減った・・・
水分は飲めるので、動けなくなるほどではないが、力がでない。
早急に食べ物がほしい、が、
見慣れない植物の生い茂る森の中。食べ物がない。
ほぼほぼ夏と思われる、青々とした木々には、木の実は見当たらない。
というか異世界だから、あったとしても、現代知識では、毒の識別ができないぞ。
うーむ。
当面、食糧問題にかかりきりになりそうだ。
水分が解決しているおかげで、ゴブリンも集まりそうな水場に近づかなくていいのは助かる。
ゴブリンの巣には食べれそうなものがあるかもしれないが、危険行為だ。
今の装備とレベルでは、ゴブリンの巣食う地域に向かうことは死亡フラグである。
となると可能な限り、早く森を抜けて、人の生活圏内に出たいところだ。
森の中を音もなく歩いている。《隠密行動》《忍び足》の効果あってか、何にも出会わない。
自分の歩く音も極少になっているため、静寂が耳に痛い。
途中、投擲用の小石をポケットにつめたり、《観察》で森の様子をチェックしているが
依然、森の中と変わらない。
空腹も極まりつつあり、道に生えてる雑草が食べれるかどうかを考えてしまう。
下手に食べて下痢を起こせば、それも死亡につながる。死亡フラグが立ちすぎでは?
綱渡りであることを再度自覚して。森を歩んでいく。
ふと、変化が現れた。
森が途切れたのか、光があふれる場所を見つけた。
今すぐ駆け出したいが、空腹なこともあり、《冷静》にゆっくりと慎重に向かう。
日の光に目がくらんでいたが、次第に目が慣れてきた。そこには森が終わって―
はいなかった。
小さな崖のようで、高低差が2mほどあり、岩肌がむき出しになっている。
前方には森が続いている。視界の届く限り、森は切れていない。心が折れそうになるな・・・
ここまでゴブリンと競争していたら、転げ落ちて、死んでいたかもしれないな。
そして崖下に、ある死体の隣に、並んで居たであっただろう。
・・・
死体だ!!
第一異世界人、発見!!
死体だけど!
冒険者と思わしき、死体に近づくため、崖を踏み外さないよう慎重に下った。
無事が消したについた俺は、肉食生物が近くにいないか《観察》しながら死体に近づく。
彼は、足が変な方向に下り曲がっており、そのまま身動きが取れなくなって、死んだようだ。
そこまで古い死体ではない。腐った臭いがするが、汚水よりましな程度で、我慢できる。
近くで見ると、冒険者の死体には、獣の爪跡があり、腹は食い荒らされている。
結構グロイ。
しかし、人間の死体を前世含めて初めて見たわけなのだが、
嫌悪感は不思議と無かった。
なにやら、どれかの耐性スキルで軽減されているような感覚がある。
まるで、見慣れたものを見たかのような冷静さに、ちょっと、自分が嫌になる。が
異世界で生きていくには必要なことなのだろう。と割り切って、《観察》する。
そもそも、そんなに驚く元気がなかったのもあるかもしれない。
俺は空腹に支配されていたので、何か荷物を持ってないか探すのに意識が割かれていた。
冒険者さんの持ち物は、腰のポーチくらいだな。
干し肉くらい入っていてくれたらうれしいが、と思うのだが・・・
ふと、手を伸ばそうとしたときに、
”死体漁り”
という単語が頭によぎる。
俺はそんなことをする人間だったろうか。
異世界に来て生まれ変わったんだからそうなのだろうが、なにか運命の岐路に立っている気がした。
数秒ほど、葛藤で動きを止めた俺はしばらくした、のち、
俺は、前を向いて歩みだすことにした。
崖下からは、森の様子が少し変化が見られる。物音しないほど静かだった今までとは違い、
鳥のさえずる声が聞こえたり、どこからともなく、草木が風で揺れる音もする。
確実に森の難易度が下がっている。ゴールに近づいている。
決意を新たに、一歩踏み出そうとしたときに、
「ふぅーっ」
ぞくぞくぞく!!!
首筋に至近距離で息を吹きかけられた!
「!!!!?!!!?!?」
俺は、前方に転がりこけて、後ろを振り返った!
何もいない、が、さっきのは明らかに作為的な吐息だった!生暖かかったし!!
周囲を必死に《観察》して索敵する!が、何も見つからない。
《冷静》が発動しているとは思えないほど、早くなった心臓を押さえ、すぐさま走り出せるように、身構えていると、
(《神の吐息》を手に入れました。)
というアナウンス
《神の吐息》???
今の吐息が、神様のもの??
警戒を怠らないようにしながら、ステータスを開いて詳細を確認する。
《神の吐息》(運命神) =死の運命を回避する。
《運命神ミラ様の祝福》がlv3以上の者にのみ習得できる、限定スキル。
吐息の正体は、ミラ様でした・・・
美人の吐息ゲットだぜ。
つまり神様にヤバイぞっと、呼び止められたようなものか・・・
というか、もっとましな呼び止め方、なかったんですかね?
声が聞こえるとか!警鐘が鳴るとか!!
何で、息吹きかけるんですか!!?
ゴッドブレスって、そんな直接的な意味のものじゃないでしょ!?
それもなんで首筋にするん!?!?おかしない!?!?
なんで、俺、京都弁なん???
どっと疲れたが、このまま進んでは死ぬ場面らしいので、しかたなく、死体を漁ることにした。
うぅ・・・
俺は、死体に手を掛け、腰のポーチを引き抜いた。
(徳(-1)を手に入れました。)
とアナウンス。
俺はこの異世界に何をしに来たのかを回想した。
そう、異世界生活を満喫する。だ。
ついでに、徳を集めて、次の輪廻転生に備えるというのもあったな。
徳かぁ。
父さん母さん
今の俺の徳は-1です。
今死んだら、ゴブリンとかに転生するのだろうなぁ。