逃走中。小鬼、追加です。
ゴブリンはもう目の前まで迫っている!
破れかぶれだ!魔法をそのまま行使した。
「《ポーション生成》!汚水ポーション!!」
手からごっそりぬけたMPを感じて、発動の成功を感じる。
「くそおおぉ!!」
汚水で病気になれええ!!!もしくは水圧で圧死しろおお!!!
手のひらの先から、直径30cm大の灰色に濁った水球が発生した!
すごいファンタジーな光景を自分で生み出したことに感動を覚える。
と同時に
くっせええ!!!!
おええええええ。。。
周囲を、廃棄物処理場を思わせる、強烈な悪臭が周囲に満ちた!
ゴブリンたちも驚いて身構えた!
俺は目にしみるタイプの悪臭を堪えながら、
それを相手に飛ばすように、振りかぶろうと、手を動かそうとしたときに、
じゃばああああと汚水は重力に引かれ、垂直と零れ落ちた。
足元に落ち、汚れた飛沫を撒き散らして、ゴブリンと俺の間に水溜りを作りあげた。
ですよねーー。
ウォーターボールの魔法じゃないんだ。生産系魔法なのだ。
相手にぶつけるてダメージが出るなんてことはなく、なんなら前にも飛ばなかった。
俺は、ズボンを汚した汚水を、唖然と眺めた。のち
「・・・・・・・・・・」
再びゴブリンたちに背を向けて、
森の中を疾走し始めた。
ゴブリンたちも我に返り、何を追いかけていたのか思い出して、
汚水のこぼれたあたりを、鼻を押さえながら、大回りに避けて、また追跡劇を再開した。
がっかりだよ!!!
初めて発動に成功した魔法は、自分が汚れるだけ、と失敗に終わった。
はぁはぁはぁはぁはぁ
逃走劇はまだ続いている。
どれだけの距離を移動したのだろうか、だが、まだ森の中を走っていた。
ゴブリンたちのスタミナはまだ切れないらしく、差は広がらない。
むしろ、ゴブリンが3匹に増えた。
なんでや!ちくしょう!!!
追いつかれるとそこに待っているのは、蹂躙だ。
スタミナが尽きかけているので、抵抗らしい抵抗ができるとは思えない。
やりたくなかったが、死ぬよりはましだ!
ラストスパートのように、最後の力を振り絞って、スピードを上げて
ゴブリンたちとの距離を少し広げた。
そして、
勢い良く、進行方向にあった草の生い茂った藪の中に飛び込んだ。
ゴブリンが藪にたどり着き、飛び込もうとしたときに、
「汚水のポーション!!」
じょばあああああ!!!
草むらに目掛けて、汚水球が滝のように落ちた。
「GYAGYA!?」
「GYUUAA!?」
「GAYAUAGU!?」
周辺に先ほどと同じように、醜悪な臭いが周囲に立ち込める。
やはり、ゴブリンは人間より大きな鼻は、嗅覚が良いみたいで、
より一段、苦しんでいるように見える。
特に前回体験していない追加のゴブリンは、後ろに跳び退いてバランスを崩して倒れた。
かなり怒っているようだ、
ゴブリンは顔を歪めて、絶対にぬれた所を踏むまいと、
周辺を大きく迂回し、今まで走ってきた方向に再び駆け出した。
■
「うげえええええええ・・・・」
ゴブリンが走り去ったあと、用心を重ね、さらに待ったのち、
俺は、頭から汚水まみれになった体を、藪の中から起こした。
苦し紛れに編み出した奇策は、
自分の魔法で自爆するというものだ。
藪の中から真上に発動した汚水球は、下から見上げると、
光の加減で、灰色の中にどことなく緑がかった色合いが見えた。
かぶってみた汚水は、なんだかぬるぬるするような気がした。
汚水で、俺の臭いも誤魔化せたが、精神的ダメージがひどい。
《スラム生まれ》や《ストレス耐性》がなければ、こんな作戦、実行できなかっただろう。
走り始めたときは意識していなかったが、一直線に走っていたのも
結果的にはゴブリンが騙される形となってうまく成功した。
何とか窮地は脱したわけだが、できれば二度とやりたくない手段だった。
のろのろと立ち上がると、汚水場所から少し離れて、服も脱がずに、魔力を手に集め、今度は水のポーションを生成し、頭から水浴びした。
病気にならなければいいんだけど・・・。