死んだコンビニアルバイト。転生希望。
初連載投稿作品です。よろしくお願いします。
人生は何が起こるかわからないし、何も起こらないこともある。
俺、大谷 一は死んだ。38歳だった。それが短いか長いかは人それぞれだが、俺自身の感性からすると、たった38年だった。
心臓麻痺らしい。
三食弁当、慢性的短時間睡眠、仕事以外の運動まったくなし。
いつかはこうなるだろうなとは思っていたのだが、まさかこんな早く死ぬなんて。
てっきり走馬灯みたいなものが見れるのかな、と思っていたのに、見れなかった。
それは、ポックリ寝ている間に死ねたのか、
もしくはたいした思い出がなくて流れなかったのか。
後者だったら嫌だなぁ。
硬いワープロ文字で死因の書かれた紙を見ながら、俺は混乱せず冷静な自分に笑いをこぼしながらソファに腰掛けていた。
生きていたという実感がなかったのか、死亡したというのにそこまで荒んでいない。
人ってこんな簡単に死ねるものなんだなぁっとしみじみ思った。
これは夢で、起きて出勤の準備をし、またいつもの1日が始まる。
となっても、素直に受け止めるだろう。
ここは死後の世界・・・。
この空間を前世の記憶を参照して表現すると、閻魔の間に続く、三途の川といったところか。
この先で天国に行くか地獄に行くかが決まるんだそうだ。
室内にはカウンターがいくつもあり、発券された番号を読み上げるアナウンスが定期的に鳴り響く。
待合室には、俺と同じように死んだ人間だろうか、が長椅子に座って待っている。
想像していたのよりずっと、なんというか・・・
市役所みたいな場所だ。
日本人ばかりのようだが、日本人専用事務局なのだろうか。
自分と同じ、死んだ人間が事務処理されていく光景は、
生前見ていた公共施設の景色によく似ていた。
ただ、外は真っ暗だ。こんな時間に、市役所が絶賛運営してるなんておかしい。
そんな点で、この空間を別物と判断するのもなんか違う気がするが。
「はぁ」
ため息が、無意識にこぼれる。
前世の俺はコンビニバイトだった。
やりがいがほしいわけではなかった。みんな働いてるしという理由でコンビにバイトを選んだ。
お金がほしいわけではなかった。働いていない時間が暇だったので、仕事に向かった。
何のために働いてるわけではなくただ漠然と仕事をしていた。
他には・・何かあったけなぁ。コンビニバイト以外には何もしていなかったんじゃないか?
あぁそうだ。
休みの日はインターネットで小説を読むのが生き甲斐だった。
活字を追っているときは、この普遍的世界から抜け出しているような気がした。
文才のある投稿者が創造する世界観は、何歳になっても、ドキドキワクワクした。
斬新な発想が溢れ、魅力的なキャラがいくらでも居た。俺なんかには、とても真似できそうもない。
俺には文才なんてない。到底真似書くことができないだろう。素直に尊敬する。
毎日あがる新作たちや、古いけれども読み飽きない名作。それを貪るように読んだ。
ランキングを上から順番に読破し、ランダム検索も使いこなして、読了済みと名づけたブックマークに、作品を詰めていった。
無料で手に入る娯楽は俺の金銭欲をさらに削った要因だ。
貯蓄は結構あったはず、通帳なんてここ数年開いてないなぁ。あぁもったいない。
死ぬとわかっていたら、パーッと何かに使いたかった。特に何に使うかはすぐに出てこないが。
そして、身長は高くもなく、体重も痩せているわけでもない。太ってもないけど。
顔も普通。バイトの規則で、髪も染めてないし、髭も伸ばしてもいない。ザ・モブという印象だ。
消極的なモブ。
そんな人間がモテるわけもなく、
年齢=彼女いない歴。
いわゆる絶食系男子なのだ。
はぁ
つまらない人生だったな。
来世はもっとうまいことやれたらなぁ。と何にもならない自己総評をしていると、
ぽーん
『1248番、3番受付にお越しください』
あ、呼ばれた。
ソファに腰掛けていた俺は、周りの目線を気にもせず、3番受付に向かった。
扉も取っ手も、事務室のそれである。お笑いのコントのセットといわれたほうがしっくりくる。
「はぁ」とため息をして、扉をノックする。
「どうぞ」
重い足取りで俺は3番受付と書かれた扉の中に入った。
部屋の中は、とりわけ広いわけでもなく、
机と椅子。あとは書類棚。
机の上にはパソコンと資料のようなものが広げられてある。たぶん俺の何らかの情報だろう。
壁には殺風景ながらも、花なんかもあったりして装飾品もおいてある。
よくある日本の事務室だ。
本当に死後の世界か?というか本当に死んだのかどうか怪しくなってきた。が
部屋の中には、天使が座っていた。
いや、美貌を表現する天使ではなく、まぁ、普通にかわいいんだけど。
事務机に座っている、よくある事務制服の人、事務員である。
そして、頭にわっかが浮いて、羽が生えてる。まごうことなき天使だ。
体格は少し小柄で、猫背になっているが、150cmないくらい。
ピンク色の髪の毛は日本ではまず見ることはできない。
がそれはしっかりと手入れをしているのか、顔の動きに合わせてさらさらと動いてきらめいている。
とてもカツラには見えない。
顔もかわいいし、欧米人というわけでなく、目がくりっとしている。
総評。事務員天使さんだ。
ファンタジー世界から抜け出してきたかのような存在が日本的事務室にいる。というアンマッチ感に、俺は部屋に入ったところで立ち止まった。
思考も肉体もフリーズしていた。
そんな俺が目に入ったのか、
「どうぞ」
と事務員天使さんが椅子を勧めてくれたので、俺は彼女の対面に座った。
事務員天使さんは手元の資料を見ながらパソコンのようなものに何かを記入していく。すごく早い。
座って姿勢を正していると、事務員天使さんが、営業スマイルを放ちながら、手を止めずに私に言い放った。
「あなたの一生は特に悪事を働いていないようですし、天国に行くほどの善行も積んでいないようですね」
と、俺の一生を一行でまとめてくれた。
「はぁ」
なんとも答えることができずに、俺はあいまいな返事をしてしまう。
いや、こうなってしまうのはしょうがなくない?
「こういった人間は通常、輪廻転生に流されるんですが―」
にこっと俺に笑顔を向けてくれる事務員天使さん。かわいい。
「おめでとうございます。」
おや?この流れはまさか?
事務員天使さんは手を止めてこちらに目を向けてくれた。
「あなたは、転生基準を満たしています。異世界転生をご希望ですか?」
おぉ!やった!
まさか夢にまで見た異世界転生が自分にも訪れたなんて!
死ぬ数日前にも読んでいた小説と、同じ展開に俺は興奮してしまう。
もう夢だとしてもこれを断ることは俺にはできない。
俺は冷静なフリをして、了承の旨を事務員天使さんに伝えた。
「お願いします。」
事務員天使さんは断られないことでうんうんと頷いて、パソコンを操作し始める。
「では、今世の徳を転生ポイントに換算しますね。」
そのとき俺の表情がゆがんでしまうのを自覚した。
あ、嫌な予感が。
転生ポイントの言葉の意味を想像すると、
異世界で活躍できるようになるスキルを習得するためのものだろう。
つまり、多ければ多いほどいい、チート能力はさぞかしポイントを必要とするに違いない。
で、何が嫌な予感かというと・・・
「!・・・」
事務員天使さんは画面を見たままフリーズした。
申し訳ない気持ちになる。俺のせいで営業スマイルにヒビが入ってしまった。
俺の人生だ。俺が一番理解している。すごい恥ずかしい。
具体的にいうとすごい数値が低いんだなと自分でも思う。善行なんてぜんぜん積んでないのだ。
ドラマのように電車の中で酔っ払いに絡まれている女性も助けなかったし。
町のごみ拾いにすら参加したこともない。
雨の日に泣いている猫も助けなかった。いや、そんな場面には遭遇しなかったけど。
数秒後、事務員天使さんは再起動して、こう言った。
「0ポイントですね。」
少ないとは思っていたけど、0かよ!?
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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ある程度書き貯めがありますので、最初は数話ずつ。
今日中にいくつか投稿します。
書き貯めが尽きたら、その後は2日に1回の投稿ペースでやっていこうと思います。
よろしくお願いしますー!