特訓2
「おし、とりあえず落ち着いたか」
特訓が始まってからかれこれ23時間ほどたっている。
終了まであと1時間のところでようやくこの身体に慣れてきた。
「それにしてもここを見つけてなかったら大分危なかったな」
谷を駆け回りながら戦っている最中、たまたま魔物が入ってこない場所を見つけた。
どうやらここに大量に群生している花は猛毒を持っているようで、表面に毒液がしみ出ている。恐らくこれが魔物が近寄らない原因だろう。
俺はエクストラスキルのクリスタルボディのおかげでこの危険地帯を安全地帯にすることが出来ている。
クリスタルボディ様様だな。
このEXと表示されているのはどうやらレア度みたいなものらしい。スカビオサに尋ねたところレア度はSSまでしか知らなかった。
レア度が高いほど強力なので、もしかしたらEXはSSよりも良いのではないだろうか。俺が知っているSSのスキルの効果から考えてもその可能性は高い。
「よし、残りあと1時間だしラストスパートかけないとな」
この特訓が始まる前にスカビオサと最後の1時間は全力以上を出すという追加ルールを決めた。なるべく早く強くなりたいと言う俺の要望に応えてくれたスカビオサには感謝だ。
俺は今までの約2倍のペースで魔物を狩っていく。
レベルは自分より弱いものを狩っていくよりも、少し無理をして強い相手を倒した方が上がりやすいが24時間も無理をしていたら体が持たないので今までは少し抑えていた。
だが、ここからは出し惜しみは無しだ!
―――――――――――
「おかしいな…この辺りだけやけに魔物がいない」
苦戦するも相手の弱点をつきながら順調に倒していき、ついに残り10分になった頃、今まで波のように襲ってきていた大量の魔物がいなくなっている。
何故だろうと魔物を探していると
「……っ!!」
俺は体の動きを止めた。
否、思わず止まってしまったのだ。
俺の視線の先には首が2つに分かれている大蛇がいた。
その体を覆う妖しげに光る紺色の鱗、3つのうち1つの頭は、紅い眼球に2つの瞳がある、いわゆる重瞳というものになっている。
そして何より目がいったのは、額にある青い玉のようなもの。その玉からは痛いくらいの殺気が滲み出ていた。
何故だろうか、俺はこいつの名前を知っている
「……神蛇ナーガ」
「「「SURRROOOOOOOOOO!!!」」」
…まずい
あれはやばい
近付くな
逃げろ
逃げろ
逃げろ!!!
その圧力に全身が危険信号を出しているのが分かった。
逃げろ!!!!!
俺は逃げ出した。今の自分が出せるであろう最高速度で。回らない頭を必死に回して逃げ延びるための策を考えた。
もし、追いかけてきたらどうやって逃れようか……という最悪のパターンを想定するが、死ぬ以外の結果は思い浮かばなかった。
逃げて逃げて逃げて逃げまくった
気がつけばラストスパートをかける前にいた安全地帯まで戻ってきていた。
後ろを振り返ってみるとナーガの気配はしなかった。
「は、ははは。」
自分のうるさく鳴り響く鼓動を感じながら俺は乾いた笑いしか出すことが出来なかった。
「なんだったんだ…あれは…」
明らかにレベルが違いすぎる。いや、違うなんてものじゃなかった。この谷にいること自体が間違っているように感じる程別格の生き物だ。
出会った瞬間何も考えられなくなった。あれだ、蛇に睨まれたカエルになったような、まさにそんな気分だった。
魔物が急にいなくなったのはあいつが原因だったか…
たが、なんで俺はあの蛇の名前を知っていた?人間の時だってあんなn…「しゅうーーーりょーーーー!!!」
突然、思考を中断させるように特訓の終わりを知らせながらスカビオサが降りて来た。
「特訓はこれで終了!フリージアお疲れ様!!」
前足でガッツポーズをするスカビオサ。俺はなんて空気を読まない登場の仕方なんだ、と思いつつスカビオサにお疲れとだけ応えた。
「あら?どうしたの。心ここに在らずって感じだけど。何かあった?」
実は…とあの魔物について話すとスカビオサは目を見開いて、
「あら!!もうそんなに奥深くまで行ってたの?凄いじゃない!!」
「は?」
考えていた斜め上をいったスカビオサの反応に驚きを隠せない。
もう少しさ、え!!大丈夫だったの?!とか、怪我はない?とか、そんな恐ろしい魔物が…?!とかあるだろ!
なんで驚きの方向があの蛇の存在じゃなくて俺の進行度なんだよ!
「え、なに、スカビオサはあの蛇の存在知ってたのか??」
「ええ、知ってたわよ?あの魔物の名前は神蛇ナーガって言うわ」
さらっと答えるスカビオサ。しかもちゃんと名前もご存知だったようで。
「じゃあなんだ、あのどう考えても下手に立ち向かおうとすれば一瞬で俺の命が散るような相手がいるとわかった上であの谷を特訓場にしたってことか?」
「いやぁ、ははは。……フリージアったらスキルもステータスも良いし、のみこみも早いし、特訓前にやった魔物を狩る練習もセンスがあったから……ついね?」
………鬼だ。おい、ここに鬼がいるぞ。誰か討伐してくれ。いや、猫か。
「ま、まあまあ!そんなことより疲れたでしょ?ご飯にしましょ!」
そんなこと……まあ詳しくは後で聞こうか。ご飯なんて言うから忘れていたお腹の虫もなきだしたことだしな。