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全てを失った魔物





ここは森。弱いものは淘汰され、強い者は受容される。人はこの森にとって弱者とされ、今はもう誰一人足を踏み入れることはなくなった。

人々はこの森を「無慈悲の森」と呼んだ。


今日は新月。森を照らすものが無くなりほとんどの魔物は身を潜めている。

そんな静かな森の端では………






ハアハア...



「どうして...なんでこんなことに...」




金色に光る目と三又に分かれた尾をもつ猫の魔物と





「GYYYYYAAAAAAAAAAA!!」





鋭い牙を光らせる狼の魔物の群れが駆けていました




「くっ!追いつかれるなんて...私も大分鈍ったわね」



地面を踏み込んでスピードをあげる度に腹部の傷から吹き出る血が敵に居場所を知らせる。


狼の魔物は巧みな連携で猫の魔物を追い詰めていた。



「「「GRRRRRRR」」」



猫の魔物の前方は塞がれている。背後には崖があり谷底には川が流れていた。


既に何度か攻撃をうけ、体はボロボロだ。

後ずさりをした瞬間、猫の魔物の足元が崩れる



「きゃ!!」



浮遊感。地につかない足。逆さになっていく身体。その不快感に取り込まれ魔物は意識を手放した



























なんで...こうなったんだろう


  『どうなったんだっけ?』


あの人が死んでしまった


  『それはしょうがないよ。病気でしょ?』


あの子も死んでしまった


 『産まれた時を狙われたんだ、仕方ないよ』


私は守りきれなかった


『あんな群れで襲われたら無理だよ。君は悪くない』


仇も取れなかった


『現役はもう引退してたんだから無理もないよ。』



私がもっと最善策を打っていれば



『いや、あの時の最善策は打ったはずだよ。


 ああ、でもきみが幸せなんかに目を眩ませて気を抜かなければ守れた命もあることは事実だね』




ごめんなさい



『誰に謝ってるの?謝ったって何も帰ってこないよ』



ごめんなさい



『ほら、言ってるよ?もっと生きたかったって

どうして君はまだ死んでないんだって』



ごめん...なさい



『ねぇスカビオサ。全てを失った君に生きる理由はあるの?』


…………



『どっちでもいいけどね。僕はきみの意思を尊重するよ。

僕はただ見ているだけだから。』


…………




『まあ死にたくないなら生きててもいいんじゃない?』



『さあ、選んで?』



わたしは...










































「こ...こは...」



 猫の魔物が流れ着いた場所は無慈悲の森の休憩所セーフティポイントである湖。

 ここでは暗黙の了解として戦いなどが禁止されている。



「あの川はここに繋がっていたのね」



身体を起こすと綿毛の様な形をした物体がふよふよと舞った。



「きゅぴぃ!」



「あら?ヒールフルッフじゃない。こんなに集まっているなんて珍しいわね」



 ヒールフルッフとは綿毛種の魔物である。


 生き物の感情を主食としており特に安堵や安らぎの感情が好きなので怪我をしている生き物を見つけると治療するという習性をもつ。



「この辺りはヒールフルッフの生息地になってるのね。おかげで出血死せずに済んだわ。ありがとう。」



 猫の魔物はヒールフルッフに礼を言って、湖の周りを探索すると鉄臭さが鼻についた。



「...!私以外の血の匂いがするわね...どこかしら」



 匂いを感じた地点から丘の方に500mほど進むと、そこには深い傷をもった美しいドラゴンが倒れていた。



「どら、ドラゴン?!なんでこんな所に!」




 ドラゴン種は広い範囲で分布しておりその土地にあった特性をもっている。


 しかし、通常ドラゴンは森の奥深くや火山の中、氷河の中など他の魔物や亜人を寄せ付けない場所に住んでいるはずなのだ。




スカビオサが驚いているとドラゴンは目を開け、ゆっくりと身体を起こした。



「貴方は...?」



「私?私は...スカビオサよ。

あなたは?何故こんな所にいるの?」



「貴方は私を襲わないの?」



「安心して。私は意思疎通が出来る相手を問答無用で襲うほど野蛮ではないわ」



「そう...。

私の名前はサン。ちょっと訳ありでここに来たの…グッ…ゴホッ!」



「ちょ!てゆうか驚きすぎて忘れてたけどその傷どうしたの!ちょっと見して!」




スカビオサは吐血したサンに駆け寄る


 サンの腹部にある傷は深く、ドラゴンの体についての本格的な知識はないスカビオサが見ても、内蔵器官にまで届いているであろうことは明白なほどであった。




「酷い...。ちょっと待ってて!ヒールフルッフを捕まえてくるから!」



「待って!」



サンは急いで戻ろうとするスカビオサを止めた。



「いいの、自分の状態は自分で分かっているわ。私はもう永くない。」



「そんな!諦めたら!」



「それにあの子達にはこの傷は治せないわ。


…ねぇ。スカビオサさん。貴方に勝手な頼み事をしてもいい?」



「頼み事って...」



「この子を守って欲しいの。せめて1人で生きられるようになるまで」




そう言ってサンは横たえていた翼を持ち上げた。

 翼の下から綺麗な黄色と青と緑の卵が姿を現した。そしてサンはその卵をスカビオサに渡す。




「これは...」



「その子の名前はフリージアっていうの。

 私の故郷に綺麗なフリージアの花畑があってこの卵の色と似ていたから。我ながら安直な決め方だけれどね。」



 恐らく相当な激痛が走っている筈のサンの表情はまるで安らぎの地にいるように穏やかな顔をしていた。


 だが、もう体を支えることすら難しくなったのか徐々に体を横たえる。



「なんで、私に?今あったばかりの他人に……。同情しているように見せかけた頼み事を果たさない様な奴かもしれないじゃない」



「…そうかもしれないわね」



「それじゃあなんで」



「……気付いてる?スカビオサさん。あなた、今にも壊れそうな、絶望で押しつぶされそうな…そんな顔をしているわよ。」



「っ!!それは。」



「分かるのよ。私も、同じだったから…。


 っげほっごほっ!…もう時間がない。私の記憶を貴方に託します。」



サンの身体から出てきた光の玉がスカビオサの頭に吸い込まれる



「これ...は、記憶...?もしかして、貴方の?」



「この子を……お願いしますね…」



「サンさん?サンさん!しっかりして!」



そこで声は途切れた。



「そんな、よりによって何も守れない私に……」



スカビオサは手元に残る卵をみる



「...わかったわよ。守る。今度こそ、もう間違えないから...」



スカビオサはその卵を抱きかかえ、湖へと引き返した

闇の様に黒い目には確かに光が宿っていた。





 そのためなら私は………!

























『それが君の選択だね』






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