人間を辞めた男
修正しました
光も暗闇も何も無いまっさらな空間
こ こは ?
ああ、憎い
こんな意味不明な場所に居るというのに俺の頭はそれで埋め尽くされている。
しかし、それでいて酷く冷静になっていることは自覚している。
―聞こえるか稀有な運命の者よ―
…だれだ?
―神の管轄下から抜け出すとは流石に我も驚いたぞ―
神の管轄下?なんの話だ?ここはどこだ?お前は神なのか?
───質問の多い者だ。仕方がない、順に答えてやろう。
まず我は神ではない
この世界には全ての命を廻す存在がいる。我はそれを神と形容している。神は現世で動ける身体を失った魂を冥界という場所へ集め、そこでまた新たな身体を授ける。そうやってこの世界を管理しているのだ。
そしてここは現世と冥界の間。我が生成した空間。ここだけは神の管轄外だ。普通は我以外は来られぬはずなのだがな。紛れ込むなんぞ、それこそ天文学的な確率だ。我も初めてだぞ。
最後の質問は、まあ当たらずとも遠からずというところだな───
最後の質問だけ曖昧なのはなぜだ?
──うむ…我に関しては端的に伝えることは難しいのだ。いろいろと複雑なのでな。今お主に説明するほどの時間がない──
...まあいいか。で、その神から当たらずとも遠からずの貴方は俺に何の用だ?
──ああ。今のお主は魂だけの状態なのだ。お主はステータスというものがあることは知っておるか?──
聞いたことがないな
──ステータスとはその者の情報をまとめた資料みたいなものだ。体力から運、性別や今まで行った行動まで、数値化または簡略化されて見ることが出来る。
例えば剣士の場合は職業に剣士と表示され、スキルというものに剣術というカテゴリーが発生する。
その中に技などが分類される。剣士の中でも力で押し切る奴もいれば、ヒットアンドアウェイで戦う者もいる。それは剣術のレベルつまり熟練度は同じでもステータスに差があるからだ。──
すごく丁寧に説明してくれたな。
つまり、剣術のレベルが同じでも、素早さとか筋力とかの数値の違いで可能な戦法も違うってことか。
それにしてもステータスか。そんなに便利なものがあるとは知らなかった。
──だが、体力だのスキルだのは持っていた身体にあったもので、今のお主には存在しておらぬ。
全ての生物は神にスキルを持つ身体を与えられるのだ──
なるほど、だから生まれた時から職業が決まっているのか。
──話を戻すがここは神の管轄外だ。そして我には神に劣らぬ程の力がある。
お主が紛れ込んだのも何かの縁だ。お主に新たな身体とスキルを与えよう──
本当か!?
──ああ。だが神と違ってお主の魂にスキルを刻み込むから少しスキルを発動する感覚が変わるかもしれんが、慣れろ。それと、体は人間のものではないが──
身体を貰えるだけでありがたいのだから人間でなくとも文句なんか言わないさ。と言うかあんたはなんでそこまでしてくれるんだ?
──まあ、ただの気まぐれと思ってくれて良い──
…?まあいいか。それでどんなスキルをくれるんだ?
──それは身体を貰ってからのお楽しみだ。ステータスと念じればステータスが見れる。詳細はそこから見るんだ。
しかし転生という形で力を授けるのは初めてでな何かしら変化があるかもしれんがな。
お主は二度目の人生どう過ごすか…もう決まっているのではないか?──
ああ!決まっているとも!
──そうか……いずれまた会うことになるだろう──
ああ、ありがとう。
──ではな──
元々まっさらだった空間がさらに白く染まる
これで……俺は………
遠く遠く。俺の意識からさらに遠く。
よく見た景色。よく見た空間。そこはとても懐かしい風景。
そこに映る人は料理のための服を着て、そこにいた俺が座っているのは机と対になる模様をあしらった椅子の上。
「母さん。」
「ん。なあに?」
「どうして俺を助けたの?…俺は、その…本当の子供じゃないのに。」
そう聞くと母だった人は少し困った顔で言った。
「どうして、かー。それはね?――――― 」
俺は………