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大罪人となった男


「久しぶり、母さん」


 俺は今王都から少し離れた故郷に帰り、母親と数年ぶりに顔を合わせた。


「あら!どうしたの急に。」


「いや、依頼帰りで近くを通ったから顔を出しておこうと思って」


「そう。待ってて、今お茶を入れるわ!」



 バタバタと忙しなく動く母の様子はロベルトに郷愁を感じさせる。



「あ、大丈夫大丈夫!それに、達成報告しないといけないからもう帰るし」


「あらそうなの?次来る時はちゃんといってね。またゆっくり話しましょ!」


「ああ、今度暇を見つけられたら来るよ。じゃ。」


「気をつけてねー!帰るまでが任務よー!」


「もう子供じゃないんだから心配し過ぎだよ」


「なに言ってるのよ、私からしてみればあなたは何時まで経っても子供よ」


「おっしゃる通りだけど」



 て言っても俺はもうすぐ20歳になるし、ギルドランクだってAだし。相変わらずの心配性だなと苦笑いをしながらも変わらない母と会えたことを嬉しく思った。













~冒険者ギルド~



「はい、報告ありがとうございます。


 これでフローさんはGPギルドポイントの合計が1,000,000を超えました。

 さらにフローさんは既にSランク試験に合格していますのでSにランク昇格となります!おめでとうございます!」



「うおお!フローのやつ、ついに人類初のSランクに到達しやがった!」


「すげぇ、Sランクなんて初めて聞いたぜ!」


「いや、人類初なんだから当たり前だろ!」


「これって歴史的瞬間ってやつじゃねえか?!」




 ここは冒険者ギルド。この世界"ネストア"に於く3つの巨大勢力の1つ。


 "カルマ・ナイトウォーカー"が創り上げた冒険者ギルドは【絶対中立】を基本理念として各国々に点在しており、冒険者ギルドの総力をもってすれば国1つ容易く蹂躙出来るであろう。


 そんな巨大勢力を多くの国が領地の各地においているのは彼らが【絶対中立】であるが故。


 決して政治には関わらず、決して権力に屈せず、決してどんな種族でも拒絶しない。



 設立から二百余年。そんな冒険者ギルドにてSランクになれたものは過去に1人も居ない。その偉業をロベルトは齢20という若さで達成したのだ。


 色めき立っているギャラリーはみなロベルトの強さや人柄の良さに惹かれた者達である。



「フローさん、ギルドマスターからフローさんにお話があるということなので2階のマスターの部屋までお越しください」



「分かりました」



 コンコンと扉をノックすると待っていましたとばかりにギルドマスターのザリルが勢いよく扉を開ける。



「おお!フローくんか!」


「ギルドマスター、お話とは?」



「フローくん、そろそろギルドマスターじゃなくて、ザリルと呼んでくれんかのー」



 ザリルとロベルトのこのやり取りは初めて出会った時からずっと続けられている。


 気軽に接することの出来るギルドマスターを目指すザリルと公私混同を嫌うロベルトの攻防。


 ギルドの役員も冒険者も1日1回はこのやり取りを楽しみにしている者もいるとかいないとか……



「もう慣れてしまったので無理です。

で、お話とは?」


「ぐすん…フローくんが冷たいんじゃー」


「………」


「...ごほん。気を取り直して。

 まずはフローくん、Sランクおめでとうなのじゃ!


 実はユラシア国ではSランクになった者がでれば、国王から守護者という称号が与えられる決まりじゃ。


 なので今日から三日後にユラシア城にて、Sランク誕生の式典があるからお主も行かないとダメじゃぞーっていう話じゃ」



 ああ、そう言えばそんな決まりもあったな。


 …ちょっとまて、王から称号を貰うってことは国のためとか言われて扱き使われるとかはないよな?

 それは嫌だな、何とかして防げないものか…



「…わかりました」


「もっと喜んだらどうじゃ?

 守護者という称号を貰ったものはかなり位も高くなるのじゃよ?まあ貴族とはまた違うが。


 あ、それと称号が与えられた後、お主も何か一言言わないとダメじゃから考えておくのじゃ」



「わかりました、ありがとうございます。」



 俺は別に位とか興味ないんだがな…


















「皆様!人類初の守護者が誕生しましたっ!我々はこの大いなる瞬間に立ち会うことが出来たのです!


 守護者フローさんはユラシア国の象徴である神の鐘が鳴った日に生まれたそうです!これはなんという偶然なのでしょうか!まさに今日、その神の鐘は鳴り響いています!我々はロベルト・フローという偉大な人物を生涯忘れることは無いでしょう!!

 

 では、フロー様から皆様へ一言お願いします!」



「俺がSランクになれたのはこの国のみんなが支えてくれたからこそだと思う。ありがとう」



 ユラシア国の歴史に刻まれるであろうこの日のことを当の本人である俺は、冷め止まない熱気と慣れない歓声を全身に受けながら何とか噛まないように言いきることに夢中でほとんど記憶に無いことは内緒だ。









――――――――――――――――




「また、間に合わなかったか…

くそっ!一体だれがこんなことを………」



 資料が広がっている机に拳をぶつける



「調査お疲れなのじゃ。フローくん。状況報告を」



「またダメだった。村は壊滅、村人も全員の死亡を確認した」



「そう、じゃったか...

 これでとうとう4箇所目じゃな…

 フローくんでさえ見つけることが出来ない犯人なんての。なにか、手がかりはあったか?」



「また例の文字だ」



「今度はなんと?」



「  "は"  だった」



 俺が守護者の称号を受け取ってから約3ヶ月程たった頃。

 ここ2週間で4件の村が何者かに襲撃されるという事件が起こっている。


 さらに殺した村人の体を使って肉文字を作るという残酷極まりない行為を繰り返している。

 現在。その犯人を捕まえるどころか犯人についての手がかりさえ掴めていない状況だ。



「そうか……これで文字は全部で

[な][た][あ][は]の4つになるの...」


「ああ...。だが、今まで殺されたのは1つの村に4、5人程度だったのに今回の村は何故か42人全員が殺されている。」


「確かに気になるの...

 また、こちらでも調べておく、フローくんは今日は家で休んどくのじゃ」



「そうですか、わかりました」







 自宅に帰ってもあの事件のことを考えてしまう。


 な た あ は 。この4つ肉文字が何らかのキーワードになる筈だ。


 犯行現場に長くいれば当然誰かに犯行現場を見られてしまう確率が高くなる。そんなリスクを冒してまで作る必要はなんだ?


 文字の規則性は見つからない。ただの目立ちたがりの犯人だという可能性もあるな……



 推測を巡らせていると、扉をノックする音が聞こえた。



「すみません!国王からの使いの者です!フロー様はご在宅でしょうか」


「はい。どうされましたか?」


「国王様から、至急、ユラシア城の謁見の間まで来るようにと言い渡されております。ご同行頂けますでしょうか」


「...?わかりました」


「では、馬車の方を用意しておりますので!

あと、このリングを付けるようにと。」


「これは?」


「王宮内に王族、兵士以外の方が入る際に必要になる証の様なものでございます!」


「...わかりました」



急にどうしたんだ?





―――――――――――――――――




「フローよ、よく来た」


「どうされましたか?」


「最近、巷を騒がせておる事件は知っておるな?」



 あの事件のことか。



「ええ、存じております」


「今のところ犯人の尻尾すら掴めておらぬそうじゃないか。」


「はい。大変不甲斐ないことですが」


「我が国アトラの調査隊の実力は他の国の比ではない。

 そんな調査隊の目をかい潜る程の実力をもつ犯人が居るなど信じられぬことじゃ」



 結局何が言いたいんだこいつは。意図が分からない。



「じゃが、調査隊の内部の情報が分かっていれば掻い潜るなど簡単なこと。そうは思わんかの?」


「つまり、内部に犯人の仲間がいる。という訳ですか」



 そんなこと言われなくても分かっているし、とっくに詮索も行っている。

 わざわざ呼び出したのはこれを言うためか。まったく。



「なるほど。王の言うとうりで御座います。これから王の素晴らしい意見を参考に内部の調査も行います。

必ずや犯人を捕まえてみせますので。」



「…情報を得るにはより高い地位のほうが良いとは思わんかね?調査隊隊長ロベルト・フローくん?」



「...どういうことですか?」



 すると王は玉座の肘掛けを叩きながら勢いよく立ち上がり指をさした。



「とぼけるな!近頃起こっている惨殺事件はお主の仕業だということぐらい調べはついているのだ!」


「は…?ち、違います!」



 とんだ見当違いなことを口走る(バカ)



「その事件の生き残りは皆揃ってお主がやったという証言をしておるのだ!これ以上の証拠はない。


兵士よ!この者を捕らえよ!」



 どういうことだ!?生き残った者達が全員そろって証言?そんな馬鹿なことがあるか!



「そんな、離せ!俺はやってない!

な、力がはいらない...?このリングか!」


「それはスキル封じとステータス10固定というエンチャントがついている伝説級アーティファクトだ。

 お主には勿体ないくらいのレア物じゃぞ?

 残念だったの。」



 何故こんなことになっている?!

 それに王の言っている証拠も.....。裏に何者かがいるに違いないはずだ!



「おい!大人しくしろ!」


「うぐっ!」



 頭に鈍い音が響く



 誰かが.........だれだ...









――――――――――――――――











「おらぁ!」


「ア゛...!」




ジャラジャラと無機質な音




「ちっ、あーあー、ついに声枯れちまったか。つまらねぇなー

てか、まじでムカつく目ぇしてんな。まだ誰かが助けてくれると思ってんのかよっ!」


「...ヴア゛ッ!」




肉が潰れる音




「無理無理ー、もう国民の誰一人お前を信じちゃいねーよ。お前の積み重ねてきた信用も案外脆かったなぁww。


 あ!そうそう!これ言ってたっけ?

 お前のお母様、ついこの間死刑になったよ?


 いやぁ、あれは傑作だったなぁ。

 『フローはそんなことする子ではありません!何かの間違いです!!信じて下さい!』なんて広場で石ころ投げられながら、犯されながら喚いてたぜ?わwらwえwるw


 でも結局俺が遊んでやったら壊れたちゃったけどねぇ」



「!!!オ"マ"エ"!!!」




声にならない声が響く




「ははっ!まだ喋れるじゃねーかっ!」


「グッ!」




骨が砕ける音も




「だってさ!こんな極悪人を育てたんだぜ??そりゃあ殺されないとだめだろ!まだまだ国民の怒りは冷めてねぇ。


 称号授与の時はあんなに讃えてたのに今や毎日王宮の前で死刑コールなんて。

 ぷっ。本当に気の毒だよなぁお前もお母様も。


 いやぁ、それにしてもお母様の死に方は悲惨だった。思わずニヤけちまったぜw」



「ッ……」




自分の何かが崩れる音も




「あーあー、でもこうやってお前を拷問できるのもあと三日かー。寂しいなぁ?」


「……」


「そんなに睨むなって!大丈夫!残り三日も楽しませてやるからよ?


 なぁ、どうしてこんなことになってると思う?

 守護者として華やかな人生を歩むはずだったのに、どこから狂ったと思う?」




「……」




空っぽになっていく音も




「ほら、俺ってこの国の軍のトップじゃん?だからいろいろと知ってるわけよぉ。



 国王がSランクになって権力も持ち始めたお前に立場を奪われるんじゃねえかって無駄な恐怖心を持ってたこととか。


 お前にいっつも結婚したがってた王女が断るお前を殺したがってたとか。


 あの惨殺事件を利用してお前を陥れようとしてた事とか!」



「ナ゛!!!」



「アッハハハハハハハハハハハハハハ!!

 そうそれ!その顔!その顔が欲しかった!

 お前のその顔が見れたんだ。めんどくせぇことを手伝った甲斐があったってもんだ!


 あ、ちなみにね、お前の周りの方々にも沢山協力してもらいましたぁ。」



「ナ゛……」



「いやーバカで嫉妬深いやつは使いやすくて助かるわ!お前のこと邪魔に思ってる奴って結構いるんだぜ?金積んだら快く引き受けてくれたよ!」



「……」




闇が渦巻く音も




「おっと、こんな話してる時間ももったいないし処刑の日までせいぜい楽しんどこうぜ!」




何がが変わる音も








全部聞いていた



何故だろう。痛みも、苦しみも、寒さも、感触さえも


なにも、感じないんだ。



 人には親切に。困っていたら手を差し伸べてあげなさい。悪い人は必ず心に傷がある。それが癒えればきっと考え直してくれるから。そうすればいつか皆平和になれるから。

――だからあなたは皆のために。



そう教えてくれた人は殺された


結局死んだ


あれだけ人を想っていたのに


誰かに狂っていると罵倒されても


困っている人は片っ端から助けた


彼女 のためなら何だって出来た



ギルドで依頼をこなした

守護者になった

調査隊隊長になった


全ては皆のため

皆のためならどんな危険だって冒せた


でも俺は殺される

皆の手で


ようやく分かった


今はただ終わりを待つだけ





暗い暗いこの空間にひとつだけ


なんだろう


手を伸ばせば届きそうなのに届かない




父が魔物に殺された時も。友達がガキ大将に泣かされた時も。母さんが詐欺にあってしまった時も。



今まで感じたことのない、確かな"感情"



どれだけ道具扱いされても、僕という存在は気に留められていないと知った時も、ずっと頑張り続けても意味が無いと知った時も。



感じたことがなかった、ただ一つの"感情"















ああこれが……………〈〈憎しみ〉〉























―――――――――――――――――




―――国民の皆様。とうとうこの日がやって来ました。」









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