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カンティニ編5



 「これがダンジョンか。」


 カンティニから北へ数十分。

 目の前にはレンガ積みの塔がそびえ立っていた。

 上を見上げると、塔の上部は雲におおわれていて頂上が見えない。



 アベルたちと別れて5日が経った。

 いきなり8000万相当の貨幣を貰ってしまったが話し合いの結果、情報収集も兼ねてこの街に来たので暫く留まることとなった。


 なので、この5日間で寝泊まりする家や装備、食料を買ったり、時雨の案を実行していたりとカンティニを拠点に行動するための準備を整えていた。


 その過程で不本意ながらランクが更に上がりAランクになってしまったが。



 そうして5日間という下積みも終え、遂に今日。満を持してダンジョンに挑もうと息を巻いてきたのだ。




「おい、あの白髪の仮面は…」


「ああ、間違いねえ。あれが噂の[白の殺戮者]だ。」


「最近Aランクの化け物を次々狩ってるって話だぜ。」


「俺は伝説のSランクの魔物も倒したって聞いたぜ」


「まじかよ殺戮者半端ねえな」




 少し離れたところで4人パーティの連中がコソコソ話してる内容の通り、俺は龍の模様が刻まれた白い仮面をし、足首まである厚手の黒のマントを着ている。


 マントは最近流行りのファッションらしくあちこちで売っている。

 これは折角お金があるのでお高めの店で買った。


 大衆向けの店のマントとは違う上質な生地に金の装飾がしてあり、金色が入っていても何処か落ち着きがある。



 ちなみに仮面は俺のお手製だ。


 変形で自分のクリスタルを切り取り粉状にしたものをベースに土魔法で大地にある様々な物質を配合し、火魔法で加熱、成形をして模様を入れた。


 配合や加熱は時雨に一役買って貰った。


 記憶を共有してると言っても細かい知識は俺だといちいち記憶を詮索しないと出てこないのでこういう専門的なことは任した方が早いのだ。


 意識はあるのに体が勝手に動くというのは中々面白かった。


 

 そんな訳でもし地球でしようもんなら万人から厨二病扱いを受けるような服装が完成した。


 

 これが時雨が出した案である。



〈ん〜。やっぱ何度見てもいいね!ファンタジーと来たら正体不明の仮面男でしょ!〉



 時雨が謎のロマンを要求した結果だ。


 正直どうかと思ったが意外にもこの作戦は上手くいった。



 この5日間。毎日この服装でギルドを出入りするようにした。


 1日1回はAランクの魔物を換金することでいつも5、6人いる受付嬢全員にも俺の事を覚えてもらったことでいちいち偽の説明をしなくても良いようにした。


 一応Aランクの魔物によって特級ポーションですら治せないような傷を顔中に受けてしまったという設定にして同情を誘っておいた。



 更に副次効果として、白仮面と言う特徴があることで俺のことを知らずに変に絡んでくるやつもいなくなった。


 しかもAランクの魔物ばかり換金したおかげで今や資金は莫大な額となっている。



〈僕も満足!フローも満足!こんなwin-winな作戦続けない訳にはいかないよね!〉



 今までこういう格好をしてこなかった俺には少し抵抗があったが背に腹はかえられなかった。



〈それに凄い似合ってるし!フローカッコイイ!男前!いよっ女たらし!〉



 やっぱり別の案を考えるか……



〈うわあ!冗談だよ!冗談!でも普通に似合ってるよ!〉



 …まあいい。じゃあ早速ダンジョン行きますか。



〈レッツラゴー!!〉





―――――――――――――――――




 ダンジョンに入ってから2時間後。


 現在99階層



 マグマが吹き出す岩場を進む。


 モンスターが現れる。

 水魔法。

 倒す。

 素材が出る。

 回収する。


 この間なんと3秒



 「…何時になったら手応えのあるやつが出てくるんだよ。」



 もうすぐ100階層なのにあの森の雑魚より弱いぞ。



〈仕方ないよー。無慈悲の森の魔物ってこの世界でもトップクラスだったんでしょ。

 そう簡単にそのレベルの魔物が出てたらカンティニというかこの大陸の人族は滅んでるよ。〉



 それはそうだがこんなに弱いとは思ってなかったな。それでもこいつらBランク判定だろ。どうなってんだ。



〈フローの時より格段に人類が弱くなってるよねー。本当にここネストアなの?別の世界だったりしない?〉



 地形も大陸の名前も全く一緒の別世界っていう可能性を除けば、ここはネストアで合ってる筈だが。



〈人単体ではかなり弱くなってるけど代わりに魔科学ってのが発展してるし、これ何百年単位で時間経ってるパターン?〉



 その可能性は…正直、低くはないな。



〈フローにとっては考えたくない可能性だけどね。〉



 …………。



〈……あ!ほら99階層のボス部屋だよ。さくっと倒して100階層に行こ!〉



 …だな。100階層に行けば何かしら変化があるだろうし。



 そう思い張り切ってボス部屋の扉を開ける。


 目の前に現れたのは赤い鱗を持つドラゴン。



「こいつは、ファイアワイバーンか。」



〈いいじゃんいいじゃん!本当のAランクだよ!〉



 過去にも一度戦ったことがあるがなかなかに骨のあるやつだった。


 ついに。戦いらしい戦いが出来る!



 俺は内心うきうきしながら構える。久々の感覚に思わず口角が上がってしまう。


 ファイアワイバーンはまだ動こうとしない。


 ならばこちらから仕掛けさせてもらおう。



 風魔法で体の後方に爆発的な追い風を吹かせ、その勢いを利用して素早く相手の背後に回り込む。


 遅れて振り向こうとするワイバーン目掛けて水魔法による〈名ずけて!超振動切れ味抜群水!〉コーティングの変形させたクリスタルの鉤爪を振り上げた。


 そして振り下ろそうとした瞬間。



「きゅ〜〜〜〜ん」



 目の前にいる凶悪な顔をした魔物が鳴いた。


 ……思わず止まってしまった。


 この振り上げた爪をどうしよう。とんだ間抜けな絵面になってしまっている。

 


〈降伏してるようだし殺さないでおこうよ。

 僕ドラゴンとか好きだから特に目的がないなら。〉



 だが倒さないと次の階層の扉が開かないだろ?



〈開いてるよ?〉



 え?



〈負けを認めたら開く仕組みっぽいね〜〉



 戦闘は?俺のお楽しみタイムは?



〈100階層ならいっぱい出来るって!たぶん。〉



 …仕方がない、先へ進むか。



〈なんか最近、戦闘狂と化してるね…〉



 可愛い声で降伏をしたワイバーンをおいて、今までの物よりもかなり豪華に飾られた扉を開ける。



〈お宝とかあるかな?ワクワク〉



 扉からは光が漏れ、完全に開くと中から溢れる光が薄暗いボス部屋を照らす。かなりの光量だが不思議と眩しくない。


 ゆっくりと中に入っていくと更に簡素な扉が出てきたので開けて入るとそこには黒目黒髪の男がいた。



「ひい!」



 俺を見るやいなや怖がりだす男に少しずつ近づく



「く、来るな!来るな!」



「お前、なんでこんな所にいる。何者だ。」



「お、俺は、このダンジョンのマスターだ!」



「マスター?お前がこのダンジョンを動かしているってことか?」



「そ、そうだ!」



〈あれだよ!ダンジョンを人間が経営してるってやつだよ!ダンジョンマスターものだよ!〉



 ダンジョンマスターもの。ああ、そういう感じね。



「なあ頼むよ!俺を見逃してくれ!」



「…お前が死ねばこのダンジョンはどうなる?」



「し?!お、俺が死んだらダンジョンは無くなる!

 お、お前らも素材が取れなくなって困るだろ?だから見逃してくれよ!」



「ふむ。」



「そうだ。見逃してくれたらあんたに最高のお宝をあげよう!」



「お宝?」



「最高級のアーティファクトだ!売れば数億リンはくだらねぇ!」



〈ダンジョンが無くなっても僕は困らないけどね〜。正直モンスターなんてそこら辺にも全然いるし。〉



 まあ見るだけ見ておくか。



「取り敢えずそのお宝ってやつを見せて貰おうか。話はそれからだ。」



「ああ!お宝はあの右の扉の奥にある!」



 そう言って男が指さしたのはこの真っ白な空間に不釣り合いな薄汚れた扉。



「随分と薄汚い扉だな。」



「あ、あれはあんな所にお宝があるとは思わせないようにするためさ。」



「…なるほどね。」



 そう言ってその扉の前に立ち開けようとドアノブに手をかけた。


 瞬間、扉を突き抜け鋭い刃が俺の顔面向けて迫って来た。



「ふん。」



 俺は紙一重で避け扉に向かって火魔法を放つ。


 放たれた爆炎は扉を突き破っても衰えず進み、扉の向こうの空間を埋めつくし吹き出してきた。


 その炎を止め、部屋の中に入る。



 部屋は丸焦げになっていたが辛うじて解け残った鉄の檻を見ると、どうやらここは牢獄だったらしい。


 部屋には拷問具らしきものが焦げている。

 


〈うわ。あの男の趣味?思ったよりクズだね〜〉



 そこから目線を部屋の奥に移す。


 そこには腕と足の脛が爛れている少女がいた。



〈あの子だね。さっき襲って来たのは。それにしても…〉



 ああ、正直かなり驚いた。


 強めに火魔法を撃ったから丸焦げで即死しているもんだと思っていた。胴体に被害が少ないところを見ると腕と足で防御したか。



 〈仮にそれが出来てもステータスが低いと意味ないんだよね。〉



 今の俺の魔法を受けきるとは、確実に無慈悲の森レベルの強さはある。



 近付くと少女は爛れた足を引きずりながら壁を使って立ち上がった。


 尋常ではない痛みのはずだが少女は顔色を一切変えていない。

 再びナイフを構え、こちらの様子を伺っている。


 俺は咄嗟に構えた。

 その原因は少女の行動や表情からだけではない。



 ステータスを見れなかった。



 いや、見れなかったじゃないな。正確には見破れなかった。だ。



-----------

名前:ノア

種族:人族

Lv1

体力:50/300

魔力:100/100

物攻:80

物防:50

魔攻:40

速度:50

精神:50

スキル


エクストラスキル


称号


-----------



 明らかに俺の魔法を凌げるステータスではない。



〈てことは確実に隠蔽の最大レベルが上位スキル、それに偽証関連を持ってるね。〉



 そうだ。それにスキルレベルをMAXにするのは簡単じゃない。

 前世では俺以外に最大レベルになってるやつはいなかった。



 何者かは分からないが油断をしてはいけない相手だということだけは分かった。



 風魔法で接近する。


「っ!!」


 少女は体を横に逸らしながら握っていたナイフを持ち替え俺の仮面を弾いた。


 ギィン!と鳴る音とともに弾かれた仮面をキャッチし少女に投げる。

 少女はナイフで仮面を叩き落としている間に水魔法を放つ。


 レーザーの様な水柱が少女の手足に小さい穴を開ける。

 動きが鈍った隙に闇魔法で拘束。



「んぐっ!」



 少女はなお抵抗し続ける。


 ミシミシミシゴキッ



 …おいおい。力入れすぎて骨が折れてんぞ。


 それでも尚少女は暴れ続ける。



 こいつは思ってたより重症だ。



 これ以上無駄に抵抗されても困るのでこれまた闇魔法で眠らせる。



〈フロー。ちょっと本気でやった?〉



 ああ、手を抜いてやられるのは嫌だからな。



〈あっさり決まったように見えるけど結構危なかったでしょ。〉



 まさか貫かれた直後の腕でナイフを投げてくるとは思わなくてな。 



 そう思い咄嗟に出した自分の右腕をみる。

 腕には少女が拘束される直後に放ったナイフが刺さっている。


 刺さる直前にクリスタルで覆ったからすぐに光魔法で治せる程度で済んだからいいものの。この防御法を見つけていなかったら腕を突き抜けて心臓にまで達していただろうな。



 なんにしてもこいつはここで殺すのは惜しい。多少強引でも連れて帰るぞ。



〈…ロリコン?〉



 断じて違う。俺は同年代派だ。



〈あはは!冗談だって!〉


 ……取り敢えずあの男は殺すか。



〈賛成賛成ー!〉



 少女の格好を見る限りあの男の命令だろ?



〈隷属の首輪してたもんね。全く、あんな子を奴隷にするなんてとんでもない!〉



 珍しく怒ってるな



〈……あれ、分かる?ってことで殺しちゃお!〉



 牢獄部屋を出ると男は腰を抜かしていた。

 俺が部屋から出てきたことを確認すると軽く悲鳴を上げながらズリズリと後ずさる。



「ま、まさか攻撃が効かないなんて。」



 無言で近付く。



「ひい!す、済まない!今度こそお宝は渡すから!だからどうか!命だけは!!」



 男の目の前で立ち止まる。



「ひ、く、くそ!!おい!ノア!!早く助けろ!」



「あの子は俺が拘束してるから動けねぇよ。」



 そう言って男の両手首を落とす。



「え?あ、あぎゃああああああ!!!俺の!て、手が!?手があああああああぁぁぁぁぁ??!

 ぐ、くぞ!あの役立たずが!!ストレス発散にしか使えないゴミめ!」



「へえ?あの拷問具はやっぱりそういう?」



「そ、そうだ!あんたにはアレもやる!!そこいらの奴隷タフだから長いこと使えるぞ!!だから!」



 両足を落とす



「い、ひぎゃああああああああああああああ!!」



 ありもしない手でありもしない足を触ろうとしながら汚い声を出している。

 男は手のない腕で足のない胴体を引きずり離れようとする。



「な、なんでぇぁ。俺が、この俺がぁこんな目にぃ。」



「教えてやろうか?」



「ぇ?」



 振り向いた男に笑ってみせる。仮面がないから男からもよく見えるだろう。


 ゆっくりと腕を振り上げる。



「あ、あ、あ」



「〈(ぼく)がお前のこと嫌いだからだよ〉」



「ぎぴぁ。」



 振り下ろすと男の頭蓋から変な音が鳴った。




 

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