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第二章 序章




「ひなさん。これ、テストの結果です」



 そう言って僕が出したのは100点の文字が大きく書かれた社会と数学の答案用紙と惜しくも100点を逃したその他の教科の答案用紙。



「……前より点数が減っているじゃない。」



 答案用紙と僕を一瞥して戸籍上は実親である人は言った



「ごめんなさい」



「全く、一応あんたは保護者会会長である私の息子なんだから私を失望させるようなことをするんじゃないわよ。」



「ごめんなさい。でも今回はすごく体調が悪くて、頭痛とかが…」




「口答えする暇があったら勉強をしていなさい。」




「……はい。今後はこんなことがないようにします。」




「分かったらとっとと部屋に戻って勉強しなさい。今日は晩ご飯は無しよ。」



 僕はそそくさとぶちまけられた用紙を拾って部屋に戻る。






 …なんでこうなっちゃったんだろう。




 かつて、捨て子だった僕は孤児院で暮らしてた。そこには何十人も同じ歳くらいの子供たちがいた。


 仲の良かった子達は次々に引き取られていっていつも僕だけが残った。

 そしてたまに引き取られた子が引き取った人と来る。その子たちは皆とても笑顔で幸せそうだった。



 僕はそれがとても羨ましかった。



 だから、頑張った。

 他の子よりも凄くなろうとした。




 頑張って頑張って頑張った。孤児院にあった本を読み漁った。


 中には学校っていう所で使う本もあった。教科書というものだと後で知った。

 全部読んで、全部理解した。


 その事を先生に伝えると今度はもっと難しい本が出てきた。


 それをずっと繰り返した。何回も何回も。どんどん難しくなる本もどんどん理解していった。



 そしてようやく来たんだ。凄く綺麗な女の人が僕を引き取ってくれた。即決だった。



 そして僕はあの子達みたいに幸せになった………筈だったのに。













 小学校を3年生から編入して初めてのテストで僕は満点をとった。

 褒められるかなとドキドキしながら見せると、次も同じ点数を取りなさいの一言。


 もっと、ずっと満点を取り続けたらきっと喜んで褒めてくれるはず。

 そう信じてもっと頑張った。


 …けれどいつまで経ってもひなさんが僕を褒めることは無かった。



 

 ご飯はとても美味しい。僕専用の部屋もある。別に殴られてもいないし、罵倒が酷い訳でもない。家はとても広くて綺麗で、お小遣いだっていっぱいくれる。



 きっと世間一般からしてみたら恵まれている環境なんだろう。






 でも…違うんだ。





シェフに作らせた食事も

監視カメラつきの部屋も

執事やメイドさんしか居ない家も

ホコリ被った最新のパーティ用のゲームも


要らない。





 全部要らないんだ。





僕があらゆる科目を大学教授レベルになるまで勉強したのは

音楽やスポーツ、ゲームのジャンルでさえ一位をとるために睡眠時間を削って周りの大人達から天才と称えられる程になったのは。



 そんなものの為じゃないんだ。













 僕はただ…………あの子達が持っているのが欲しかった。

 あの眩しく燦爛としていたものが欲しかった。






 それだけでよかったのに。

























 



 「ああ……結局、貰えなかったなあ」



 そう言って僕は誰も居なくなった家で自分の喉にナイフを突き立てた。

 








―――――――――――――――





 これは……過去の記憶。




 暗い、暗い、闇よりも遥かに暗い場所。


 果ての見えない闇の中で佇むお前は。



 ……そうか。お前が。




 …なんて自分勝手で悲しい子だ。それ程恵まれておきながらそれを無下にするとは。

 それだけの努力をして功績を残したにも関わらず愛されないとは。




 〈……なんて愚かで悲しい人だろう。それだけ愛を貰っておいて愛をくれた人を守れないなんて。

 それだけ人に尽くしたのに簡単に裏切られるなんて。〉



 〈人間によって無関心で満たされた僕〉


 人間によって憎しみで満たされた俺



 これはどんな偶然だろうか。まさに真逆と言っていいくらいの人生を送った俺とお前が同じ器に居るなんて。



 いや、満たされてはいないのか。

 そうでなければこんなにも感情が入り乱れることはない。





 …お互いを認め合うのに随分と時間をくっちまったな。

 俺が生きていた頃からお前はいたってのに。



 〈でもあの(スカビオサ)のお陰でやっと気付けた。

 愛を裏切られた君の気持ちも理解したよ。〉



 そうだな。愛を与えられないお前の苦しさも分かった。




 今回は協力したんだ。今度はお前に協力して貰うぞ。"時雨"


 〈うん。僕のいた世界の知識を使って。君のためなら喜んで協力するよ。"フロー"〉



 〈……でも、僕達は互いの気持ちは理解出来ても、お互いの考えは相容れないんだね。


 だから僕は君を説得続ける。


 これだけは頭の隅に置いといてよ。"全ての人間が愚かとは限らない"かもしれないってこと。〉



 ……何故?お前だって人から愛は貰えなかっただろ。何故人を庇う?




 〈……僕は貰えなかったけど、確かに見たんだ。愛で満たされた子供たちを。

 君も僕の記憶を持ってる。分かっているはずでしょ?〉




 だが、愛を与えても受け取っても結局は裏切られたんだ。

 分かっているのは俺の記憶を持つお前も同様だ。




 〈そう、だから勝負だよ。


 決着はどちらかが消え果てるまで。〉




 それまで俺達は(僕達は)一つでいよう








――――――――――――――――






 寝苦しい夜に目が覚めた。


 あの日のように暑苦しい夜だ。


 薄紫色の月明かりが俺たちを照らしている。




〈初めまして。フロー。〉



「これからも宜しく。時雨。」



 抜け落ちていた何かが埋まっていく感覚。



 今夜はあの日よりはよく眠れそうだ。





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