できない子。
淡いピンク、カッターナイフ、薬、包帯。
「くっだんな」
ちょっと漁ればそんなんばっかりだ。
充電切れかけのスマホの画面に『愛が足りません』だのなんだのと、どうにもこうにもメンヘラやそれに近しい人間は自分を押し付けたがる。そして共感したがりである。
「……相変わらず香水臭いね、ペペ君」
「うっさいな。ぺぺはこれでいいの。ぺぺはぺぺだもん」
手作り感が無意味に溢れる『WELCOME TO めんたるへるすかふぇ』と書かれた看板がかかった無機質な扉を開ければ、そこに広がるのは真っ白な空間と、独特な甘い香り。白地に黒のメッシュという痛み度外視の髪色な彼の匂いだ。
「今日はちゃんと1限から出るつもりで来たわけ?」
「なわけないでしょ。大体、ぺぺのおかげでこの学校は成り立ってんだから。ぺぺを邪険に扱えるわけないでしょ」
「お金持ちは言うことが違うね、相変わらず」
皇子≪おうじ≫ぺぺ。彼の父親は、海外のスターが泊まったり、よくロケ地として使用されたりと非常に有名な皇子ホテルの経営者だ。また、母親はジュエリーブランドのデザイナーであり、非常に高い評価を受けている。そんな彼の両親は、この星ヶ峯学園に多額の寄付をしているそうだ。
「お前もどうせぺぺの力じゃないくせに、って言うんだろ」
「でも、ペペ君だって広告塔として色々やってるでしょ? 胸張って生きれば良いじゃん、面倒くさいな」
「お前に面倒くさいって言われる筋合いないんだけど」
「ペペ君程じゃないから。仕事あるのにリスカやめられない人と一緒にしないでよ」
そう、彼は自傷癖がある。皇子ホテルの広告塔として舞台やテレビ、雑誌など色々と出る機会があるというのに、一向に収まらない。そもそも彼自身がそういった仕事が好きではないようだから、そういったそういう仕事のせいで酷くなっている感も否めないが。
「ぺぺには痛みが必要なの。ああ、他人から与えられるのは嫌だけどさ」
「身勝手だね」
「ここに来る人大体そうでしょ、お前も込みでさ」
めんたるへるすかふぇは、かふぇと銘打ってはいるが実際はカウンセリング室である。
芸能人や政治家の子供や、社長令嬢など、数々のお金持ちが通う私立星ヶ峯学園。所謂芸能人御用達の学校でもあり、モデルやアイドルなんかも通っている。
そんな学校の奥の奥、管理棟の地下二階にあるのがこのめんたるへるすカフェである。
「そんな身勝手じゃないでしょ、私は」
「んなことない。なんかさ、お前は勝手に行動して勝手に傷ついてるイメージなんだよね。滅茶苦茶迷惑だし、とことん面倒くさい。そりゃ、友達も彼氏もできっこないでしょ。馬鹿だな」
ぐ、と言葉に詰まってしまうのは、あまり言い返せないからだろう。
若干ぺぺに触発され染めてしまった赤い髪。これといって度胸もないのに開けてしまったピアス。本当は見せたいのに、髪を耳にかけることさえできない。自分でも馬鹿な、とは思うが、そんな中途半端な気持ちで行動に移してしまうのが日向日葵≪ひゅうがひまり≫である。
「嫌なとこばっかりつっこまないでよ」