1、
私は神を信じたことはないが、賛美歌は好きだ。
神を賛美する歌詞に思い入れはない。目の前にいない相手への言葉などには興味がない。だが、メロディはいつも私の心を震わせてくれた。
だからだろう。
まだ無事なピアノを見つけたとき、歓喜に震えながら私が弾いたのも、賛美歌だった。
作曲家たちが神を讃える気持ちで作ったメロディに心を寄せ、一心不乱に。私自身は無宗教だが、もし音楽の神がいるのなら、賛美するのに否定的ではない。音楽は確かに私の目の前にある。鍵盤を叩く私の指の先に。
ああ。
この世界では誰もその美しさに耳を傾けなくなったしまったことが残念だ。
私が一人で閉じこもっているこの家から『外』に出れば、そこにいるのは神を忌み嫌う吸血鬼と、言葉も介さぬゾンビばかり。彼らが音楽を嗜む姿は見たことがなかった。
私は一人、ピアノを弾いた。
わずかな備蓄で食いつなぎ、時おり、危険を侵して外出して食料を探した。それ以外の時間は無心にピアノを弾くのに費やした。ああ、飽きることはなかった。何があっても私は音楽を愛し続けるだろう。
そうして何日も、何ヶ月もが過ぎた。
死ぬまで一人でそうしているのだろうと思っていたある晩。
私のピアノに合わせて歌う声を、『外』から聞いた。