表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

#9:クエスト

 なぜなに三時間。


Q.

 実際に盾って背負うだけでも効果あるの?


A.

 ありません。

 武器は武器で攻撃しないと効果はありません。

 盾も盾で受けないとダメージ減しません。

 ただし、鎧は装備すれば露出した部位で攻撃を受けてもダメージ減します。








「あたしはチンケなケチでして。ええ」

「…誰?」


 少年達の秘密の広場を離れ、村に戻ると、不審な男が居た。


 外見から判断すると年齢は50かそこら。

 少し猫背で背は小さく、どこへでも行けそうな身軽そうな男だ。


「向こうでゴーレムと戦っていたのは、お宅らですね?」

「…ちが」「そうです」


 その男は黒い帽子、黒いコート、黒いズボン、黒い革靴。

 シャツだけが白い全身黒ずくめの服装で、この白い世界ではやたら浮いていた。

 見るからに怪しすぎて、逆に悪さをしないのでは? と疑いたくなってくる。


「へえ、やはり。

 それでですね、もし、御札のような物を拾っていたら、買い取らせて頂きたいんですが。ええ」


 不審な男は呟きながら例の機械を取り出す。

 お金のやり取りをするカードリーダーだ。


 もし――なんて言っているが、どう考えても拾った事を知っていそうな態度だ。


「…買取りたい? 何で?」


 サトーには、この男が『emeth』の札を集めている理由が分からない。

 あんな紙に何の意味があるのだろう。


 先ほどゴトーは素材になる。なんて言っていたが、実際にこんな紙一枚に何ができるのか。

 素材として使うには、小さいような気がする。

 集めて何かをするには、リスクと労力が大きいような気がする。


「へえ、それはですね。商会に持ち帰って研究するからですよ。ええ」

「…商会?」

「へえ」

「道具屋とは違うのか」

「ちょっと、ちょっと待って、考える時間が欲しい」


 どうやらこの男は商会の構成員らしい。

 そして『emeth』の札を集めている。

 何やら研究したいことがあるそうだ。


 よくよく考えてみれば、この紙ペラはゴーレムを構成するコアで、なんらかの意味があるのだろう。

 これを調べればゴーレムの事が多少はわかる、かもしれない。

 対策が取れるようになるかもしれない。


「それで、買い取らせては貰えませんかね」


 男はカードリーダーを構えて待っている。

 普通に考えれば売っても問題ないだろう。

 もし売らないのなら、こんな紙は嵩張るだけで邪魔だ。


 しかし男の風貌が怪しい。

 何か悪用されるような気がする。


「売れ、ゴトー」

「だね」


 悪用万歳。むしろお願いしますだった。

 それでこそゲームが面白くなる。


 ゴトーは『emeth』の札を渡した。


「これは、初めて見る札ですね。ええ、150Gで買い取らせていただきます」

「そりゃ初めてだろ。初めて売るんだから」

「…いや、先人が居る可能性が」

「普通に考えればいるけど、ゲームだといないんだよね、それが」


 イトーとゴトーの二人はカードを取り出し、カードリーダーに読み込ませ『受け取る』のボタンを押す。

 受け取り額は一人辺り150Gだった。

 サトーもそれに続く。


 仮に『受け取る』と『支払う』のボタンを入れ替えてあったらどうするんだろう。とサトーは疑う。

 だが、そこまでされたら流石にどうしようもないので、諦めて『受け取る』のボタンを押した。


「またのご縁があれば。では」


 そう言い残して背筋の悪い男は行方をくらました。




#####




「こういう仕組みかー。お金」

「ゴーレムからじゃなくて、あのおっさんから受け取るシステムなのか」

「…一つ気になるのは。……あのおっさん何処から見てたんだ?」


 戦闘を行った池までの道は一本道だった。

 周りには囲むように木と茂みがあり、そこを行き来するのはまず無理だろう。

 それにあの男はこの白い世界で黒ずくめ。

 いくら戦闘中でも三人の内誰かは気づく。


「まあ、そこは気にしなくていいでしょ」

「ゲームのシステムに逐一ビビってたら、ゲームなんて出来ないしな」

「…千里眼持ちって事にするか」


 それはそれで怖かった。


「それにしてもさ、いちいち町に入る度にやるの面倒そうだよね」

「…サル一匹で150Gか、少ないのか多いのか判断に困る」

「少ないだろ。まだ戦闘三回だぞ? もう五時間近くもやってるのに。これから頻度上がってこないとクエスト頼みになんぞ」

「だよね」


 約五時間で三回の戦闘数はRPGとしてはかなり少ない。

 皆無に等しい。

 それにこのゲームはコマンド式のRPGと違って、一回の戦闘時間が長くなるだろう。

 移動にだって時間が掛かる。


 このままのペースでは装備を整えるのもままならない。

 回復薬すらまともに買えなくなってしまう。

 やはりクエストか何かに頼るしかないのだろうか?

 それとも、それ以外があるのか。


 三人のHPは減ったままだ。

 回復手段をどうにかしないと戦闘不能になってしまう。

 システム次第だが死亡だって考えられる。


「すごくどうでも話してもいい?」

「…駄目」

「言ってみ?」

「カバディってさ、「カバディカバディ」言うのが面白いのかよくネタにされてるけど、相撲の「のこったのこった」も大概だよね」


 本当にどうでもいい話だった。






#####






「…あ、わかった」

「なにが?」


 村へ戻る途中、何かを閃いたと言わんばかりにサトーが顔をあげた。声もあげた。


「…大人と子供らの両方を納得させる答えが」

「マジか」


 どうやら雪だるまのクエストの答えが見つかったらしい。

 しかも双方を説き伏せる妙案が。


 先ほどは完全に煮詰まっていただけに、イトーとゴトーは期待した。


「どんなの?」

「…檻に入れて、安全を確保する」

「フツーすぎて、逆にビビる」

「なんかさ、もっとウルトラCで大団円! なのを期待した」


 無茶言うな。とサトーは思った。


「…実際悪くない案だと思うんだが。檻。両方の条件を満たせるし」

「満たしてるか?」


 大人は"危険だから"何とかして欲しいと言う。

 子供は処分しないで欲しいと言う。

 なら、危険じゃなくなればいい。


 それはつまり、動物園のようなものだ。


 野放しにしたら危険だが、檻に入れておけば安心出来る。

 触れ合う事は出来ないが、保護は出来る。

 最低限ではあるが、両方の言い分を満たしている。


「…どうせゴーレムに餌とか世話の必要もないだろうし、まとも世話もできないとなると絶対に飽きる。

 飽きたらどうでもよくなる。絶対に心変わりする。

 その後、処分すればいい」


 人は誰だって、状況が変われば心変わりをする。

 場合によっては信念すら変わる。

 サトーはそう信じている。


「や、ゲームのキャラに心変わりってないと思う」

「だよな。コイツ現実との区別がついてねーんじゃねえの? メガネだから」

「…クソがぁ」


 思春期の男子は辛辣だ。

 言いたいことをオブラートに包まずに平気で言う。


 サトーは少し傷ついた。


「まー、いんじゃね? とりあえずは檻作戦で」

「でもさ、実際のとこ結構問題あるよね、色々。

 たとえば檻を用意するまでの間はどうするの? どうやって拘束するの?」

「…座敷牢がある」


 そもそもサトーがこの案を思いついたのは、座敷牢の事を思い出したからだ。

 二度の座敷牢経験が役に立った。

 あれがなければ思いつかなかった。とは言い切れないが、もう少し時間がかかっていた。


「結構隙間あっただろ。座敷牢。アレはどうすんだ?」

「…大丈夫だろ。多分」


 座敷牢の格子の隙間はそれなりにあるが、雪だるまが通れるほどの大きさはない。

 雪なので変形しながら通れるかもしれないが、目張りでもしておけば大丈夫。


 問題は、檻を新たに用意なんて要求が本当に通るかどうか。

 そこまでの自由がこのゲームにあるかどうか。


 仮に用意出来るのなら、新しく何かを作ることが出来るということ。

 解釈を広げていけば町を作る事すら出来る。


「んー、どうすればクリアなのか明確なものがないとやっぱり不安だね」

「別に失敗してもいいだろ」


 被害者が出なければ、別に失敗してもいいと思うのがイトーとサトー。

 なんとなく失敗することはダメな事だと、強迫観念のように思っているのがゴトー。


 この場合、誰に迷惑がかかるだろうか。

 一匹の雪だるまが、どれだけの被害を出せるのか三人にはまだわからない。







「依頼したゴーレムが行方をくらましたそうじゃ」


 ――クエスト失敗――


 雪だるまは逃げ出した。

 子供達が逃がしたのか、それとも逃げたのか。


 檻での解決策を伝える為に村長宅へと向かうと、開口一番に失敗を告げられた。

 散々頭を捻って出した案には何の意味もなかった。


「ゴトーの所為だろ、コレ」

「えっ」

「…完全にゴトーの所為だわ」

「えっ」


 ゴトーがあそこでサトーの魔法を止めなければ、今頃クエストクリアだったと二人は言う。

 実際にゴーレムを退治してクリアかどうかはわからないが。


 だが、あの段階ではどうなるかの予想なんてまったくつかなかった。

 だから自分は悪くないと、ゴトーは思う。

 少なくとも自分だけのせいでは無いはずだ。


「や、だってさ、二人だって賛成したじゃん」

「…そうだっけ?」

「オレはあそこで殺るべきだって思ってた」

「ひどい」


 状況が変われば人は心変わりをする。

 サトーはそう信じている。

 都合が悪くなれば他人の所為にだってする。


「よいかな? では報酬を渡そう」

「え? あ、貰えるんだ」


 三人の話が途切れるのを待ち、村長はカードリーダーを取り出した。

 クエストは失敗したがクエスト報酬はもらえるらしい。


「500Gだとよ」

「…ガイドに書いてあったから知ってる」


 三人はカードリーダーにキャッシュのカードを読み込ませ、報酬を受け取る。


 ゴトーは失敗したクエストの報酬を貰うという行為に、どこか後ろめたさを感じた。

 中学生のゴトーにはまだ、労働の対価というものが上手く飲み込めない。

 失敗したのに。

 貰っていいのかな?

 まあ、貰える物は貰うけど。



 クエスト報酬の500Gと、サル型ゴーレムの150Gで650Gが増えた。

 これでまた少し買えるものが増えたが、高額の商品を買うには足りない。

 ポーションなどの消耗品だって安くはない。


「それから次の依頼じゃ。

 ゴーレムの逃げた先。森の奥で、2m近いゴーレムを確認した。それも二体じゃ」


 などと思っていたら次の依頼が来た。


「これは自分の所為じゃないよ。……ないよね?」

「つーか、展開はえーな」

「…まだ秘密基地を出てから15分程なんだが」


 脱走から次のゴーレム出現、発見、報告とすごい勢いで話が進んでいる。

 ほとんど一直線で戻ってきたというのに。


 それよりも、2m近いゴーレムというのはどれほどなのだろう。

 モノリスよりは小さいが、人よりも大きいサイズだ。

 数値がわかっているのに想像がつかない。形状もわからない。


 人型のように直立なら2mはそのまま2mだが、四足歩行なら体長がさらに倍以上ある場合だってある。


「あんなのが村を襲ってきたらどれだけの被害が出るか……」




 クエスト――謎の大型ゴーレム――







「どうすりゃ正解だったのさ」


 ゴトーは怒った。

 ゴーレムから目を離したらダメなんて、場から離れるなと言っているようなものだ。


「…規定路線なんだろうな、明らかに。多分」


 おそらくこれは失敗を前提にしたクエストだったのだろう。

 最初に気を引き締めてもらうための。

 そうでなければ、クエスト達成を拒む子供の抵抗が強すぎる。


「…それとも心を強く持てって事か?」


 ゴーレムが逃げるなら、あの場で処理するべきだったのだが、それには子供達が邪魔だった。

 邪魔を押しのける必要があった。


 ここまでやれば三人にも何となくわかる事がある。

 このゲームは普通のゲームとは違うということだ。


 それは単純なものではなくて。


 例えば、まったく同じクエストがこのゲームと、普段やっているTVゲームの両方にあったとする。

 普段やっているTVゲームなら、深く考えずに決定ボタンを押しているだけで話が進むが、このゲームでは意思が必要だということ。


 誰かに話かけるにも意思が必要で、何かをするにも意思が必要で。

 VRのリアリティさは心に負担がかかるようだ。


「まあいいや、切り替えよ。あのさ、森に行く前にポーション買いにいかない? お金も入ったし」

「…自動回復とか無いみたいだしな」

「その設定、前衛職にはマジつれーわ」


 攻撃を受けやすい前衛は、その分HPの回復が必要になる。

 でも自動回復がないから、お金を出して回復する必要がある。


「…そういや、ポーションのクールタイムってどうなってるんだ?」


 サトーはふと、アイテム再使用までの待ち時間の事が気になった。


 もしクールタイムがあれば、そこでまた時間を管理する必要がある。

 もし飲むタイミングを失敗すれば、どうなるか。

 回復する事なく無駄に消費する事になるだろう。


 逆にクールタイムがなければ、飲み放題だ。


 ポーションの値段は、


 30ポーションが一つ30G。

 60ポーションが一つ200G。

 90ポーションが一つ500G。


 となっている。

 コストパフォーマンスで見れば30ポーションが一番安い。

 なので緊急を要さなければ、30ポーションのみを使い続ければ安く済む。

 緊急用に90ポーションを一つ持っておけば、あとは30ポーションだけでいい。


 


 三人は道具屋へ移動した。




「ポーションは1種4個までしか持てないぞ。知らんのか? ん?」


 ポーション屋。

 もとい道具屋でカタログを見ながら話をしていたら、例によって聞いてもいないのに店主が教えてくれた。

 どうやら所持制限があるらしい。


「…計12個か。かなりシビアだな」

「だよね」


 全部使っても720%分の回復だ。

 合計で820%分のHPがあれば多いと思えるかもしれないが、戦闘回数が増えれば途端に辛くなる。

 買い忘れだって大きく響く。


「つーか、なんだよ妖精って」


 店主の話によると、ポーションには妖精が入っていて、5つ以上持つと互いに干渉しあって水になってしまうらしい。

 その為、4個までしか持てないのだとか。


「ちょっと強引な設定だと思うけど、そうでもしないと持ち放題だもんね」


 よく見れば店に売っているポーションポケットという道具も、12ポケットとなっていた。

 


 そして、

 イトーは30ポーションを4つ買い、60ポーションを2つ買った。

 サトーは30ポーションを4つ買い、60ポーションを1つ買った。

 ゴトーは30ポーションを4つ買った。


「あんたら、村長からの依頼を受けてるんだろ? ちょっくらこっちのも受けてくんねえか? な?」


 買い物が終わり、店を出ようと思った所で店主から依頼を頼まれた。

 どうやら依頼は村長からだけではないようだ。


 なんだか便乗されているみたいで気に入らない。


「…サブクエストか」

「どうするの?」

「ここらで金貯めておきたい」

「だね」


 でも三人は依頼を受ける事にした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ