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#2:最初の場所

イトー:14歳、性格が悪い。

サトー:14歳、性格が悪い。

ゴトー:14歳、性格が悪い。








「ハ?」


 洞窟。両サイドに土の壁。

 松明が明かりを灯し、手前には平らな黒い壁。

 奥も10m程で行き止まりだったが、こんもりと小さな山になったボロ切れが落ちている。


 三人の服装は、いつの間にか質素な布の服に変わっていて、何故か大きいカバンも背負っている。

 ボンサックというタイプのカバンだ。サンドバッグを小さくしたような。

 とりあえず邪魔だったので置いた。


「…、……ここ、ど……な?」

「ゴトーの部屋がバグった!」

「え、ここが、自分の、……洞窟?」


 本来ならゴトーの部屋に居て、謎のタブレットでゲームをしているはず。

 しかしここは洞窟で、出入り口も見当たらない。

 三人はパニックに陥った。


「つーか、どこだ、ココ」

「…俺もわからん」

「とりあえず、部屋の中じゃないことはたしかだと思うんだけど」


 だが、3人が3人ともパニック状態の自分以外を見て、少しだけ冷静さを取り戻す。

 しかし冷静になって考えてもここが何処だかわからない。そもそも状況がわからない。


 いつ移動した? どれだけの距離を移動した?

 なぜ服が変わっている? 誰かが着替えさせた?

 持っていたはずのスマホ等も無くなっている。

 例外があるとすれば、サトーのメガネ位だ。


 もしかしてタブレットのボタンを押してから時間が経っている?


「ダメだ、わからん」


 考えてみてもわからないので、三人は見えているものを手当たり次第に調べてみる。

 すると、遮られるように誰かに話しかけられた。


「……落ち着いた? えと、言語は日本語でいい、のかな?」

「ボロ切れが喋った!?」


 奥のボロ切れはどうやら人だったようだ。

 こんもりとしたボロ切れの隙間から顔をのぞかせ、こちらを向く。

 どう見ても怪しい。


「…イトー、気をつけろ。わかった。誘拐だ」

「違うよ」

「ちがうってさ」

「イヤ、何も違わねえだろ。この状況」


 いつの間にかゴトーの部屋から移動した三人。

 そしてそこに居る謎の人物。


 話しかけられた事で、三人はさらに落ち着きを取り戻す。

 それから話しかけてきた人を注視してみる。


 ボロ切れ。薄暗い洞窟。

 座り込んだまま動く様子がないので、背の高さなどはわからない。

 何故こんな所にいるのだろう。


 少し様子を見てみるが、ほとんど何もわからない。

 女のようにも見える。男のようにも見える。


 二次性徴前の少年のような。あるいは少しだけ低音で喋る少女のような。声から判断するのも難しい。


「あの、それで、どちらさまで?」

「…どちら様で?」

「デ?」

「ボクの名前はナヴィ。

 君たちは突然現れたように見えたけれど。……もしかして【プレイヤー】かな?」


 どうやらボロ切れの名前はナヴィと言うらしい。

 明らかに日本人の名前ではないし、どうにも偽名っぽさがあるが、とりあえずナヴィという名前らしい。


 そして、そのナヴィから出たプレイヤーという言葉。

 この言葉が意味する所は……そう、おそらくゲームだ。


 だが三人は、プレイヤーという言葉よりも――突然現れた――という言葉に強い関心を持った。


「突然?」

「もしかしてあのタブレットって、テレポーター的なものだったのかな?」


 しかし、それだと服装などが変わっていることに説明がつかない。


「んな馬鹿な」

「…現実的な話をしろよ」

「えー、そんなこと言ったって、そもそもが現実的な状況じゃないでしょ」


 三人は混乱している。

 理解を超えた状況の為、上手く原因を探れない。

 屁理屈でねじ伏せる事すら出来ない。


「違うのかな? プレイヤー、じゃない?」

「…違います」


 サトーは初対面の人間に何かを聞かれた時、とりあえず否定から入る事にしている。

 それが一番相手に情報を与えないと思っている。

 付け入る隙を与えないというか、相手に主導権を与えないというか。


「つーかなんだ、プレイヤーって」


 そもそもの話、サトー達は現状がよくわかっていない。

 だから、プレイヤーかどうか聞かれても困ってしまう。


「……もしかしたら、君たちはプレイヤーだと気づいていない場合もあるかもしれない。もしよければ、【アポーツ】と言ってくれないかな?」

「…え、いやだ」

「うーん、サトー君は相変わらず考える素振りもなく拒絶するね」


 アポーツとは、遠隔瞬間移動現象のことだ。

 簡単に言うとテレポーテーションや、トランスポーテーションに類するものである。


 遠方から物体を瞬間移動させる時に使う言葉だが、あまり耳にする機会はない。


「…それならゴトー頼む。俺はパス」

「え、自分? 別にいいけど? ちょっと興味あるし」

「終わったな。ゴトー」

「や、あんまりビビらせないで」


 ゴトーは言われた通りに右手を突き出し、【アポーツ】と口にした。

 すると何処からか本が現れた。

 偶然にも手を開いていたので、すっぽりと収まる形だ。


 その本は不思議なことに手に軽く吸い付いているようで、多少動いた位では落ちない感じがする。


 しかし驚いたゴトーは、本を放り投げた。

 すると地面に落ちる前に本は消えていた。


「びっくりした! なにこれ、びっくりした!!」

「…なんだ、今の」

「やっぱり【プレイヤー】なんじゃないか。その本は【アカシック・ガイドブック】のレプリカだ」

「あの、ちょっとタイムください」


 ゴトーは二人を呼び集め、コソコソと内緒話を始める。


「(あのさ、薄々感づいてたけど、これってゲームの世界なんじゃない?)」

「(ゴトー、お前、頭大丈夫か?)」

「(…いや、俺もゴトーの意見に賛成したい)」

「(天パもかよ)」

「(…天パ言うな)」


 サトーはこの不思議な状況になんとなくアタリをつけていたが、言葉にするつもりはなかった。

 今イトーがしたように、頭のおかしい奴だと思われたくなかったからである。

 しかし、ゴトーが口にしたので、サトーも安全圏から便乗することにした。


「だってさ、イトー君……。

 場所も移動してて、服も変わってて、変な本も出てきて、

 しかもそのきっかけが謎の【GAME START】なら、そう結論付けるのが普通じゃない?」


「…そもそもの話。この状況。

 俺らが頭ひねって、納得の行く回答にたどり着けると思わないんだが?

 超常現象力高すぎ」


 イトーは少し考える素振りを見せた後、納得したように頷いた。

 イトーも本当は気づいていたのだ。

 ただ、それを認めるには現実離れしすぎていた。


「たしかにオレらが考えて分かることじゃなさそうだな。

 じゃあこの世界はゲームの世界。そういうことにしとくか」

「…どうせ間違ってようが困るもんでもないし、そう考えておくのが妥当だろ」

「だねー」


 三人は頷き合い、ナヴィへと向き直る。


「…話、まとまったんで」

「そう? ガイドブックのレプリカは、プレイヤーなら誰でも出せるから、試してみるといいよ」

「…アポーツ」


 ナヴィに促されて、今度はサトーが【アポーツ】で本を出し、中を確認してみる。

 ゴトーもイトーもそれに続き、本を出し、中を確認すると情報が多数表示されていた。

 しかも触ればタブレットのように操作も出来る。


 本の中身は状態や先頭ログなど、ページによっても違い、まさしくゲームのメニュー画面といったところだ。


「あ! あった。あったよログアウト」


 ゴトーがまず一目散に探したのは帰る手段。

 半信半疑だが、ここがゲームの世界だとして一番に必要なのは帰る方法。

 これがないと話にならない。


 こんな世界で、いつ帰れないかもわからないという恐怖は思いのほか大きかった。三人とも。そうは見えなくとも。


「消す時は、さっきのように手から離すか、【トラッシュ】と言えば消せるから。それで、君たちはこれからどうするんだい?」


 トラッシュとはガラクタとか、クズとか、本来はそういう意味の言葉である。

 カードゲームをやっている人には馴染み深いが、そうでない人には馴染み深くない。

 とりあえず第二の手札のように思っておけば大丈夫。


「とりあえずこの洞窟から出たいんだが」

「だろうね。でも、出るには入口のモンスターをなんとかしないといけないんだ」

「え? モンスター?」

「…いよいよゲームじみてきたな」


 三人は出入り口であろう黒い壁の方を見る。がモンスターらしき姿はない。

 それどころか扉のようなものすらない。

 どこかに隠し扉でもあるのだろうか。


「そこで君たちに力をあげよう。君たちならきっと」

「なんだ突然? 電波か?」

「まあまあ、イトー君。もらえるものは貰っておこうよ。

 こういうのってゲームの定番だし、きっと必要になるんだって。

 というか強制イベントじゃないの? これ」

「…メタ発言すぎる」


 帰れるとわかった三人はどこか余裕の態度だった。

 楽しむ余裕が出てきていた。


「…俺はこのままログアウトして、おさらばしたい」

「おいおい。このメガネ、とんだチキン野郎かよ」

「だよね。サトー君も楽しもうよ」


 力の受け渡しなどという、怪しすぎる内容にサトーは拒否感を示すが、二人が勝手に決められた。

 そしてナヴィにそれを伝えると、特に触れることもなく力の受け渡しが始まり、あっという間に終わる。

 起こった反応といえば、三人の身体が少し光った位だ。


「受け渡しは終わったね。これで魔法が使えるようになったから」

「え、ちょっと待って。突然ロマンワードが出てきた」

「…魔法が使えるようになった。とは?」


 力の受け渡しとは聞いていたが、三人はそれがどういうものか理解できていなかった。

 なにやら魔法が使えるようになったらしい。

 【アポーツ】による【アカシック・ガイドブック】の出現は魔法ではないだろうか。


 どちらにせよ、腕力などが上昇するわけではないらしい。


「ただし、魔法を使うには武器が必要でね。そこで、次は武器をあげよう」

「至れり尽せりだな、オイ」

「…こいつ、完全にNPCだわ」

「それにしてはAI性能高すぎない? ロールプレイじゃないの?」

「…こんな暇な場所で? 一人で? どんな暇人だ」


 もうすっかりナヴィに対する距離感が壊れてしまっている。


 ゲームだからという意識もあるだろう。

 不自然な状況に、少し酔っているのかもしれない。

 流石の三人でも、現実世界だったら初対面の人間にこんな態度は見せない。


「これがそれだ」


 ナヴィはボロ切れの裾から、三本の朽ちた木の棒を取り出す。


「……イヤ、確かにゲームの基本だけど。こうやって実際に渡されるとすげえがっかりするのな……」

「いきなり伝説級の武器が三本出てきてもびっくりだしね」

「…所詮はホームレスだし、こんなもんだろ」


 ナヴィから渡された品は、武器と呼ぶにはあまりにもお粗末な木の棒だった。

 長さは60cm程度で反りも無く真っ直ぐだ。

 朽ちている割には密度があり、どの程度力を込めれば折れるかわからない程に頑丈そうだった。



「あ、それでですね、魔法ってどうやって使うのですか?」

「魔法には二種類あって、直接飛ばす魔法と、指定した場所で発生させる魔法があるんだ」


 具体的にはこうだ。


 魔法を唱えると武器の先端からその魔法が飛んでいき、モンスターに当てるというもの。

 もう一つは【セット】と唱えると光の球が飛んでいき、その後魔法を唱えると光の球が魔法に変わるというもの。


 その光の球はプレイヤーにしか見えないらしい。

 しかも触れた物体に吸着する為、任意の場所、任意のタイミングで発動させやすいらしい。


「わかったかな?」

「あの、今の段階では、なんの魔法が使えるんですか?」

「それはガイドブックのレプリカで確認すればいい」

「…なるほど」


 ゴトーとナヴィのやり取りに聞き耳を立てていたサトーが、ガイドブックで確認を取る。

 案の定といったところで魔法は一種類のみ。


「…ノック」


 衝撃波をぶつける魔法。それだけだった。


 魔法に属性というものがあるのなら、これは無属性の魔法だろう。

 初期魔法らしく、とてもわかりやすい。

 多分ノックバックとか発生するのだろう。応用も効きそうだ。


「先に言っておくけど、オレ、魔法使わねーから」


 魔法の説明が終わった後、イトーが何故か魔法を使わない宣言をした。


「え? なんで?」

「リアルなファイトを楽しみたいから」


 口にはしなかったが、イトーは魔法の詠唱というのが恥ずかしかった。

 戦闘中に一度だけ――決め台詞のように使うならまだしも、その都度発声するのは恥ずかしい。


 それにもし、魔法にどハマリして日常生活で口ずさむようになったら目も当てられない。

 中学生は多感なお年頃だった。






#####






「オシ、じゃあ一通り揃ったし、こんなとこオサラバしよーぜ!」


 一通りの説明が終わり、ようやくの自由行動。

 イトーはすでにワクワクしていた。

 ゲームの世界。モンスター。冒険。魔法――はひとまず置いといて。

 未知の世界。


「…イトーの奴、盛り上がりすぎだろ」

「や、でもこれは盛り上がるって。しょうがないよ」


 黒い壁へと向かい、駆け出す。

 その足取りは軽やかに。






『―――――――。』


 そして黒い壁が動き出した。

 表面にクラーケンと呼ぶべきイカのような化物が表示され、


 ――リサイクルモノリス・ブラッククリーン――


 文字通り、壁一面の敵が立ちはだかった。


「ちょっと、こういうのは聞いてなかった……」

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