5 返答なし
龍現目掛けて風が吹き付ける。
龍現は金色の瞳を思わず閉じた。風が過ぎ去るのを待って龍現が目を開けたときには神の気配、つまりはスイの気配は完全に消えていた。
随分と気ままな神様なことだ、と龍現は零した。
龍現は常日頃、神主見習いとして和花の社で働いている。その時からちょいちょい、水読尊と呼ばれる村の土地神の気配を感じていたのだ。
境内の池の近くだったり、社の屋根の上だったり。
それが今日、唐突に掻き消えた。何かあったのかと思えば、今度は和花に寄り添うようにして帰ってきた。
龍現は正直、関わりたくないと思った。
和花が昔、神を視ていた子だと知っていたし、その力が不意に戻ってくることもあるのだろう、とも思った。
久しぶりの邂逅を邪魔するほど、野暮な男にはなりたくなかった。
だが。
泣かすのは駄目だ。龍現は一人で思う。
和花は龍現の妹にとても良く似ている。そのせいか、時折過保護になってしまうのだが、龍現自身はそれに気が付いてはいない。
とにかく、そういう理由で、龍現はスイに釘を刺したのだった。
スイが龍現の言葉をまともに聞き入れてくれたかどうかは龍現には確かめる術が無いが。