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16 怖がられているのは

 翌日は雨が降っていた。

 和花は傘を手に、村の外れへと向かう。村外れに住んでいる人からも署名が貰えれば有り難い。

 生ぬるい湿気が和花にまとわりついてくる。湿ったアスファルトの匂いがあたりに立ち込めている。

 実がなって穂先が下がりつつある田んぼを横目に進んでいく。

 舗装されていない道に差し掛かる。雨のせいで、道はぬかるんでいた。

「珍しいね」

 和花は前を向きながら口を開いた。

「そうかい?」

 間をおかず、和花の耳には返答が聞こえた。

 和花の後ろにはスイが付いてきていた。

 滅多に顔を見せてくれていないスイが和花に付いてきてくれている。不思議な行動だ。

 だが、少し考えれば和花にも分かることだった。

 スイは学斗尊から和花を守ろうとしているのだろう。だから、わざわざ付いてきてくれているのだ。

 スイは和花の後をついてくるだけ。きっと、面白くもないだろう。

 和花は黙り込む。スイは何も言ってこない。

 ただ、ニコニコとついてくるだけである。その様子は何とも変なもので。

 和花は落ち着かない気分になる。

 祭りの準備は村長には秘密裏で進んでいる。署名が集まれば、後は問題なく進むはずだ。

 未来は明るいはずなのに、和花はどうにも落ち着かない気持ちになる。

 署名を集めながら、スイを見る。しかし、和花とスイの視線が噛み合うことはなかった。

 和花がスイを見た時、スイは大抵辺りを警戒している。

 スイが和花を見る時は、和花が何かに集中している時だった。和花の真剣に取り組んでいる様子を見て、親のように目を細めて見守る。

 だから、二人の視線が合うことはない。

 そんなことが次の日も、そのまた次の日も続いた。

 雨もまた、降り続いた。

 和花は署名集めを黙々と続ける。

 スイは和花についてくるだけ。

 いい加減、和花が飽き飽きしてきた頃。

 スイが動いた。

 村外れの田んぼのあぜ道に突然、あんずの花びらが舞い踊った。何の予兆も無かったが、スイは完全に対応していた。

 スイの大きな手が和花の手を掴む。そのまま、和花は腕を引かれるまま、スイの胸の中に飛び込んでいるような形になっていた。

「遊びに来たよ、和花ちゃん」

 驚く間もなく、聞いたことのある声が和花の耳に届く。

 スイの雰囲気が剣呑なものになる。

「お呼びじゃないんだが」

 瑠璃色の瞳の中に浮かぶ、瞳孔がスッと細くなる。

 睨まれていない和花の方が怖くなってしまうくらいだ。

「酷いなぁ、そんなに邪険にしなくたって良いじゃない」

 睨まれている本人であるはずの学斗尊は余裕の表情で、スイを煽る。

 スイは動かない。和花に寄り添ったままである。

 だが、正直、和花は現時点で怖いのは学斗尊より、スイである。

 和花はスイの腕を押しのけた。和花を抱きしめてくれている温度から逃れ、雨の中へ飛び出す。

 スイの瑠璃色の瞳がゆっくりと見開かれる。

 和花は来た道を駆け戻り始めた。


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