13 家族
取り残された和花の父親である彰友は茫然としたまま、和花がいたところを見つめていた。
「本当に駄目ねぇ」
廊下の奥から花月が顔を覗かせる。
彰友は困った顔で頭をかいた。口の中で、こんなはずじゃなかったのにな、とぼやく。
「和花ちゃんも和花ちゃんだけど、あなたもあなたよ? 落ち込んでる子に壁を作ってどうすんのよ?」
あきれた様子で言ってくる花月に彰友はかなりのダメージを受けたようだった。
「落ち込んでいる父親には壁作っていいの?」
「馬鹿ね」
しょんぼりとした様子を見せてみる彰友に対して、花月は笑いながら一刀両断にした。
彰友がさらに落ち込んだ様子を見せる。
「子供ってのは馬鹿なのよ。だからこそ一直線なのだけれど。今のあの子には少しだけ考える時間が必要なの」
花月が目を伏せながら言う。
自分の子供に頼ってもらえないというもどかしさは花月も同じようだった。彰友は黙って花月を抱きしめた。
「あなた、本当に馬鹿ね」
花月は静かな声で紡ぐ。
彰友は黙って花月を抱きしめ続けた。ただ、腕に力をほんの少しだけ込めて。
寂しい。
だけど、彰友の役割はほとんどない。和花がこの先、どう道を選ぼうともそれが選んだ道なのだ。
不安がない、というわけではない。むしろ、不安しかない。
だけど、それでも、子供の人生は親のものではない。
父親として、それだけは間違ってはいけない。
そう、心に刻んでいる。
「夕飯作らなきゃ」
花月がそう言って、腕の中から抜け出す。
どいつもこいつも強がりばっかりだな、我が家は、と彰友は苦笑を零すしかない。
そして、廊下に何かが落ちていることに気が付いた。
近寄って拾ってみる。
「……花びら?」
頭の上にはてなマークを浮かべる。
花びらは薄桃色だ。桜に似た花びらの形。しかし、わずかに香る甘い匂いが、それは違うぞと主張してくる。
「これは、あんず……?」
彰友は更に首をひねる。
あんずの花が咲くのは三月上旬から、四月下旬だ。夏真っ盛りのこの時期に咲くはずがない。
しかし、彰友は馬鹿な人であった。
「まあいいか」
落ちていた花弁をごみ箱に入れると歩き出してしまった。花月の料理の準備を手伝いに。